shield












「顔色がよくないな」





ツォンから書類を受け取ったルーファウスが

ツォンの目を見る




「そうですか?」

「ここ最近調子が悪そうだな」

「…いえ、そんな事は」

「少し休め」

「出来ません」

「ならば…」





明日から私は出張の名目で骨休めに行く


護衛としてついてこい




そんな経由でツォンは名目上護衛という休暇を急に手に入れた













いかにも高級なホテルで

チェックインを済ませてスイートルームに通される





「ここでは別にする事はないから自由にしてろ。部屋は私の隣だ」




ルーファウスはそう言うとツォンに部屋のキーを渡した




「あの、ルーファウス様、何かすることは…」

「無い」


「しかし」


「無い」


「はあ…」


「部屋に、誰か呼んでもいいぞ」

「…は…」


「私は出掛けるが…」


「お供します」


「いや結構。それより荷物部屋に置いてこい」


「危険です。お供します」


「暇が嫌か一人が嫌か」


「え…いえ…あの…」


「なら…制服脱いでこい」


「は?」


「私服に着替えろ。それから出掛けるぞ」






ツォンが制服を脱ぎ、私服に着替え外に出ると

いつもよりは少しラフな姿のルーファウスが居た



ツォンはルーファウスに誘導されるままに車に乗り込む


いつもは運転手だが今回はルーファウスの隣


心なしか緊張する








着いた場所は水族館だった




「きれいですね」



純粋に感動しているツォンを横目で

ルーファウスが口角を上げて見ている




「好きか、こういうのは」

「はい」

「それはよかった」





本当に、癒される


自分も海の中にいるような、そんな気分


ツォンが大きな水槽に見入っていると

ルーファウスが手を上げた




「ツォン、あれ」



指さした先には



「わあ…」





熱帯魚の群れ


色とりどりの






「綺麗ですね」

「だな」









「ルーファウス様」



「なんだ」



「あれ」



ツォンが指をさす

ルーファウスはそれに沿って目線を移す




「亀か…デカいな…」

「デカいですね…」

「あんなナリでも動きはきれいだ」



この方も、そう感じたりするのか


不思議な感じだ



ツォンは水槽を眺めるルーファウスを見つめた





特別な会話もなく、長い水族館見学を終えた




「亀がいますよ」



土産物の店で、ツォンがルーファウスにそれを見せると

ルーファウスはそれを軽く撫でた




「買ってやろうか?」


「い…いりません」



ふふっと笑うルーファウスの表情に一瞬見とれて

ツォンは首を振りながら亀を元の場所に戻した







ゆっくりと見て回り、ホテルに戻るとルーファウスはツォンを部屋に招いた

夕食を一緒に、と





「本当に、見事ですね」


「だろう。ここに来る時はいつもこの部屋なんだ。夜景が見事で」

「何だか久しぶりにのびのびとしました」

「疲れただろう、ゆっくり休め。昼まで寝てろ」

「そんなに寝れませんよ」

「では昼近くまででも」

「努力します」








「ごちそうさまでした」

「ああ、休め」

「はい。おやすみなさい」

「あ、一応ルーファウス様の部屋のキーも預からせていただいておりますので」

「わかってる」












部屋は広く豪華

自分にはなんてもったいな、とツォンは思う


ゆっくり風呂に入り、椅子に座ってから携帯が無いことに気付く



「しまった…ルーファウス様のお部屋か…?」


リラックスしすぎたかな、とツォンは頭を掻きながら隣の部屋へと戻った




チャイムを鳴らし、ツォンです、と部屋を尋ねるが返事はない


少し考え、スペアキーで開けると

バスローブ姿でソファに横になるルーファウスが目に飛び込んできた




近づくと、ヘッドホンで音楽を聞きながら寝入っている



「髪が少し濡れている…」



近くに自分の携帯を見つけた


それを手に取る前に、近くにあったタオルでそっと髪を拭いた



「お疲れになられたんだな…」



ヘッドホンをそっと外し、音楽を止める


まだ少し湿っている髪を撫で、心臓が早くなったのを感じて手を離す



抱き上げると、はた、とルーファウスの目が開いた








「なんだ君か」

「あ、あの…ここに携帯を忘れてしまい、取りに…」

「うん、いいよ」




そのまま目を閉じた


寝呆けてるのか?



