白2












ずっと、傍にいると



そう誓った君はもう



隣にはいない








ずっと、一緒にいようと



そう言った君はもう




隣にはいない





























がたん、と扉が開く音で、ルーファウスは現実に戻った



「風邪ひくよ、社長」




カダージュは、セフィロスとよく似てるようで、あまり似てない


ルーファウスは寒空にさらされたテラスで、柵に手を掛けたまま空を仰ぐ



「寒くないよ」



カダージュは部屋からテラスに出て、ルーファウスの横に立った


扉は開けっ放し




「嘘つき。寒いよ」




セフィロスより華奢な指を、カダージュはルーファウスの指に絡めてくる




「なんだ」




隣に来たカダージュを見ずに

ルーファウスは呟く




「社長はいつも、目の前の人を見てないね」


「目が悪くてね」



「そうじゃないだろ」



ルーファウスがその声に振り向く

カダージュは不満気にルーファウスを睨んだ


クラウドはルーファウスに片手をあげるだけの挨拶をした


ルーファウスは笑顔を向けることで、挨拶を返した




「僕は無視なのに兄さんには反応するんだね社長」

「そうか?」



そう言ってやっと自分を見たルーファウスに、カダージュが笑う



「でもどうせ、兄さんのことも見てないんでしょ?」


「そうなのか?」



歩み寄らずにクラウドはルーファウスを見て笑う


ルーファウスはふっ、と笑ってまた二人から視線を外した



「そう思うか?」



テラスにある椅子に座り、クラウドは頬杖をつく



「たまに」


「悲しいな」



楽しそうに、ルーファウスは笑う

クラウドも、口角を上げて笑った





「アンタまた、アイツのこと考えてんの?」


「アイツ?」



セフィロスのことだと分かりながら、ルーファウスはとぼけてみせる


クラウドは眉をしかめてセフィロスの名前を出した




「…ああ、考えていた。許せないか?」



思わぬ素直な反応に、クラウドは少し、力が抜けた



「…仕方ないけど、妬ける」



また振り向いたルーファウスは、眉をしかめたまま声を出して笑った




キミには、私がどうあがいても勝てない事実に、みんなに愛されていることに、

セフィロスが君に執着していることに、妬けるんだけど


口には出さないけれど




「妬かれるのは、悪い気はしないよ」


「妬きたくないんだけど」



カダージュは黙って二人を見ている



まだ、人の感情を察するのは難しい部分も多い




取り残された感じがして少し、悲しくなった



ルーファウスがカダージュをひと撫でして笑顔を向ける



それだけで満足したカダージュは素直に笑った



「アンタは嫉妬しないよな」


「そうか?」



知らん顔しながら心で笑うルーファウスを、クラウドはまだ見抜けずに首を傾げる



「余裕だな」


「ははっ」



余裕なんかないよ

いつも、そんなものは無い



口には出さないけれど





「顔色悪いぞ。横になれよ」



ルーファウスはクラウドのその言葉に俯いて笑うと、頷いて部屋に入った



そのまま寝室に向かうルーファウスを見送り

クラウドとカダージュは部屋に入る




「社長はたまに、泣きたいのか笑いたいのかわからない顔するね。どうして?」



不意に投げ掛けられたカダージュからの質問に

クラウドは眉をひそめてため息ををつく



「お前何しに来たんだ」


「別に。社長に会いに」



またくるよ、と言い、出口へ向かうカダージュを横目に、クラウドは寝室に入っていった





ぼんやりとした視界で

ルーファウスはクラウドを確認する



ぼんやりとした視線を浴びて

クラウドはルーファウスに手を伸ばす



「ルーファウス」



虚ろな目のままルーファウスはクラウドを見上げる



ああ、クラウドだ



心で呟きながらルーファウスは無言でクラウドを眺める



「何か、あったか?」



ルーファウスの髪を撫でながら

クラウドが言うと


ルーファウスは目を伏せ、視線を外す



そしてそのまま目を閉じる



「セフィロス、に…」



クラウドは手を離し、目を細める



「会っただろう?」



セフィロスが、クラウドに会いに来たこと



「…なんで知ってる?」



ルーファウスはまた目を開き、ぼんやりとした目でクラウドを見上げた



私もその場に居たから



声が出なかった



二人とも、私に気付いていなかったから



私は、その場に不要だったんだろう





頭で考えながらクラウドを眺める




「ルーファウス、なんで知ってるんだ?」



でもあれは、英雄と謳われたセフィロスではなく


ジェノバに散りつかれたセフィロスだ




無言のままのルーファウスを半分睨むように、クラウドはその虚ろな目を見る



「セフィロスの事考えてんの?」



表情を変えないルーファウスに

クラウドは奥歯を噛んだ



俺にセフィロスを見てるわけじゃ、ないよな?



もう一度ルーファウスに手を伸ばし

頬を包み口付けをする



「クラウド?」



その言葉にホッとして、クラウドは笑みを浮かべた



そのまま手を、ルーファウスの胸元に滑らさ、口付けを続けると

ルーファウスの腕がクラウドの首に絡まる





「ルーファウス」



耳たぶに口付けて、クラウドが囁くと

ルーファウスは身を震わせて強く抱きついた



なんか、身体も、頭の中もマヒしてるみたいだ


ルーファウスはぼんやりとした頭で、考える



「俺は、ずっとアンタの傍にいるから」



泣きそうな顔より、今の無表情の方が

見てるのが辛いと思った


それでもやはり、ルーファウスの無表情が崩れ、

無理した笑顔を見せられると

クラウドは泣きそうになった




こんな顔も、やっぱり見たくない









俺じゃ役不足?



