青空・7









「クラウド、そこのクレープ食べたい」


すっかり家族の生活にも慣れたクラウドの腕を抱きしめながら
ティファが笑顔で歩く


「ああ、並ぶのか?これ」


最近出来た有名なクレープ屋には列が出来ていて
それでもティファは嬉しそうに並ぶ




「あ、クラウド」


少し前に並んでいたイリーナが寄ってきた


「…あ」

「あれ?イリーナ、誰かと一緒?」

「ツォンさんと…」


複雑そうにイリーナが2人を眺め、はっとして自分の場所に戻っていった


「ツォンさん、クラウドとティファがいます。並ぶのやめましょう」

「どうしてだ?食べたいんだろう?」

「だって、そこのカフェからここ見えますよ。社長から見える」



ツォンがルーファウスとレノとルードが待つカフェに目をやると
ルーファウスがその視線に気付いた

独特の苦笑を見せて、ルーファウスが軽く首を振る



「イリーナ、きっと社長は気付いてる」

「……並ばなければよかった…」

「泣くな」

「だって…」


待つのをやめたカップルが列を離れ、クラウドとティファが真後ろに並ぶ


「クラウド、今日は何食べたい?久しぶりに子供達が居ないからゆっくりだね」

「ああ、そうだな…それなら外で食べるか?」

「いいね!」


イリーナは弾むティファの声が、悲しかった


クラウドがイリーナと目が合う


「…そういえば、前アンタが作った弁当を食べたことがある。うまかったけど」


イリーナは不思議そうに首をかしげた


「私お弁当なんて何年も作ってないけど」

「花見の時期に…作っただろう?」

「いいえ」


イリーナが何かを思いだしたようにクラウドを睨んだ


「それ、社長と花見に行った時?」

「ああ、ティファたちと花見に行ってから…」

「社長が、私が作ったって言ったの?」

「ああ」

「それなら、私が作ったの。クラウドの好きなものばかり入ってなかった?」

「…ああ…」

「でしょうね。量もたくさんあったでしょう。クラウドがお腹いっぱいになるくらい」

「…もしかして作ったのって」
「気付くのが遅すぎる!」


「過ぎたことを言いあって意味があるの?」


ティファが口を出した瞬間、イリーナがティファの頬を叩いた


「なにするのよ!」


驚いたティファがクラウドの腕を掴む

クラウドは食って掛かりそうなティファの肩を抱いて
ツォンを見た

ツォンは知らん顔で目を合わせない


「あんたうるさいのよ!」


イリーナがティファの髪を引っ張ると
ティファも負けずにイリーナの頬を叩いた


「離しなさいよ!」

「うるさい!」



「ツォンさん止めろよ、と」


レノの登場にイリーナとティファが手を止める


「社長に恥ずかしいから止めて来いって言われたぞ、と」


クラウドの表情が変わったのを、ティファは見逃さなかった


「あいつも、来てるのか」

「クレープは食べないぞ、と」


順番を譲り、ツォンとイリーナより少し後ろになったティファはクラウドの手を引っ張る


「クラウド、もういい、行こう」

「折角来たんだ、買っていこう」


突然泣きだしたティファをクラウドがなだめる


「ごめんねクラウド」

「…いや」




辺りをしきりに見まわすクラウドを見て、ティファが俯く


「探してるの?誰か」


ルーファウスを探す自分に気付いて、クラウドが頭を掻く


「いや」






なんだ。幸せそうじゃないか

ルーファウスは目を細めながら微笑んで、窓に背を向けた







「社長、ごめんなさい」


クレープを持ったまま口を付けずにイリーナが呟く


「なにがだ?」

「私がこんなの食べたがらなければ…」

「この部分だけ、嫌いじゃない」


そう言いながらルーファウスがイリーナのクレープの皮を少し破って食べる


イリーナは涙目のまま笑った

















「先輩。社長って今、誰も居ないんですよね?」

「ん?」

「ほら、レノ先輩にとってのルード先輩みたいな」

「あー、イリ-ナのツォンさん?」

「え、や…あの…」

「ははは、あれだろ、恋人」

「ええ、はい」

「居ないと思うぞ、と」

「クラウドはティファとそういう関係なんでしょうか」

「…さあな…どうだろう」

「社長、誰か見つければ良いのに…」


レノは笑ってうなずいた


「俺もそう、思うぞ、と」






「帰るか」

仕事を終えて家主不在のルーファウスの家にレノを迎えに来たルードに
レノが首を横に振った

「最近物騒だから、ツォンさんを待とうぜ。イリーナが1人は危ないぞ、と」
「大丈夫ですよ。帰ってください」
「…いや、待つか」


そう言ってソファに腰を降ろすルードに、イリーナが微笑んだ








「ルーファウス様、何を考えていますか?」

「…特に何も」


車の後部シートで窓を眺めるルーファウスが、視線を動かさずに答えた


「そろそろ、少しくらい話してくれませんか?見ていて辛いです」

「何の話をしているんだ?」

「クラウドと別れて、よかったんですか?」

「そういう話は興味が無いんだが」

「自分の気持ちを言いたくないだけでしょう」

「…というよりは面倒だ」



クラウドと離れたからといってルーファウスに変化があった訳ではない

ツォンは、変化が無いことが気になっていた



「ルーファウス様、何故貴方は甘えてくださらないんでしょうね」

「…なあツォン、どこに行くんだ?」

「リーブさんの所です。昔貴方は、なついていたでしょう」

「勘弁してくれないか」

「リーブさんも貴方を可愛がっていたでしょう」

「…命令だ。家にもどれ」

「嫌です」