ベッドに寝かせると、ルーファウスが目を開かぬまま




「明日は自由にしてろ。ツォン」




そんなわけにはいかない


お守りしなくては



ツォンは布団をルーファウスの身体にかけた




「明日は他に護衛がいるから、君は自由に…」


「…誰ですか?護衛…」





返事はない






幼さの残る寝顔を眺める


撫でると、薄く目が開かれ、その目はツォンをとらえた


ツォンは動揺した声で、すみません、との言葉と同時に手を引くと

ルーファウスはふっ、と笑ってまた目を閉じた



目を閉じてくれてよかった

きっと自分は顔が赤いはず


ツォンは髪をかき上げながら立ち上がった




部屋に戻ると、一人に対しての面積が広すぎる部屋で、逆に落ち着かない




ベッドに入ると寂しく感じてしまうほど

別にいつも誰かと寝ているわけでもないのに





















「ルーファウス様?」



朝、ルーファウスを尋ねても返答はなく、スペアキーで部屋に入ると
矢張り、ルーファウスの姿は無かった




「プライベート、なのか…」




何をして時間を潰そうか

観光のパンフレットを見ると、様々な観光名所がある



朝食を食べてから、ホテルを出て近くを散策する


綺麗な海辺は、たくさんの人で溢れていた




何も考えず、ゆっくりする時間もいいものだと、ツォンは風景を眺めながら思う


ふざけ、楽しむ若者の集団を眺めながら

自分は青春を仕事に捧げたんだと思い返す


羨ましいわけではない

仕事という青春は、ツォンの誇りだ




フラフラと歩き回り、昼食時に適当な店に入る



「しかし暇だ」



ぼやきながら昼食を済ませて

また海辺に戻り、そこらに腰を下ろしてまた眺める



「平和だな」



若い青年たちが走り回る


ルーファウス様と変わらない年頃かと思い、その無邪気さを眺める


表情も、声も、生き生きとしていて楽しそうで

実に若々しい


ルーファウスは、無邪気にはしゃぐことは無い

それは大人びて見えるが、ツォンには少しさびしくも感じる



まだ、遊んで笑う年頃だ




その時ツォンの頭にバサリと何かが落ちて視界が遮られた



慌ててそれを取ると、白い上着で

海に向かって走っていくルーファウスの姿が見えた




「ル…」




名前を呼ぶと、気付いていない人たちにルーファウス神羅と気付かれる


戸惑っている間にルーファウスは海に飛び込んでいた




「ツォン」




大きく手招きをする上司の元へ歩いていくと

海の中にいるその上司がまだ手招きをしている




「…入れと?」

「ああ」




そう言って笑うルーファウスを見て、ツォンは苦笑しながら靴を脱いで海に入った





「機嫌がいいですね」

「面倒な仕事が、思ったより早く済んだからな」

「仕事だったんですか」

「まあな」

「機嫌がいい理由はそれだけですか?」

「さあな」




泳いでいくルーファウスを追いかけ、ツォンも泳いでいく




少し人から離れた場所にある岩に登り、ルーファウスがツォンを手招きする

言われるままにツォンはその岩に登った




「ゆっくりできたか?」

「することが無かったので暇で暇で」

「ははっ、無駄に過ごしたか」

「はい」

「贅沢な使い方だ」

「そうですね」







「ルーファウス様、お怪我を?」

「いや?」



ルーファウスの右のこめかみあたりの真新しい傷を、ツォンが触れて治療する



「何がありました?護衛は?他にお怪我は?」

「ああ、問題ない」

「…ならいいのですが…」



「なあツォン、私も戦いたいのだが」

「駄目です。いきなり何ですか」



ルーファウスが不機嫌そうにツォンを見る



「何故」

「貴方は戦闘には不向きです」

「なんだそんな理由。訓練すればいい」

「…貴方自ら、何故戦いたいのですか?」

「1人で行動しなければならない時、必要だ」

「1人で行動なんかしなければいいのです」



ルーファウスは海に手を入れて
クルクルと回した



「…不便な時もある」

「私は反対です。
それにルーファウス様は訓練をしても並の兵士ほどの戦闘力になるか疑問です」



ルーファウスが海水をツォンにかけると

ツォンは目を閉じてそれを拭って

そのルーファウスの子供じみた行動に

ツォンは少し笑顔になった



「失礼だな」

「貴方には戦ってほしくありません」

「何故」

「貴方は頭を使うほうがお上手です。悪知恵は天下一だ」

「さっきから失礼だな」

「貴方が戦えるようになってしまったら、寿命が縮む気がします」

「私のか?」

「いえ私のです」

「は?」

「貴方が戦闘なんかしたら、貴方をお守りする事で早死にしそうですよ。
貴方は敵が多すぎる」

「君に死なれては困るな」

「護身術だけで充分ですよ、ルーファウス様には」

「足りない」

「危険に遭遇する前に私をお呼び下さい。どこにいてもすぐに駆け付けますよ」

「便利だな」

「命懸けでお守りします。私は貴方の盾になります」



ルーファウスの動きがピタリと止まり

真剣な顔つきでツォンを見た



「盾。」

「ええ、盾です」



ふっ、とツォンが笑うと、ルーファウスも笑って返す


ルーファウスの笑顔が、幼い頃のその笑顔と似ていた



「ルーファウス様」



ツォンは一人、海に入り



「なんだ」



ルーファウスの手を取って

手の甲にキスをした



「私は、この命ある限り、貴方をお守りします」

「裏切らないか?」

「誓います」

「寝返らないか?」

「この命にかけて」



ルーファウスは自分を見上げるツォンを凝視して、ははっ、と声を上げて笑って

ツォンの手を引っ張るようにして海に飛び込んだ



ツォンがルーファウスを抱き止め、驚いた顔でルーファウスを見下ろすと

ルーファウスもツォンを見上げていた



「仕方ないな、傍にいることを許してやろう」


「ありがとうございます」



ツォンはルーファウスを抱き締めたまま

濡れた金糸の髪を撫でた



「もうひとつ、許していただきたいことが」


「言ってみろ」


「口付けを」



あはは、とルーファウスは声を出して、優しいツォンの笑顔を見上げた


その首に腕を回す



「許可する」












優しい口付けから


貪るような激しい口付けになっていく





「このまま抱いてしまいたい」



囁くツォンに、ルーファウスは苦笑して見せた



「案外とキミは野生的だな」


「違います。情熱的なんです」



「ところでツォン、顔色はいいが、体調はどうだ?」


「もうすっかり」




ツォンはルーファウスの濡れた髪をかき上げると

もう一度口付けをした




「焦らさないでください、ルーファウス様」



ルーファウスは苦笑して、ツォンの濡れた髪を撫で付けた




「ふふ」





そうしてツォンの首に手を回し

口付けを返した
















どういう関係なんでしょうか、こいつらは