癒しの場所・2 |
「副社長、またお怪我ですか?」 ルーファウスの顔のあざに、ツォンが目を細める 「ああ、寝ぼけてぶつけた」 嘘でしょう、という言葉を飲み込んで、ツォンはため息をつく 「もう少し気を付けて下さい。多すぎますよ本当に」 窓に映る自分の顔を見てルーファウスもため息をつく 「…わかっている」 「この階と下の階のエスカレーター故障してますよ」 それなら、業者以外の人には会わないだろう。 ルーファウスがエレベーターではなく、故障したエスカレーターで 降りようと最初の一段に足をのせた時、丁度すぐ下にセフィロスがいた 事務のだろうか、女性と、抱き合っている 誰だろう、あの女は 二人はキスをしようと、顔を近づける がたん、と急にエスカレーターが動きだし ルーファウスは慌てて手摺りを握る手に力を入れた そしてそのままセフィロスのいる下の階に運ばれた 正直焦った セフィロスとその女性が動きだしたエスカレーターを見て、ルーファウスと目が合った 女性は驚きに絶句して頭を下げた セフィロスの表情は変わらない すれ違いざま、ルーファウスはセフィロスを見ずに、呟く 「個室を使え」 またその下の階に行こうと、エスカレーターの足をのせたルーファウスの前を正宗でさえぎる 女性にセフィロスは「戻れ」と言うと、女性は小走りで去った 「退かないか」 セフィロスを見ることもせず、面倒臭そうにルーファウスはため息をつく 「わざわざ俺の前に現れて嫌味か。鬱陶しい奴め」 「鬱陶しいのはどっちだ」 正宗をすり抜けるように、ルーファウスがエスカレーターに乗ろうとすると、セフィロスが 正宗の柄でルーファウスを殴った それは肩に当たった 吹っ飛ばされたルーファウスはまたため息を吐いて、セフィロスを睨み上げる 「あのなセフィロス、君と私では力の差が天と地だ。ワニとウサギだ。 そんな殴られてはいつか死んでしまう」 ワニとウサギ…セフィロスはその比較に若干の疑問を感じて飲み込んだ 「勝手に死ねばいい。俺には関係無い」 子供じみたセフィロスの言葉を受け、そのままの体勢でルーファウスは目を閉じる 「早く追ってやれ彼女」 「あれは彼女じゃないぞ」 「遊び相手か」 「暇潰しにもならん」 セフィロスがルーファウスに寄っていくと、上からツォンが走ってきた 「ルーファウス様、どうなさいました!?」 ルーファウスは歩み寄ろうとするセフィロスと目を合わせ、手のひらを向けた 「ツォンがきた。私は平気だ。キミは職務に戻れ」 ツォンがルーファウスを素早く起き上がらせ、セフィロスを僅かに睨んだ 「なにがあったんです」 「いきなり動きだしたエスカレーターから落ちた。恥ずかしいから秘密にしておいてくれ」 至って普通の顔でルーファウスはツォンを見上げる セフィロスはエスカレーターに乗り、降りていった ツォンがルーファウスの肩に触れると、ルーファウスは顔を歪ませる さすがに、痛い 「ルーファウス様、エスカレーターから落ちた怪我ではありませんよね?」 叱るようにツォンが言うと、ルーファウスは眉を片方上げてツォンを軽く叩いた 「見て見ぬふりくらいできないか、鈍いやつめ」 「荒れてんな、また」 苛つくセフィロスにザックスが言葉を放つ 「なら放っておいてくれ」 「へいへい」 ルーファウスがそこに歩く社員の女性を呼び止めると、 さっきセフィロスとキスをしていた女性だった 女性は固まったように顔を強ばらせ、頭を下げた 「さ…先ほどは、大変お見苦し…」 ルーファウスは苦笑しながら書類で女性の頭を撫でるように叩くと、 女性は驚き、顔を上げた 「咎め立てるつもりはない。ただ、社内では見られないようにしろよ。 これを社長秘書に届けてくれ」 「は…はい…」 ルーファウスが帰宅してシャワーから上がると、激しくチャイムが鳴り響いた ルーファウスは面倒臭そうに施錠を解除した 「お前煩い」 インターフォン越しにルーファウスの声が聞こえ、 セフィロスはため息を吐いて暗証番号を押して扉を開いた 家に入ってくるセフィロスを見ずに、ルーファウスは足のつめを切っている 「毎日毎日、暇なのかうちの英雄は」 「暇なわけなかろうが。