白3







寒い



息苦しい





暗闇に、クラウドを見た




また、こんな夢を






そのクラウドの、暖かい手が自分の髪を撫でる



こんな夢



夢なら、夢なら…




手を伸ばすと、その手を握られる





熱のせいか


息苦しくて寒くて



熱のせいか


涙が、出てきそうで



「クラウド」




「ルーファウス?」



心配そうに覗くクラウド


優しく触れる手を


私はほしかったから


こんな夢を?








ルーファウスは片手で口を押さえると

固く目を閉じた


声が出ないように、涙が流れないように



「ルーファウス?どうした」



抱き締めるクラウドに、掴まり




会いたかったんだ、と

夢ですら言えなくて




首を横に振る





強く、自分を抱き締めるクラウドの体温がリアルで


ルーファウスは小さく深呼吸をする




大丈夫



「大丈夫」



「大丈夫じゃないだろ」



「大丈夫」




消え入りそうな震える声を絞り出す



鳴り響く携帯を無視して、クラウドはルーファウスを抱き締める



電話を取れ、大丈夫だから、と呟くと、クラウドはルーファウスを小突いた



「熱いな…具合悪いか?医者呼ぶか?」



立ち上がり、離れようとするクラウドの手を掴み、ルーファウスは彼を見上げる



「平気だ、眠りたいだけ」




手が熱い

目が赤い

顔が赤い


その震えた声に、クラウドはルーファウスの熱がかなり高い事を悟る







「寝れるか?」



夢でも眠くなるんだな、とルーファウスは薄く笑う


すっ、と目を閉じて黙り、ルーファウスが寝た振りを続けると


握られていた、クラウドの手が離れて



「クラウド」



呼んではみたものの、声がかすれてうまく出ない

もちろん聞き取られることは無い




ルーファウスは胸の痛むのを気付かないふりをして


きつく目を閉じて手足に力を入れた





静かにドアが開き、閉じる音がした







暗闇に




私はひとりだ






窓の外にも星はなく、ただの暗闇











セフィロス、キミはきっと



もっと胸が痛んだんだろう




今も、傷口は広がり続けてるのだろうか







クラウドのように、みんなから

愛されるべき人なのに













笑顔が見たい























「起きましたか」



太陽の光と、ツォンが見えた



「ツォン、シャワーを…洗いたい」



目を細め、ルーファウスがゆっくり起き上がる

ツォンはその手助けをしながら笑う



「入っていいみたいですよ、明後日退院できます」



昨日よりも軽い身体で、ルーファウスは自分の熱が下がったことがわかる



「…そうか…」


「ベッドで唸る貴方を見た時は、何事かと心配しましたが…軽症でよかった」


「…ベッド?デスクで寝ていなかったか?」


「ベッドで寝ていましたよ?かなり熱がありました」


「君が最初に私を見付けた?」


「ええ…」






一瞬、期待した


夢じゃなかったのだろうか、と


そんな筈はなく、寝呆けながら、自分でベッドに行ったのだろう事は明確なのに



その時、カーテンの後ろから、クラウドが姿を現す




「アンタ、デスクで寝ていたはずなのに、ベッドで寝ていたのか?」



苦々しく微笑み、ルーファウスは首を横に振る



「よくわからないうちに、ベッドに移動したんだろう」




まさか本当にセフィロスが?


一瞬考えたクラウドが

ルーファウスから目を逸らす


考えられない事じゃない

あり得ない事じゃない




「セフィロス?」



小さく口にしたクラウドを

ルーファウスは目を大きくして見上げる



「まさ…か…違う」



クラウドはため息を吐いて目を細める



「アンタさ」



「…シャワー、行くよ」











ルーファウスが出ていった部屋で

ツォンがクラウドを睨むと

クラウドは肩をすくめて椅子に座った




「ルーファウスと二人で話がしたい」



腕組をしながらツォンがため息を吐く

目を合わせずに、近くの椅子に座った








沈黙は長く、それを破ったのは戻ったルーファウス



「なんだ…変な空気だな」



不思議そうに二人を交互に見ながら、ベッドに座った



「二人で話がしたい」



クラウドの言葉に、ルーファウスはツォンに目配せをすると

ツォンは不満そうにクラウドを見やり、ルーファウスに一礼をして部屋を出た









「ルーファウス、アンタ、セフィロスと俺どっち選ぶ?」



唐突な言葉に、ルーファウスは一瞬言葉を失う




「…あのな、吹っ切れていないなら、きみとは…」


「忘れてないだろ?」




夢にまで見た




「確かに、覚えている、忘れていない。だが…」

「こそこそ会って、言い訳?」



ルーファウスはこめかみを押さえると、ため息を吐く



「会っていない」


「夢だと言ってるのは、現実じゃないか?」



まさか



「それは、ない」



「昨日だって俺を、夢だと…」

「…ん?」

「俺は」



クラウドが、実際来たと?



