癒しの場所・3 |
「あいつは部下ってだけか?」 「誰」 「タークスの…」 ルーファウスはセフィロスの家のソファで寛ぎながら、ああ、と声をもらす 「ただの部下だが?」 「あいつとはやってないのか」 読んでいた雑誌を閉じてルーファウスはセフィロスを見上げる 「気になるのか」 「まさか」 「じゃあ、エスカレーターでキスをしていた女は?」 「キスまではしていない」 女で、この間違った愛情をなくせるかもしれないと 思ったんだ セフィロスは派手に頭を掻いて暇潰し、と呟く 「で、あのタークスとは、やったのか」 「どのタークス?」 セフィロスは顔をしかめ、ルーファウスは挑戦的な顔をする 「…タークス、何人とやった?」 さあね、と笑うルーファウスを殴り付け、襟首を掴み上げた 「お前はだから汚いんだよルーファウス」 ルーファウスは負けずに雑誌でセフィロスを殴り付ける 「キミは誰でもいいんだろう?なぜ怒る?」 セフィロスはもう一度ルーファウスを殴り、服を破り、首筋に噛み付いた 「い、あっ…きさ、ま…」 抵抗し続けるルーファウスを犯すのは簡単だった ソファでぐったりするルーファウスを横目で見て、セフィロスは頭を抱える 後悔を、した 「う…」 ルーファウスが口を押さえ、這うように洗面台に行く 吐いている セフィロスに後悔が渦巻く 何で自分はこんなことしかできないのか 少し経って、ルーファウスが戻らずセフィロスは立ち上がる まさか、倒れてるのか? 洗面台の方に足を向けると、ルーファウスがゆっくりと歩いてきた セフィロスを見て、ルーファウスは笑った 「気は済んだか?」 手を振り上げると、微動だにせずにルーファウスはセフィロスを見る 「殴らないのか?」 すっ、とルーファウスが手を伸ばし、セフィロスに抱きついた セフィロスの胸は、音が聞こえそうな程早く動いた 「ふざけるな!」 思い切りルーファウスを突き飛ばす 床に座り込んだルーファウスは唇を強く噛んで、それから苦笑した 「ふざけてない」 そう優しく呟き、立ち上がってコートを掴んで、玄関へ向かった 「おやすみ、セフィロス」 ルーファウスが、出ていった セフィロスは自分の髪の毛を強く掴み、奥歯を噛む 「クソ」 床に散らばる血痕に目を細める 「何やってるんだ俺は」 ふと、自分のコートに顔を埋めるルーファウスを思い出す そして自分に抱き付いたルーファウス そういえば、今日は自分の車でルーファウスを連れてきた 歩いているかもしれない セフィロスはコートを羽織りながら、外に走った 簡単にルーファウスを見つけ、窓を開けながら車を寄せる ルーファウスは見慣れたセフィロスの車を無視して歩き続けた 足取りは今にも倒れそうで、危うい 「乗れ、送る」 ルーファウスは立ち止まって、車に乗り込んだ 「痛むか」 「当たり前だ」 「ざまあみろ」 苦笑しながらルーファウスは外した手袋でセフィロスを叩いた まだ傷は生々しく、ルーファウスは時折顔を歪ませる ルーファウスの自宅前で車を停め、セフィロスはルーファウスの前髪に手を伸ばした 突然の行動にルーファウスはびくり、と身を引いた セフィロスは思わずルーファウスの髪を鷲掴みにして引き寄せ、耳を噛んだ 「いっ……」 「おやすみルーファウス」 耳元で囁くと、ルーファウスは耳を押さえ苦笑した セフィロスの声が耳に残る セフィロスの車を見送りながら、少し、涙が出そうになった 「スラムにある孤児院に、副社長を迎えに行ってくれ」 セフィロスは統括からの電話のあと、車に乗り込んだ 孤児院の庭を覗くと、クリスマスソングが流れている 大きなクリスマスツリーの下で優しく微笑むルーファウスが目に飛び込んできた ああ、綺麗だ 胸が、高鳴る それと同時に、胸が痛んで、泣きそうになった 眺めていると子供と何かを会話して、楽しそうに笑った 子供が一人、セフィロスに気付いて走ってきた 「本物のセフィロス?」 