泣いたほうが楽になる


泣かせてやりたかった


そしてずっと抱き締めててやりたかった





それなのに、ルーファウスは笑った
















セフィロスは

クラウドには

会いに行くんだな




セフィロスといる時は

クラウドは

私が見えないんだな









ぼんやりと、考える



デスクに向かい、ルーファウスは書類を手にしながら、それを見てはいない









今朝はセフィロスの夢を見た




なんてことはない、彼が、また、一緒にいれるかとか言ってた夢を



それは自分の願望を表した夢だったんじゃないだろうか

それなら、私はセフィロスをまだ、求めてるのだろうか



自分で、自分がわからない




「…クラウド」




呟き、デスクに額を付けて目を閉じる











寒くて、だるくて、吐き気がしてくる



ああ、風邪かな、と頭を押さえた瞬間、電話が入って



ルーファウスは薄く笑った



クラウドだ





会いたいと、言ったら、すぐ来てくれたりするだろうか


そんな事を考える自分を重症だ、と笑ってから、通話ボタンを押した




「ルーファウス」


「うん」


「どうした?声が変だぞ?」



そんな小さな変化に気付いたクラウドに、ルーファウスは電話口で微笑む



「寝起きなんだ」


「そうか?今日、一人で平気か?」



ルーファウスは髪を掻き上げ、笑った



「ああ、問題ない」



理由を、聞かずにルーファウスは納得しようと考える

そうだ、クラウドの家はここじゃないから



「クラウド!早く!」



少し遠くに聞こえる楽しそうなマリンの声と

もっと遠くに微かにティファの声




今日は仕事で遠出と言っていたクラウドを思い出し

ルーファウスは眉をひそめる




「クラウド、仕事中だろう?気を付けろよ」


「あ、ああ…」



気付いていない?

クラウドは変わらないルーファウスの声の雰囲気に少しホッとしたと同時に

少し胸が痛んだ



ティファとマリンとデンゼルと、出掛ける事を仕事だと偽ったのは

やましいこともないのに、何となく言いにくかっただけ



君の家族、とルーファウスは表現をする

あまり、それを言わせたくない

複雑な気持ちが沸き起こるから



「じゃあ、頑張れよ、仕事」



クラウドの言葉に、ルーファウスは落ち着いた声で「君も」と返して電話を切った





急に怠さが増した気がして

デスクに突っ伏し目を閉じる




こんな所で寝たら、身体が痛くなるな

そう考えながら、寒気よりも眠気に負けて、そのまま寝入った
































「また、会った」



怠そうにベッドの上で笑うルーファウスに、セフィロスは優しく微笑み返す



「ルーファウス、顔色が悪いな」


「何だか怠くてな」



セフィロスがゆっくりとベッドへと進む



「なあセフィロス、これは夢だよな?」



虚ろな目で笑うルーファウスに

セフィロスは淋しそうに笑った



「だろうな」



俺が、思い描く夢だろう、と


セフィロスは笑う



すっ、とルーファウスがセフィロスの頬に触れる



「夢だろうが、私は、君に」






笑おうと目を細め、口角を上げ

セフィロスはルーファウスの手に触れた







ないてるのか?





消え入りそうなセフィロスに、手を伸ばすと

セフィロスは悲しそうに













「セフィロス!」



手を伸ばした先にあった顔が歪む


ルーファウスは目の前のクラウドに、すっ、と手を離された



「セフィロス?」


「クラウド…なぜ、ここに…きみ、家族、仕事…」



クラウドは大きくため息を吐いて起き上がろうとするルーファウスを寝かせた



「…セフィロスがいいなら、呼べば?会えるんだろう?
俺に姿を見せるくらいだ、会ってんだろ?」



頭の中を整理しながら、ルーファウスはクラウドを見る


まだ、私は目が覚めていないのか



「クラウド…私は彼と、夢でしか会っていない…」



クラウドがルーファウスを睨むと、また大げさにため息を吐いた



「アンタ、まだ起きてないんじゃない?」

「いや、今、クラウドを見ているから…」



クラウドに、私は、会いたかった


でも、夢ではセフィロスに…私は…



私は、何を考えてるんだか



「意味、わからん」


「私も、わからないよ」



片手で目を覆い、ルーファウスは深呼吸をする



「仕事は?」


「言われなくても行くよ!」



面白くなさそうにクラウドが立ち上がり、乱暴にドアを開ける

ルーファウスはそこで、ここが自分の家ではない事に気付いた



「クラウド」



行かないでほしい




「なんだ」



振り向かず、冷たい口調に、ルーファウスは口を結ぶ



やっと出た言葉は、「ここは、どこだ?」



「病院!アンタ二日間起きなかったんだぞ!
なんであの時体調が悪いって言わなかったんだ!」



ルーファウスは、自分の胸が鈍く痛むのを感じながら、笑った




「いや、君を、縛るつもりはないから、君の…」


「そういう問題じゃないだろう!」



ルーファウスはゆっくり起き上がり、振り向いたクラウドを、見上げる



「セフィロスが、来てたからじゃないか!?だから…」

「家族との時間を邪魔はできない」

「わかってたなら何でアンタ仕事って信じたフリしたんだ!」


「君が、そう言ったからだ。そこを突いても意味はないだろう」

「そんなに俺に、興味が無いのか…本当にセフィロスに会ってたか、どっちだよ!」



嫌気がさす


当たり障りなくやり過ごそうとするルーファウスに


それ以上に、ルーファウスにわめく自分に





「クラウド、セフィロスは…」

「聞きたくないね」



クラウドは乱暴に、扉を閉めて姿を消した









私は…



私は君に、会いたかった



扉に呟き、ルーファウスはベッドに倒れこんだ











クラウドが戻ってくるかもしれないという期待をして



遠退く足音に、笑った








期待を、するものではないよな























まだまだ終わらない


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