焼け野が原 |
「ではクラウド、社長をよろしく頼むよ」 いつもの様にそうクラウドに言うと ツォンが出ていった 街に用事があるというルーファウスの希望通り 街に出て、用事を済ませ二人が並んで歩いていると 「死にたいと思ってますね」 街角の胡散臭い占い師が 突然ルーファウスに声をかけた ルーファウスはクラウドを横目で見て肩を上げて通り過ぎ クラウドはその後を歩いた 「アンタ死にたいと思ってるのか?」 「死にたいとは思っていない」 死ぬというのは 本当に辛い別れ クラウドは思い出す人がいる 「死んだら化けて出てみろよ。あの世がどんなふうか教えてくれ」 クラウドのバカにしたような言い方に ルーファウスは鼻で笑って返した 「あの世があればな」 その言葉にクラウドが考えたのは 「死後の世界…?」 エアリス、ザックス まだまるで生きているかのように姿を見せてくれた そう考えて、死んでしまっても、その後生きる世界があるのではないかと それじゃなきゃ二人がいたことは説明が付かない 「あるだろう、きっと」 その言葉にルーファウスがまた鼻で笑う 「死んでまでこの世界に囚われているのは幸福か? いいや、悲劇だ」 「どういう意味だ」 「死者など現れてはいけない。 この世界に留まるべきではない」 「だから何が言いたいんだよ?」 声を少し荒げるクラウドを見て ルーファウスが真面目な顔をする 「死ぬのは運命だ。受け入れるべきだ」 死を悲しみ続けるクラウド 死を自分の中で消化しようとするルーファウス 「運命の一言で片付けるのか」 「受け入れるべきだ」 「運命の一言で受け入れれるものじゃない! アンタ大事な人を亡くした事が無いからわからないだけじゃないか?」 それを言い捨てて クラウドは足早にルーファウスから離れた 大事な人を亡くす衝撃がどんなものか 目の前で死んでしまう衝撃がどんなものか 悔しいのか悲しいのかどっちもなのか クラウドは涙が出そうになった 「苛々する」 雑踏に紛れて消えるクラウドの背中を見送り ルーファウスがしばらくその場に立ち尽くした クラウドが帰ってくるかもしれないと 少しの時間その場を離れなかった その間考えたのは、クラウドが言っていた 「大事な人を亡くした事が無いからわからないだけじゃないか?」 という言葉 「そうだ、私はきっと心の底から悲しんでなんかいない」 「悲しいことなんかひとつもなかった」 一時間以上経過してから 諦めて帰ろうとして街中を歩いて 迎えに来にくくてどこかにいるのかもしれないと 少し人気の無い場所を探して歩く 辺りが薄暗くなってきた頃 この辺りにいなかったら諦めて帰ろうかと 廃屋の中を覗くと人影があった 誘い込まれるようにそこに入っていくと 硬い扉が大きな音を立てて閉じられた 「ルーファウス神羅だろう?」 聞きなれない男の声 その主を探すと、厳つい男が何人かでルーファウスを囲んでいた 「キミ達は?」 眼を細めてルーファウスが声を発すると 四方から声が聞こえてきた 「アンタに仲間を殺された」 「家族もだ」 「俺たちも死にかけた」 「神羅が、のうのうと生きていていいと思ってるのか?」 「殺してやる」 何処からか飛んできた剣が足を狙う それをひらりと避けてルーファウスが銃を出した 「こっちだぜ」 その声の方をルーファウスが見ると その声の主が既に死んだ人間を盾に目の前に来た ルーファウスがソレを睨みつけると その男がルーファウスの手を拘束する 銃弾がルーファウスの足を打ち抜き ルーファウスが崩れ落ちた 腕をつかまれ膝で立っている状態で 額に銃を突きつけられる 「泣いて詫びろよ」 「貴様ら、そんなに暇なら墓参りにでも行って来たらどうだ」 銃で思い切り殴られ 放たれた銃弾を避けて肩をかすめた それからが酷い暴行の始まりだった 唇を噛み、痛みに耐える 「綺麗な顔しやがって、随分遊んでるんだろうなあ」 破られた服で腕を縛られる 「やめろ」 「やめろ!」 髪をわしづかみにされ 銃を後頭部に突きつけられしゃぶらされる 「歯立てたら撃ってやる」 「ハッ、女と変わんねぇ」 「俺にもやらせろ」 「挿れてみるか」 「マジかよ気持ち悪リィな」 脱がされ無理矢理男達の快楽に体を使われる 無理矢理挿入され ルーファウスは血が流れ落ちるほど強く唇を噛む 「こっちも女と変わんねぇよ」 「見ろよこの顔、そこらの女よりイイ顔だ」 きつく睨みつけると、顎をつかまれた 「イイ目つきじゃねえか!」 