「俺を知ってるのか」 「テレビでも新聞でも見るし、ルーファウスお兄ちゃんも話してくれたよ! 強くて優しい戦士だって!ルーファウスお兄ちゃん迎えにきたの?」 セフィロスは笑って、ああ、と答えた 「疲れた」 副社長室のソファで セフィロスがコーヒーを片手に呟くと、隣でルーファウスは噴き出して笑った あの後子供たちに見つかり、セフィロスはやや暫らく子供たちの相手をしたのだ 「子供たち喜んでたな」 カフェオレを飲みながら、ルーファウスは機嫌よさげだ セフィロスはそんなルーファウスの姿を見て僅かに微笑んで、 ルーファウスの顔の生々しい傷に、その僅かな微笑みが消えた 「痛むか」 「なにが」 「昨日殴ったとこ」 ああ、とルーファウスは思い出したように自分の顔を触り、苦笑した 「慣れた」 社内にもクリスマスソングが鳴り響く セフィロスはぼんやりと、ルーファウスの手元を眺めた 初めてルーファウスと関係を持ったのは去年のクリスマス 神羅主催のクリスマスパーティーでのこと セフィロスはルーファウスの護衛をした もうすぐ、1年 この関係は、いつまで続くだろうか いつ、関係を切られるだろうか 「嫌だな」 セフィロスの口から漏れた小さな呟きはルーファウスには届かず ルーファウスは片方眉を上げた 「なに?」 ルーファウスが聞くと、セフィロスはまだぼんやりとしながら呟いた 「初めてお前を抱いたのは、去年のクリスマスパーティーだったな」 ルーファウスは冷めかけたカフェオレに手をかけると、窓へと視線を移した 「そうだったな」 この関係は、精算すべきかもしれない 不毛すぎる ふとセフィロスに目をやると、泣きそうな顔で ルーファウスは心配そうに手を伸ばした 頬に触れると、セフィロスはルーファウスを睨み付けると同時に、涙を流した だから、触れてほしくなかった ルーファウスの襟首を掴み殴り付けると、ルーファウスは睨むでも笑うでもなく、 セフィロスを見る 「なにかあったか?」 セフィロスはルーファウスをソファに押し倒すと、首に手をかける 「ルーファウス」 「なんだ」 「あの顔が見たい」 ルーファウスは苦笑すると、目を閉じて微笑み、手の力を抜いた その夜は、セフィロスはルーファウスに会わずに、家に帰った どうも、顔を合わせにくい 翌日出社すると、ルーファウスの姿は神羅には無い 「ルーファウス様になにか用事か?」 副社長室の前でツォンに会ったセフィロスは、提出する書類を見せた そこで聞いたのは、昨夜ルーファウスがさらわれた事 救出に向かったのはタークス 先程救出され、今は病院で意識がないということ 命に別状はない ただ、いつ起きるかはわからないと いつものように、昨日もルーファウスを連れて帰ればよかった 点滴を受けながら眠るルーファウスには 無数に傷や痣があった その唇に、セフィロスは唇を重ねて、髪を撫でた これまで幾度も、数え切れないほど身体を重ねたのに 口付けをしたのは、初めてだった 「早く、起きろよ」 眠ったまま、ルーファウスがなにか呟いて、微かに手を伸ばすように動かす その手を握ると、弱々しく握り返された その手は震えていた ルーファウスの目尻から涙が零れ落ちる セフィロスの胸が痛んだ 「お前は誰に傍にいてほしいんだよ」 ルーファウスが目を覚ましたのは翌日 退院したのはその3日後だった それはクリスマスパーティーの日 「ひさしぶり?」 ルーファウスはパーティー会場へ向かう為 自宅に迎えに来たセフィロスに首を傾げて聞いた 「そうだ」 セフィロスが苦笑をすると ルーファウスは視線を落として口角を上げた 「なあ…セフィロス、行く前に、抱いてくれないか?」 