確執が生じる前 確執が生じた後
昔を思い出しながら ルーファウスは苦笑した

私は彼の大事な存在でもなんでもない



「ツォン、リーブは今は反神羅組織の…」

「わかってますよ。それでもプライベートでは別じゃないですか?」



リーブが自分を受け入れるはずがない事くらい、よくわかってる

神羅に対し、いつでも攻撃を出来る体勢をとっているほど



「リーブは私を好きなわけではないよ」


ルーファウスは体温が下がるような感覚に襲われながら笑った



「まさか」

「本当だ」

「…信じられません」

「そうか?私には敵が多いことくらい知ってるだろう」

「…なにかあったんですか?」

「昔の話だ」



ルーファウスがあんなに好きだった

おそらく今でも好きだろうリーブ



「すみません…」

「先に言っておくがヴェルドもだめだぞ」

「……」

「彼の生活に、なるべく介入したくないだろう?神羅が」

「…はい」







タークスが帰った部屋で1人になったルーファウスが
薄い布を濡らして観用植物の葉を拭きはじめると、チャイムが鳴った


同時に電話が鳴る


訪問の予定が無い時間のチャイムに不信感を抱きながら電話を取る





着信、リーブ





「なんで?」


つい口から言葉が出る


電話を握りながら、銃を手に取り扉の隣に立つ

扉が壊された


やばい



その瞬間ルーファウスは助けを求めるように通話ボタンを押した










「ルーファウスさん出ないですよ」


クラウドにリーブが笑うと、クラウドは溜息をついて座りこんだ


「なあ、アンタ、ルーファウスとは長いんだろう?」

「まあ、そうなりますね」

「あいつ、アンタから見て信用できるか?」

「しないほうが良いでしょうね」



リーブの携帯から銃声が聞こえ、リーブとクラウドが視線を合わせた



「繋がってる?」


素早くリーブが電話を取ると、通話が切れていた


「切れてる」

「今の、銃声か?」

「おそらく」

「ルーファウスに何かあったのか?」

「タークスがいるんだ。大丈夫だろう」

「電話してみる」


電話を取りだそうとするクラウドの手を制して、リーブが口を開く


「忘れたいなら、関わらないほうがいい」

「放っておけるかよ」



リーブは苦笑して部屋を出るクラウドを追った















ルーファウスの家の前に停まると、扉が開きっぱなしで家の中に大量の血痕がある

入り口に亡骸が数体

クラウドは室内を歩き回り、ルーファウスを見付けられずにフェンリルに戻り
携帯を出した


足元に見なれた携帯を見つけて拾い上げる

壊れたルーファウスの携帯



「畜生」




「いましたよ」


血だらけで外に倒れるルーファウスを見つけ
リーブが抱き上げる


「くそ…」






















「感謝します。後は私達が」



ツォンがリーブに礼をする

そしてリーブをじっと見つめた


「リーブさん。聞かせてください。ルーファウス様を可愛がっていたのは何故ですか」

「ん?」

「反神羅という以前に、あなたは…」

「あの人は、変わった」

「貴方にとってルーファウス様は、神羅というだけですか?」

「…そうだな」

「離れるなら何故、あんなに優しくしたんですか、愛情を注いだのは…」




クラウドが2人から視線を外してベッドに横たわるルーファウスを見た

そして目を大きくしてから、その部屋に居たツォンとリーブを部屋から押しだす



「ルーファウスに、聞こえるからやめろ」



クラウドも部屋の外に出て、近くの椅子に腰かけた




聞こえてたんだろうか

電話口の声も、今の声も



いつも、寝てる時にしか泣けないのか?





「帰りましょう」


リーブの声に、クラウドが立ちあがる


「なあ、ルーファウスのこと、可愛がってた?」

「…ええ」

「あいつ、なついてた?」

「…それはどうだろう」



「リーブさんが動物園にルーファウス様と行く約束をした時があって」

クラウドは話し始めたツォンを見る

「プレジデントから呼びだされて、小さいルーファウス様は平気な顔で見送ったんです。
でもリーブさんが行った後の悲しそうな顔は今でも覚えています」


ツォンから目を離し リーブが口を開く

「あの人は、どこかで狂った。結果が今の世界じゃないのか?
神羅に原因があるのは、一目瞭然だ」

「ルーファウス様だけに、それを背負えと?」

「そうじゃ…」



「それでいい」



そう言いながら、ルーファウスは扉を開いた


「私はキミ達に助けられたようだな。礼を言う。ツォン、送っていけ」


そう言ってツォンと目を合わせた後に、クラウド、リーブと目を合わせ、逸らす


「…下手なことは、せんといて下さいよ」


誰も気付かなほど僅かに唇を噛み、ルーファウスがリーブを見て口角を上げる


「私は、世界をどうにか再生させたいだけだ。邪魔はしないでくれ」

「信用できませんね。神羅が下手なことをしたら、全力で阻止しますから」

「こちらもそれなりに対処させてもらう」


そう言ってルーファウスはツォンを見た


「さあ、お客様のお帰りだ」










「ルーファウス様」



病室に戻ろうとするルーファウスを、ツォンが支えようと駆け寄る

ルーファウスはツォンの手をすっとかわしてドアノブに手をかけた




「眠りたい。1人にしてくれ」








鈍い痛みは傷の痛みじゃない



病室に1人戻ったルーファウスが窓の外をそっと見る



リーブとクラウドの背中を見つけて微笑んだ














続→


2010・11