思い切り殴られる 殴られ嬲られ、どのくらい時間が経ったか ルーファウスの頭が麻痺してくると 今だ腰を振っている男の手にあった銃が目に入った 快楽におぼれる男からそれを取るのは容易かった それを手にした瞬間 ボス的な男が撃てと叫ぶ 何発か体に受けながら 拘束された手で自分の上で腰を振っていた男を撃ち その男を盾に ふたり、さんにん、よにんと撃ち殺していった 「人は殺すな、守るためだけに使え」 セフィロスの声が頭に響く 「セフィロス、自分を守るために殺すのは?」 落ちている剣で乱暴に腕に巻かれていた布を切ると 自分の手首まで血を流した 出来るだけ身なりを整える 自分の血も返り血も浴びた体をゆっくりと立たせ 足を引きずる様に壁を這う 重い扉を開くと、外は激しい雨で ルーファウスはほっとした 少しでもこの体に付いた血液と精液を 洗い流してくれるから その場に倒れこみ、目を閉じた 雨が弱った頃、目を開くとまだあの廃屋の前 誰にも見つからなかったことにほっとして 体の痛み、冷えた体、現実に戻る とにかく戻らなくては 痛む足を無理矢理動かし 人気の無い場所を選び歩く 歩いてなどとても帰れない だからといって携帯も無い クラウドもいない 吐き気がする 「どこにいるんだ?」 頭の中で探して人の名前を呼べども返事は無い あんな場所に行った自分が悪いのだ 古い店に入り、適当な服を買う 白だと血がしみたら困るから黒 包帯の代わりに出来そうなサラシと傘も買った 雨宿りできそうな壊れた教会を見つけて なんだかそこで精子をつけた服を脱ぎ捨てるのが気が引けて 他の廃墟を探し 中に人がいないことを確認して 脱いで止血してから着替えた さっきの教会に行って雨が当たらない場所に座り込むと すこし安心して目を閉じた 目眩がして立っていられなかった 「こんなところで何してるんだ」 クラウドの声にルーファウスが目を開く むっとして、でも心配そうな顔が覗きこんでいる 「アンタ、この怪我どうした…」 目の前に立ち膝で ルーファウスの床に流れる血を見ているクラウド 「誰が、どこで?!」 ルーファウスを、心配げな顔で見ながら叫ぶ ルーファウスの怯えた様な、凍りついたような表情を見て クラウドがルーファウスの手を取った 「何があった?」 手首の縛られた跡と傷を目にして クラウドがはっとルーファウスを見る 「アンタ、なにされた?」 唇を噛んで横に首を振るルーファウスの腰を触ると ビクっとして身を縮める クラウドが歯を食いしばる 「どいつだ!ルーファウスそいつはどこだ!」 海のような深い青色のルーファウスの瞳から 涙が一筋落ちた 「…殺してしまった…私は…」 クラウドがその涙に動揺した瞬間 ルーファウスが耳をふさいで叫んだ 「あいつらは…!!私は…!!」 クラウドは気を失ったルーファウスを、家に連れ帰り 服を脱がせて体を拭いて、手当てをする 無数の傷に目を伏せたくなる 寝ているルーファウスの部屋の電気を消すか消すまいか迷って 電気を消し クラウドはリビングに来た 一緒にいればよかった 一体何処で何が、何故? 答えが出ないことをずっと考えながら 今日起きるか分からないルーファウスの傍を離れまいとリビングで待つ 叫び声に クラウドがルーファウスの寝室へ急ぐと 息を乱し、汗をかいたルーファウスがいた 睨むようにクラウドを見た後、ルーファウスは深い息を吐いた 「…クラウド」 「どうした?」 「…夢だ、なんでもない」 ルーファウスは目を閉じて深呼吸をする 「もう少し寝るよ」 クラウドがルーファウスの青ざめた顔をのぞくと 唇が微かに震えていた けだるそうに首の位置を変え 小さく唸る 夢の中 顔が無い、真っ黒な人の形をしたものたちに 腕や足を掴まれる (あんたのせいだ人殺し) (お前も死ぬがいい) (永遠に苦しめ、苦しみながら死ぬといい) 黒い海のようなものの中へ 引きずり込まれ 自分を嬲った男達が追いかけてきて ルーファウスを押さえつける 息が出来ない 辛そうに眉間にしわを寄せ 呼吸が途切れるルーファウスの手をクラウドが握ると いきなり振り払われた 手を握られたことと その手を払ったことに驚いて、ルーファウスが起き上がった 手を振り払われた事にクラウドは、少し胸が痛んだ 驚いたままの表情で、ルーファウスがクラウドの手に手を伸ばした クラウドはそれを振り払った 払った瞬間後悔する ルーファウスの目を見て深くため息をついた 「何の夢だ」 クラウドの言葉に ルーファウスは唇を噛んだ 「…忘れた」 嘘だろう クラウドがルーファウスを睨む 「話してくれなきゃわからない、何があった」 うなだれるルーファウス 「君もセフィロスも、私の敵だ」 突然の言葉に クラウドはその意味も分からずに眉を顰める 「…ルーファウス、混乱してないか?」 いつもの様にアンタといわずに名前を呼ぶのは クラウドなりの優しさだった 耳を押さえるルーファウスの手をそっと触ると クラウドはまた手を払われた 「触るな!