性欲処理だ」 あからさまに嫌な顔を見せてルーファウスはバスローブをきつく着こんだ 「今朝したばかりなのにもう溜まったのか」 「エスカレーターでお前を殴ったらな、性欲がわいた」 「変態」 「うるさい、ベッドに寝ろ!」 「性急すぎるわ馬鹿!風呂入れ!」 「随分お利口だな色魔め」 バスルームから上がったセフィロスは すでにベッドにいるルーファウスを見て満足気に笑った 白いバスローブから白い肌が覗いている 「やらなきゃ帰らないだろうキミは。強姦されるくらいなら楽しんだほうがいい」 「楽しませてもらおうか」 セフィロスがルーファウスの肩を押すと、ルーファウスは顔を歪めてベッドに沈んだ 「キミが、殴ったところだ。乱暴にされては痛むんだが」 「ほう」 睨み上げるルーファウスを見て、セフィロスは楽しそうに笑った そしてそこを強く掴む 「いっ…うあ…」 「いいな」 「変、態!」 情事が終わる頃にはルーファウスの肩は熱を持って腫れ上がっていた ルーファウス自身も熱を帯びている 骨が折れたかも 目が回る痛みの中、ルーファウスは目を閉じて痛む手とは反対の手で セフィロスに手をぷらぷらとさせた 「寝る」 汗をかきながら寝息をたてるルーファウスをそっと撫でて、セフィロスは回復魔法を唱えた 夜中に目が覚めて、ルーファウスは肩の痛みも腫れも消えているのに気付く 隣で寝ているセフィロスを見て少し、笑った こいつ、私を回復したな 風呂にお湯を入れながら、ルーファウスは持ち帰った仕事を片付ける 朝 目を覚ますと、ルーファウスの姿はなく セフィロスはリビングへ移動した テーブルには簡単な朝食とメモが用意されている 食事を摂ってから出勤するように セフィロスは笑みをこぼして、椅子に座った 副社長は出張 その話に聞いてないぞ、と心で唱えながら、セフィロスはその兵士の話に耳を傾ける 「副社長いつ帰ってくるんだ?」 「来週らしいけど、副社長怖いから1ヶ月くらいいなくてもいいよな」 「確かにな」 「…俺には言う必要がないと言うことか」 セフィロスはため息を吐いて空を見上げる 1週間が経過した 禁欲生活を送るセフィロスは携帯を握って、ため息をつく 番号は互いに知っている しかし使ったことがない 「あいつは俺に会いたいなんて思わないんだろう…」 翌日、副社長が帰ってきたと聞いて セフィロスは少し、緊張した そしてそんな自分が馬鹿馬鹿しくて笑った 外で身を縮めながら、寒そうに兵士の様子を見学するルーファウスの背中を見つける その背中に、何故か案緒する セフィロスは足早にそこまで行き、自分のコートをルーファウスに羽織らせる 驚いて振り向くルーファウスを見ずに、セフィロスは兵士たちの元へ歩いた 口元は笑っている 隣のツォンが、唖然とする 「まあ…いい心がけ、でしょうか…」 ルーファウスは苦笑しながら袖を通して セフィロスの大きな上着を着た 「単にこれが邪魔だったのかもな」 副社長室に出向き、セフィロスはノックもせずに入った 中にはルーファウス1人で、呆れた顔でセフィロスを見上げた 「行儀悪いなキミは」 セフィロスは無言で鍵を締めてデスクの上に座った 「やらせろ、待ったぞ」 ルーファウスはつい噴き出し、頭を抱える 「無礼すぎる」 「誰ともやらないで待った」 ルーファウスはその言葉に、不思議そうにセフィロスを見上げる 「待ってたのか私を」 はっ、として、セフィロスはまた、つい、ルーファウスを叩いた その行動に顔をしかめたのは叩いた本人で、叩かれた方はその表情をみて苦笑した セフィロスはデスクから降り、ルーファウスを立たせてデスクにもたれさせる 「お前は誰かとしたのか」 ルーファウスは首を横に振ると、そんな暇はなかった、とぼやいた 「挿れる時はうつ伏せにしてくれよ。掴まるところがなければつらい」 「お前のよがる顔が見えないだろう」 「じゃあ夜まで待て」 「待てるか。