ルーファウスから求めるのは初めてで セフィロスは驚いて言葉が出なかった 「勿論断ってもいい」 セフィロスはそのままルーファウスを抱き上げると ベッドに傾れ込んだ 「珍しいな」 「そうかな」 セフィロスはそのまま、ルーファウスの衣服を乱した なぜ、ルーファウスは笑っているのに違和感があるのか なぜ自分は胸が痛むのか 病室で涙を流したルーファウスが記憶によみがえる パーティーの間中、上機嫌なルーファウスに セフィロスは違和感を感じる なにか、変わった気がする パーティーが終盤にさしかかると ルーファウスはセフィロスが付いてくる事を確認しながら外に出た 「何処行くつもりだ」 人がいない、闇に包まれた中庭は 雪できらきらと光り、ほのかに明るい 会場からクリスマスソングが聞こえる ルーファウスは雪で玉を作って、セフィロスに当てて笑った セフィロスは楽しそうに笑うルーファウスから、目が離せなかった その笑顔のままルーファウスが雪の中に倒れこむ セフィロスは急いで駆け寄り、ルーファウスを覗き込んだ 「なにやってんだお前」 ルーファウスがセフィロスの手に触れようと手を伸ばすと、矢張り派手に払われて 「セフィロスは、あの時どうして泣いたんだ?何があった?」 様子が、おかしい セフィロスは顔をしかめて見せてから、ルーファウスに背中を向ける 「…好きな奴がいる」 そこまで言うと、次の言葉が続かない 「うん、それから?」 「…支えてやりたい」 別れの言葉? ルーファウスはその質問を飲み込んで、両手で顔を覆った 涙が、流れたから 「本当はそいつを、守りたい」 セフィロスの頭には、ルーファウスがいる 何故ここまできて優しくできないのか 「雪だ」 空から落ちてきた雪に、ルーファウスは笑った ルーファウスを見て、セフィロスも笑った 「起きろ」 セフィロスが手を伸ばそうとした時 ルーファウスは自力で立ち上がってセフィロスを見た 「セフィロス、私たちの関係は終わりにしよう」 セフィロスは顔を強ばらせ、拳を握った 「何故だ?」 ルーファウスは苦笑しながら 首を横に振った 「私も、好きな人を幸せにしてやりたい」 セフィロスは握ったままの拳を振り上げ、ルーファウスを殴り付けた 雪の中に倒れこむルーファウスをそのままに 車へと向かった ルーファウスは倒れたままその後ろ姿を見送りながら、雪を抱き締めた セフィロスは、これで素直になれるかはわからない でも、自分といると彼は、いつも苛々していて 自分の想いがもしかしたら 伝わってしまったからなのかもしれない 彼には、想う人がいると、最初から知っていたから これでよかったんだ ルーファウスはそっと起き上がり 空を見上げた 「さて、戻らなくては」 自分が愛を告白した直後 ルーファウスの口から語られた 薄々気付いていたこと ルーファウスには想う人がいた だから、関係はやめようと自分に言った 確かに恋人同士とか、そういうのではない そんな事ばかりが頭を回り、セフィロスは車のハンドルに頭を打ち付けた 自分はルーファウスに散々甘えて好き勝手してきた だからなのか? 自分が悪いとは、わかっている でも せめて少しくらい、優しくできてから離れたかった 後悔しか、残らない 翌日憂鬱のまま出社したセフィロスは ぼんやりと携帯電話を眺めていた かけられない番号を見つめる 神羅でルーファウスに会うことは、自らその為に行動しないかぎりはまずない ルーファウスの顔には、まだ生々しく傷があるのだろう ルーファウスと会わずに過ごして二週間程過ぎた その間ずっと考えてきたのは、矢張りルーファウスのこと 会いたい 俺は、ルーファウスに会いたい 想いは膨らむばかりだった |
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