君は英雄だ、私は人殺しだ!みじめじゃないか!」 また耳をふさぎ、顔を伏せる 「私が、みじめじゃないか…」 クラウドは黙って、ルーファウスの姿を見ている 眉を顰めたまま 「救うどころか、殺してしまった」 何も言わないクラウド 言葉を続けるルーファウス 「自分の過ちが消えないことが怖いのではない」 こんなに感情を一方的にぶつけるルーファウスというのは 初めてだった 「消えていくことが…」 ルーファウスの喉が震えたような声を絞り出す 「なぜ…」 「なぜみんな離れていく?」 かすれて途切れ途切れの 聞き逃してしまいそうな声 「アンタが苦しいのは…」 何が原因? そう言い切る前に クラウドの言葉はさえぎられる 「私個人の問題ではないんだ。 もう、私の感情など、感情など これこそ消えてしまえばいいのに」 「何も感じなくなればいいのに」 「おい!」 クラウドがルーファウスの両手首を優しく掴むと ルーファウスがクラウドを見た 「キミが私を殺してくれクラウド、私が他の何かに殺される前に」 クラウドには衝撃だった こいつはこんなに弱い男だっただろうか? いや、混乱してるだけだろうか 抱きしめようとするクラウドの腕を払い まだ傷の残る唇を、ルーファウスが噛んだ 「同情もなにも、情なんか不要だ」 「どうしろっていうんだ」 屈みこんで耳をふさいで震えるルーファウスに 触れることすら拒絶されたクラウドが 困った顔で頭を抱える 無理矢理にでも思い切り抱きしめる勇気が無かった 本気で拒絶してるのなら 怖がってるなら逆効果だと思った 「ひとりにしてくれ」 「できるかよ」 「ひとりに」してくれ」 繰り返すルーファウスの言葉に クラウドがため息をつく 「死なないと約束するなら」 「あのな、ルーファウス、俺は身近な人に死なれるのが怖い。 もしここでアンタが死んだらまた俺は守れなかったと引きずる。 だから今は離れない」 顔を上げたルーファウスの目が揺れて 今にも泣き出しそうな 泣きたくて、それを我慢してるのか 「ルーファウス」 クラウドが呼ぶと ルーファウスは唇を噛み、血がにじみ 涙がこぼれる クラウドはとっさに手が出て ルーファウスを抱きしめた 「泣いてもいいから、我慢するな」 震える手でクラウドに抱きつく ルーファウスが疲れて眠るまで クラウドは手の力を緩めずに抱きしめていた 朝の日差しの眩しさにルーファウスが目を覚ますと クラウドがルーファウスを抱きしめながら眠っていた カーテンを閉めようかと少し身じろぐと クラウドの手がぎゅっとルーファウスを抱きしめる その手にルーファウスは薄く笑った 悪夢を頭の中から追い払うようにクラウドの顔を見ながら 他の事を考えようとする 教会で自分を見つけて、ルーファウスのその姿を見て 怒りをあらわにしたクラウドを思い出した なぜあんなに怒ってくれた? 「うん…」 クラウドが目をひらき すぐにルーファウスに目線を落とすと ルーファウスの自分を見る顔が見えた 「おはよう、ルーファウス」 クラウドがルーファウスの額にキスをして 笑顔を見せた その顔にルーファウスが安心したように笑って答えた 「おはよう、クラウド」 「からだ、大丈夫か?」 「ああ、大丈夫。風呂に入りたい」 「一緒に入る?」 そういうとクラウドが起き上がってバスルームへ向かって すぐに帰ってきた 「今お湯ためてるから」 ゆっくり、ルーファウスの体と頭を洗うクラウドの手つきは優しい 気持ちよさそうにルーファウスはそれに身を任せる 「こう比べると、やっぱり細いな」 クラウドがルーファウスの腕を洗いながら 横に自分の腕をくっつけた 「英雄の手だ」 ルーファウスがクラウドの手にキスをして笑う 「何食べれる?」 風呂から上がって、クラウドがルーファウスに聞くと ルーファウスがまだ食べたくないと首を振る 「気にせずに食べてていいぞクラウド」 クラウドがルーファウスの手首の傷に薬を塗って 痛々しい縛られた跡にキスをした 「ああ」 「なあルーファウス」 傷の手当てをしながらクラウドが名前を呼ぶと ルーファウスがクラウドの目を見た 「何だ?」 「泣きたいときは俺を呼べよ」 ルーファウスが聞き間違いかと瞬きをする 「助けて欲しい時も呼べ」 「うん?」 「すぐに行ってやる」 微笑むクラウドに 少し固まってから言葉を理解したルーファウスが その胸に倒れこんだ 「…クラウド、…泣きたい」 「うん」 クラウドの腕がルーファウスを優しく包んだ |
ラッブラブ。 題名はCoccoの焼け野が原から。 もう泣かないでいいように クラウドにはルーちゃんを支えて欲しいのです |