それは、考えられる



「アンタ言ったよな、夢でも眠くなるんだな、って」



ルーファウスが一瞬目を丸くして

苦笑した



「夢じゃなかったのか」

「夢じゃない」





言わなくて、よかった



夢でなかったなら





「セフィロスも、夢じゃないんだろう」


「夢だよ」


「保証ないだろ」


「夢だからなあ…」



「夢だと思いたいのか」



クラウドの真剣な眼差しに

ルーファウスは一瞬、口が開かなかった




彼が私に会いに?

来るはずがない



ありえないんだ






「…そうだな、夢ではないならな」

「なら、夢に見るほど、気にしてるのか」

「私が何と答えても君は、悪いほうに取る」

「…アンタが…あいつをまだ、追ってる気がして、あいつの名前をアンタが呼んだ時
俺は腹が立って仕方がなかった」



クラウドの耳には、はっきりとセフィロスを呼ぶルーファウスの声が

はりついて離れない

あいつを思って手を伸ばしたルーファウス


はっきりと呼んだ

セフィロス、と




「私が未だにセフィロスを想っているなら、きみとここまで深い仲にはならないよ。
私はそこまで器用じゃない」



だから、そう切り返されても、素直にうん、とは言えなかった



「そんなこと、俺にはわからない…」



「そう言われたら、私は何も言えないじゃないか」




俺だって

不安な気持ちのまま

納得した振りをするのはいやだ


いやだ




「俺、アンタを信じれない」



動きを止めたルーファウスの髪がさらり、と流れる



「ルーファウス、俺は、アンタを…」



クラウドがルーファウスを見ると

ルーファウスは強い眼差しをクラウドに向けていた



どう言えば伝わるのか



「私は、クラウド、」





引き止めて、クラウドが引き返すなら

引き止めたい





「クラウド、私は…それでも、君を待っていた」



不可思議な顔をしてクラウドは首を傾げる



「意味が、わかんないんだけど…」



渋い顔をして

ルーファウスは小さく深呼吸をする



「だから、私が会いたかったのは君だった。
信じれないと言われても、伝えてはおく」


「セフィロス…」


「セフィロスの夢は、確かに見た。私は、彼を忘れたりは絶対できない。
彼に本当に、会いたくなるときだって、せめて顔が見たいと思う事だってあった。
ただ、思い出でしかない。また彼と会う事はない。
今の私が、落ち着ける場所は君しかない」



毛布を膝にかけ、立てた両膝に両肘を置いて

ルーファウスは顔を両手で覆っている



クラウドはベッドの傍の椅子に座り、ルーファウスを眺める



「それってセフィロスがいたら、オレとはこうなんなかったって言ってんの?」


「そうじゃない」


「じゃあ、セフィロスがいても、オレを選んでた?」


「そんなのは、わからない」


「うんっていえないのかよ」


「そうじゃ…」


「もういいよ」


「もういいって、クラウド…」


「セフィロス追いかけてろよ!」


「クラウド!待て!」



病室から足早に出て行くクラウドを

ルーファウスが追う


クラウドはさらに早足に

逃げるように階段を下りていく





ロビーでルーファウスがクラウドの腕を掴むと

クラウドは振り向いて腕を振り払った



「来るな」


「クラウド、もう少し話そう」


「もう、話したくない」


「クラウド」


「話は無い、もう終わりだ」



睨む様にルーファウスを見るクラウドに

ルーファウスは目を細めて俯いて

髪をかき上げてからクラウドを見る



「わかった」



「…そうかよ!」




その言葉に、クラウドはルーファウスの胸を軽く押して
すぐに出口に向かった



押された拍子に床に座り込んだルーファウスは

クラウドの背中を見届けてから立ち上がると

病室へ戻った












終わったのか?



この関係は、終わった?














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