青空・4



青い空が高く、クラウドは天を仰ぐ


「綺麗な雲だな」




閉じていた目を開くと、ルーファウスがクラウドを覗きこんで笑っていた

その微笑みは不器用で悲しくて、クラウドは手を伸ばす

ルーファウスは不器用なままの笑顔で、クラウドを見る


「俺にはアンタが必要なんだ、ルーファウス」


クラウドはルーファウスに向かって手を伸ばす

ルーファウスは微笑んだまま、背中を向けた

一瞬、泣いてるように見えた


「私達の歩む道は同じじゃない」




一瞬で、そんな夢を見た


青空の中で、そんな夢を見た






フェンリルに乗り込み、走らせる


「泣いてるのはもしかしたら、俺だけじゃない」



ルーファウスを家に発見できずに、付近を探し回る


以前から たまに意味もなく立ち寄っていた
廃墟となった大きな教会からパイプオルガンの音色が流れる

クラウドは吸いこまれるようにそこに入っていく


壊れた天井から差し込む光を浴びながら、ルーファウスは目を閉じていた

パイプオルガンをひきながら、髪を揺らす


クラウドはその姿にしばし見入った


演奏が終わった後、ルーファウスが黙って天井を見上げる



「ルーファウス」


ルーファウスは振り向かない


「クラウドか」


そう言うとまた、演奏をはじめる

クラウドはルーファウスに寄っていき、真後ろに立った


ルーファウスの頬を掴み、上を向かせてキスをする

クラウドの目から流れる涙に気付き

ルーファウスが目を開いた

心を読み取りにくい深い色の瞳


「ルーファウス、俺、アンタと離れるの無理だ」


ルーファウスは柔らかく微笑んで、演奏する手をやめた


「なあ、やりなおせないの、おれたち…」

「とりあえず泣くな」

「会いたかった…ルーファウス」



ルーファウスはクラウドの方に身体を向けて

見上げる


「また一緒に居るようになっても同じ事で悩むぞ」

「いい、アンタがいなきゃ駄目だ。いつ死ぬかもわからない。
いつまで一緒に居られるかもわからない。
それなら一緒に居たいと思ったんだ」

「大袈裟だな」

「大袈裟でもいい」

「やめておけ。たまにこうして、気が向いた時にでも会えばいい」

「毎日?」

「いいや」

「キスや抱き合うのは」


伸ばしたクラウドの手を柔らかく拒否をする

ルーファウスは不器用に微笑んだ


「家族が待ってるぞ」


長いこと、この不器用な笑い方をしてなかった気がする

ルーファウスも、オレと同じ気持ちなら・・・


「恋人はアンタだ」

「私には恋人などいない」

「オレ」

「キミは私のものじゃない」

「ルーファウス、オレ…」

「すまない、仕事の時間だ。失礼する」


立ち上がり、歩き出すルーファウスを掴まえて抱きしめると
ルーファウスは困った声で「離してくれ」と呟いた


「いやだ、離さない」

「クラウド、無理矢理押しのけたくない。頼む、離してくれ」

「いやだ」

「…あの夜キミが決めたんじゃないか」


微かにルーファウスの肩が震えた


「後悔してるんだ」

「どっちを選んでも後悔したさ。大丈夫、キミには家族が居る」

「アンタには?」

「やるべき課題が山積みだ」

「アンタの支えは」

「私にも、仲間は居るんだ」


力が緩んだクラウドの手をそっとよけて
ルーファウスが離れた


「行くなよ」

「失礼するよ」

「ルーファウス、アンタは俺と離れても何も感じないのか?」

「終った事を話すのはやめよう」

「アンタは俺をどうも思ってな…」

「私が…何も感じなかったと言えば離れられるか?」

「…アンタの、自分の気持ちを言わない所が嫌いだ」


ルーファウスは笑ってクラウドを見る

クラウドはルーファウスに伸ばした手を引いた


「私はもう、忘れたんだ。キミのことは。放っておいてもらいたい」

「本心か?もう俺が居なくても、普通に…」

「キミは、本当の家族でも作れ。もう少し大人になれ」

「本心かよ!」


ルーファウスは表情を変えずにクラウドを見たあと
背中を向けた


「もう気持ちに振りまわされるのはごめんだ」


そう言ってルーファウスは出口へと足を進めた


「嫌だとか、離れたくないとか、俺だけかよ!ルーファウス!」


背中にクラウドの声を浴びて、ルーファウスは唇を噛む

そしてそっと深呼吸をして振り向き、クラウドを見た


「神羅に入社するなら歓迎するよ」

クラウドはカッときてとっさにルーファウスを殴る


「アンタ、最低だ」


クラウドの肩がルーファウスの肩にぶつかる

そしてルーファウスに背中を向けて出ていく


ルーファウスはぶつかった弾みで体勢を崩し
重力に任せて地面に座り込んだ




「別れるために、また寄り添うなんてできるか」


天井から降り注ぐ光がまぶしかった

フェンリルの音が遠のいていく


「これで、いいんだ」


ルーファウスは光を見上げながら笑った















「なんなんだ?」


セブンスヘブンから出てきたシドが、フェンリルに乗ったままのクラウドを見つける


「…別れたんだ、ルーファウスと」

「…おう…そうらしいな…」

「でも俺は、後悔してる」

「…おう…」

「俺、まだあいつが好きなんだ」

「…そりゃおめぇ、時間が解決するだろうよ」

「あいつはもう、敵じゃない」

「味方でもねえ」

「少なくとも俺は、一緒に居る時間は幸せだったんだ」

「相手が悪すぎるだろうよ。神羅のトップだぜ?星の敵だ」

「…ルーファウスが笑うと、嬉しいんだ」

「…なあクラウド、誰かに言われたから別れたのか?それともふられたのか?」

「俺が…一緒に居る自信が無かった…」

「なんでだよ」

「…周りの目を…気にしてしまった」

「そんぐらいで別れんなら、周りの目が無くてもいつか別れただろ。
で、お前がふったのか」

「ああ」

「相手はなんて?」

「止めもしないし泣きもしない。家族でも作って大人になれと…」

「なんだそりゃ」

「知るか」

「…中でティファが待ってるぞ」



クラウドはその言葉に顔をしかめてフェンリルを発進させた









「社長、これクラウドに届けさせてください」


ツォンが書類をルーファウスに渡す

ルーファウスは苦笑して書類を突き返した


「キミから頼むよ」

「…なにかあったんですか?クラウドと」

「もうここにプライベートで来ることは無い」

「別れたんですか?!」

「そういう表現で合っているのかわからないが…」

「何故」

「面倒臭くてな」

「嘘おっしゃい」

「説明が面倒だからそういう事にしておけ」

「それなら納得できます」


ははっ、と笑ってルーファウスは整理していない書類を出した


「それでは行って参ります」

「ああ」


ツォンを見送った後、引き出しの中からクラウドが愛用していたペンが出てきた

ルーファウスは手の中でそれを転がしながら笑った

この家にはクラウドの痕跡があるが
クラウドの家にはルーファウスは痕跡を残してはいない

ルーファウスはペンをデスクに置いてから
他にクラウドの置いて行った服やタオルを集めて箱にしまった

無くても全く支障の無いものばかり

置いていっていることすら忘れているだろう


クラウドがルーファウスに贈った木が青々と存在を主張している
ルーファウスはその葉を撫でてキスをした

デスクに戻り、クラウドへの書類にサインをしてから
ペンを引き出しにしまって他のペンを出した






夕日が沈む





















続→

2010・9