デスクに掴まれ」 ルーファウスは目を伏せて、少し口角を上げた 俺に抱きつけばいい セフィロスは喉まで出た言葉を飲み込んだ 「毎回毎回飽きないよなキミは」 首を撫でながら、ルーファウスは咳払いをする セフィロスはその姿を見下ろし、ルーファウスから離れる 「飽きないな。お前は辛いか」 「落ちる瞬間は、快感だよ」 デスクから一歩離れたルーファウスが、崩れ落ちるように座り込んだ セフィロスは驚いてルーファウスに寄ろうとすると、ルーファウスが声を出して笑った 「激しいんだよキミは」 セフィロスが副社長室を出た後、 ルーファウスはセフィロスのコートを返し忘れたことに気付いた セフィロスの上着を抱き締め、顔を埋めると、セフィロスの匂いがする 「変態は私かな」 その時またノックもなしにセフィロスが急に入ってきて 固まったルーファウスの顔が青ざめる 見られた? セフィロスは無表情でルーファウスを見る 「コートを忘れたんだが…」 「ノックも、忘れている」 ルーファウスは手の中の上着をセフィロスに放り投げる セフィロスは受け取ると無表情のまま副社長室を出た セフィロスは副社長室の前で足を止めたまま 自分のコートを眺め、ルーファウスを思い出す 嬉しさと共に笑いが込み上げた 外からセフィロスの大爆笑が聞こえ、ルーファウスは扉に灰皿を投げ付けた 「早く仕事しろ!!」 なんて失態だ 「…いい加減、怪我をしないで下さい」 ルーファウスの顔を見るなりツォンがうなだれる 「好きで怪我をするわけではないが、まあ自分の責任だ。気にするな」 「ルーファウス様、こちらの怪我は?」 血がにじむふくらはぎを、ツォンが指差す 「忘れてた、出張先で怪我した」 ツォンは大きなため息を吐いて、立ち上がった 「これは魔法ではもう治りませんね。縫合した方がいい。医務室行きますよ」 「…縫うのか…」 「はい。縫合ですから」 セフィロスが医務室に兵士をつれてきて、ドアノブに手を掛けると中から会話が聞こえた 「見事にぱっくりと開いていますね」 「ツォン痛い、もう少し優しく出来ないか」 「少し…我慢して下さい」 「っ…ツォン!もうそれはいいから早くしてくれ!」 「ルーファウス様…しっかり塗らなきゃ痛みます」 「いいから早くやってくれ!」 「痛みますから、そこに掴まって下さい」 力強くドアを開けるセフィロスを ベッドにうつ伏せになったルーファウスのふくらはぎの傷に薬を塗り 今まさに麻酔注射を刺そうとするツォンが見上げた ワンテンポ遅れてルーファウスもセフィロスを見る 兵士もセフィロスを見ている セフィロスは頭を振って、ツォンに「こいつを任せた」と兵士を差し出す 医療班を待つ間、ツォンは兵士の手当てをすることにした そしてセフィロスは機嫌が悪そうな顔でルーファウスを見る 「卑猥な声上げたのはお前か」 「ひ…」 ルーファウスとツォンは顔を見合わせて笑った 「縫合するのか…お前この怪我どうした」 「出張先で、帰る直前に襲われた」 「医療班はまだか?」 「少し時間がかかるらしい」 セフィロスは手を洗い、消毒をしながらツォンを睨む 「俺がやる。用意をしろ」 セフィロスなら大丈夫だろう、とツォンは用意をはじめた ルーファウスは黙って目を閉じる 医務室でやることか? はっきり言って怖い 縫合を終え、実に大人しくしていたルーファウスを呼ぶと 返事はない ツォンも、セフィロスが連れてきた兵士ももう医務室にはいない セフィロスが片付けをするために歩き出すと ルーファウスの寝顔が視界に飛び込んできた 「コイツ、寝てたのか…」 セフィロスはふふ、と笑って片付けを後回しにして ルーファウスの寝るベッドの隣に座った 「もう少し警戒しろよな」 足が痛まないように布団をかけ、しばらくセフィロスはその寝顔を眺めていた ルーファウスの顔には、自分が殴った痣がある |
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