青空・5






明るい食卓を囲むクラウドの表情は冴えず、ティファはクラウドを見つめる

マリンやデンゼルの声に答えながら、どこか寂しげだ

食事が終わると、クラウドはさっさと部屋に入る

クラウドが食卓に忘れた携帯に、ツォンから着信が入った



「ティファか。クラウドの携帯では?」

「そうだよ。今出れないから。どうしたの?」

「ではクラウドはセブンスヘブンだな?今から行くよ」

「…ねえツォン。クラウド、ルーファウスとちゃんと話し合ったのかな」

「さあ、どうかな」

「ルーファウスも連れて来れないかな?ちゃんと話した方がいいよ」

「…そうかもな」





ティファがクラウドの部屋をたずねた


「クラウド、外の風に当たりに行かない?」

「…いい」

「行こう。少し話そうよ」



外のベンチに座り、ティファがクラウドを心配そうに見つめる


「クラウド、ルーファウスとちゃんと話したの?納得してない顔してるよ」

「ふっ切れてないだけだ。時間がどうにかしてくれる」

「クラウドには、私が…私達がいるよ」

「…ああ」



うわの空の返事をするクラウドを見つめ
車の音が近付いて来た時、ティファはクラウドに抱きついた



「寂しかったんだよ…私も、マリンもデンゼルも。これからは、一緒だよね?」


クラウドは小さく溜息をついてティファの肩を抱いた

こうしたら少しでも忘れられるだろうか。

そんな筈は無い。


回した手を離そうとすると、ルーファウスを乗せた車が目の前に停まる



「…社長は乗っていて下さい」


ルーファウスは薄く笑って足を組んだ


「何のために私をここへ連れてきた」

「…クラウドと話をしていただこうと…」

「わかった、挨拶くらいしようか」

「やめてください。もういいです」






ツォンが書類を持って降りてきた


「クラウド、取り込み中の所悪いんだが、これを指定の時間にここへ頼む」


クラウドが書類を受け取る

封筒に書かれているルーファウスの字に目を細める

ツォンがティファを睨むと、ティファは車を見た

外からでは誰かが乗っているのかもわからない



「では」


そう言って車の方を向こうとした瞬間、クラウドとティファの顔色が変わった

ルーファウスが窓を開けて顔を出した



「今回の依頼は大事な相手だ。くれぐれもミスの無いよう、頼んだぞ」



神羅の社長の顔でクラウドを一瞬、見た

ツォンはクラウドを睨み、車に戻った





「…申し訳ありません」

「気にするな。私はそこまで気にしていない」

「嘘で我慢するのはやめて下さい」

「いや、本当だ。ああなってることくらい、想像の範囲だ」


それはそうかもしれないと思い、ツォンは押し黙る

バックミラーから見えたルーファウスの表情は穏やかだった






「神羅の仕事、続けるの?」


ティファの言葉にクラウドは、封筒の字を眺めながら口を開いた


「いい客だからな…神羅は…」


ルーファウスの字をなぞる

デスクに向かって書類にサインをしていた姿が目に浮かぶ


困ったように、眉をひそめて、不器用に笑うルーファウスを思う





「クラウド」


「クラウド!」


「クラウド!!」


ティファの声に、はっと振りかえる


「そんなに忘れられないなら、行けば良いじゃない!
私達じゃ駄目なら、行けば良いじゃない!」

「ティファ」

「行けば、いいじゃない」


両手で顔を覆って、膝から崩れ落ちるティファを支えようとすると
手を払われた


「いやよ!ルーファウスを選ぶなら、もう来ないで!」

「ティファ…」

「ごめん、クラウド…私…」



















「私の所に来ても答えは出ないぞ」


冷たく言い放つヴィンセントに苦笑を漏らし、クラウドは座り込む


「俺は、どうしたらいいんだろう」

「自分で考えろ」

「ヴィンセントは、どう思う?俺は…」

「…一回切ったのなら、それを突き通すのが筋だとは思うが
お前勢いで切っただろう。そんなことするから後悔するんだ」

「どうしたらよかったんだ」

「納得するまでお互い話し合うのも、ひとつの手ではないか?」

「…もう遅いよな」


うなだれるクラウドが、背後に気配を感じる


「遅いことはねえんじゃねえか?お前はまだこうして迷ってんだ」


「シド…でもあいつにとっては遅いかもしれない」

「今は自分のことだけ考えろよ」




きっちり別れて来い



シドの言葉が脳裏にこびりついている


別れるために、俺はルーファウスに会いに行く



























「ルーファウスは、いるか」


家にいたルードが首を横に振る


「どこだ」

「さあな」

「ルーファウス!」

「本当に不在だ」

「どこかくらい、知ってるだろう」


ルードは微妙に顔を曇らせて、溜息をついた


「プライベートだ」



携帯を取りだし、コールを鳴らす

一度だけコールを鳴らして、クラウドは電話を切った


「電話じゃ、駄目だ」




--話しがしたい。どこにいる?--



ワンコールのあとすぐに来たメールにルーファウスは苦笑して

メールを削除した


会ってしまったらクラウドはまた、やりなおしたいと言うだろう

それなら最初から、避けてやれば良い

わかりやすく、傷つければきっと、離れる


胸のポケットからペンを取りだし、額に付けた

祈るように目を閉じる


「クラウドなら、大丈夫」









はっと耳を澄ますと、人影がいくつもある

まずい

ルーファウスはルードより先に移動したことを後悔した








「もしも、クラウドがきたら社長の居場所は絶対に知られるな」


ツォンの言葉に従い、ルードはクラウドが退散するのを待つ

しかしクラウドは帰る気配を見せずにじっと家の前で待つ








「社長!」


男達に囲まれたルーファウスを見つけるなり、イリーナが走ってくる


「来るな!」


イリーナには危険だ


そう判断したルーファウスが叫ぶが、イリーナはそれに構わずに走ってきた



「社長から離れなさい!」

「随分可愛い子が来たじゃねえか」



ルーファウスはイリーナの腕を引っ張り、自分の後ろにやると、口角を上げて男達を睨んだ



「何の用だ」

「貴様の命が目的だ、ルーファウス神羅」

「社長、下がってください」

「キミではさすがに、危ない」



ルーファウスは銃を一発、空に向けて発砲した







遠くで銃の音を聞いたルードの顔が青くなり、車に乗り込む


あれはルーファウスの銃声。なにかあったのでは
ルードが運転する車はありえないスピードで目的地に向かった







「社長!もうやめて下さい!」


イリ−ナの盾になり、攻撃を受けながら発砲するルーファウスに
イリーナは回復魔法を唱え続けた






銃弾が飛び交い、鳴り響く


「社長!」


車ごと男達に突っ込み、ルードが降りてくる


「来たか」

「すみません…クラウドが、来ました」

「…付けられなかったか?」

「わかりません」

「なに?」





「きゃあ!」


イリーナが引っ張られる

ルーファウスがルードを突き飛ばしてイリーナの方にやった


「連れていかれる前に助けろ」


イリーナが数人に引っ張られながら、叫ぶ


「先輩!私は大丈夫です!社長を!」


ルードがそこで留まろうとすると、ルーファウスが口を開いた


「命令だ、イリーナを助けろ」


ルードがイリ−ナの腕を掴んだ瞬間


大きな銃声が聞こえて、ルーファウスが倒れる














ルーファウス







クラウドの声が耳の奥で聞こえた

そんな自分に笑いながら、ルーファウスが目を閉じた

























続→


2010・10