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「消してしまえばいい」 ルーファウスが小さくツォンに呟く 「それは命令ですか?」 「そうだ、やれ」 目障りだ、と書類を見ながら呟く そこまで警戒する人物ではない筈なのに この人は人の命を何だと思っているのだろう ツォンはルーファウスがわからなかった 薄い付き合いではなく 誰よりも、とまでいかなくとも 確実に他の、大抵の人よりもルーファウスと濃く接している タークスは副社長の所有物的な組織になっているのも事実 しかしルーファウスの命令は 理由を明確に伝えられない殺しも、たまにあった 理由を聞いても「命令だ」「仕事だ」と話が終わる ツォンは突っ込んで聞くのも面倒になっていた 「理解に苦しむ」 つい、ツォンがこぼしてしまうと 「私がか?」 思いがけなく声が響いた 誰もいないはずの自分のオフィスのソファで あの副社長が寝転がっていた 動揺を隠せないツォンに、面白くなさそうに笑ったルーファウスが ツォンに銃を放り投げた 「これを使え」 それを受け取ると それはルーファウス愛用のもの 「何故ですか?」 「本当なら私が殺したかった。 が、私ではきっと逆に殺されかねないからな」 苦笑しながらツォンを見上げる ツォンは眉をひそめてルーファウスを見た 「理由を…聞かせてください。 彼と貴方は、取引相手以上に仲がいいと思っていました」 「何故そう思った?」 「…友人同士に、見えたからです」 それに彼の地位はあなたにとって利用価値がある そう付け足すツォンを睨むように ルーファウスは見上げた 「彼との付き合いに限界を感じたからだ」 それにそろそろ彼の会社も危ない そう付け足すルーファウスに少し近付き ツォンが床に膝をついた ルーファウスは顔を近付け 「私はずっと、無理矢理彼に抱かれていた」 ツォンの耳元で囁いた ツォンが素早く立ち上がる 「そんな目で見るものじゃないぞ」 ツォンがはっとして表情を直そうとすると ルーファウスが苦笑した 「仕方ないヤツだな」 ツォンは普段、感情を表に出さない ルーファウスもそれを知っている 「…意味が、わかりません」 「わからなくていい」 プレジデントが殺されたときの冷静さは 忘れられない 少しずつでも、ルーファウスをなんとなく解ってきて それでもつかみ所の無い 本当によくわからない人間だ、とツォンは思う 社長室にいた時丁度 大きな窓に花火を見た 「そういえば、花火大会ですね」 それを眺めるツォン 「ここはよく見えるんだ。彼女でも呼んで一緒に見てもいいぞ」 立ち上がり部屋を出るルーファウスは ツォンに「彼女」がいないことくらい知っている ツォンはルーファウスの後を追って社長室を出た 「ルー…社長、書類にサインを」 ルーファウスは笑いながら歩く 「明日しておくから取りに来い。それと、ルーファウスでいいよ。 今更かしこまるな」 「しかし」 突然ぴたりと歩くのを止めたルーファウスに 小走りのツォンがぶつかってしまい ルーファウスがよろめいた ツォンが優しく両手で体勢を立て直させるために肩を掴む 「すみません」 「…好きに呼んでいい」 普通に会話をするのはごくたまに そんな時ツォンは 接し方に困る時がある 神羅カンパニーの社長ではなく ルーファウスという青年だと感じる時 「…ルーファウス様は、花火を見ないんですか?」 ルーファウスは満足そうにツォンを見上げて それから前を向いた 「見ない」 しかしツォンにとっては ルーファウスは苦手という部類に入るくらい 接しにくく感じる相手だった 言うことは無茶苦茶でも やることは案外マトモなこともあるけれど キツイのだ この人には悲しむとか、そういった類の感情があるのかと 心配してしまうこともあった 勿論ルーファウスなりの 心配や優しさを知ってはいるけれど 「何か飲みますか?」 仕事で来ている雪深い土地のロッジ お湯を沸かしてから ツォンがルーファウスに聞くと ルーファウスが寄ってきてそこらを見た 「カフェオレ」 「わかりました」 「ツォンもカフェオレ」 「え?」 「ははは、嘘、キミはなんでもいい」 そんな冗談も言うんだな、とツォンが笑った その時地面が揺れて 地震だ 捕まっていなければ立っていられないほどの激しい揺れに ツォンがルーファウスを支えようと手を伸ばすと 沸かしていたお湯が揺れた ルーファウスを支えるのが先 「ツォン!」 本能的に熱湯を気にせず手を伸ばすツォンを ルーファウスが突き飛ばした 「ルーファウス様!」 代わりに熱湯をかぶったルーファウスが それでも突き飛ばして転がったツォンに 平気か?と聞いた 揺れながらでも ツォンはルーファウスを引き寄せてやけどを治療した 「すみません、ルーファウス様」 「いいよ、揺れが収まったら作り直してくれれば。 なんならココアでもいいぞ」 「飲み物のことじゃなく!」 痛みを耐えながら笑うルーファウスを ツォンは申し訳なさそうに見た 「すみません」 「大げさだな。じゃあ代わりに仕事してくれ」 「それもすみません」 「甘かったか」 「甘すぎです」 「ハハハ」 飲み物が入っていたカップが空になった頃 ソファでうたた寝をするルーファウスを覗き込むツォン 「お疲れですか?」 はっと目を開いて眉間を押さえ ああ、と小さく返事をするルーファウス 「ベッドで寝てください」 「ここでいい」 背もたれに深く背中を預けて目を閉じ ルーファウスが未だにじっと自分を見ているツォンを見上げた 「なんだ」 「…ベッドに」 「いい」 「…運びましょうか?」 ルーファウスは欠伸をしながら頼む、と 冗談で言った ツォンが軽々とルーファウスを抱き上げると ルーファウスは驚きに声を上げた 「貴方が頼んだんですよ」 「いやいやいやお前!離せ!」 「離した方がいいですか?」 既に抱き上げた所から離そうとすると 勿論下は床で、離されたら落ちるわけで ルーファウスはツォンに抱きついた 「そうじゃないだろ!」 頭を叩かれ ツォンが微笑んだ その顔を見てルーファウスが笑った 「なんだツォン、優しい顔で笑えるじゃないか」 ツォンが不思議そうにルーファウスの顔を見ると ルーファウスがベッドを指さした 「…このままでも何だから、早く運んでくれないか?」 「ここで寝てもいいですよ。軽いのでさほど気になりません」 「失礼だなーキミは」 ツォンが笑うと、ルーファウスもまた笑って 目が覚めたじゃないか、とツォンの肩を叩いた なんだろう、この人少し 表情が優しくなった気がする 自分がそう感じたのが何故なのか ツォンにはすぐにはわからなかった 外は雪 空はもう闇色 それを眺めルーファウスが 窓に額をつけた 街灯が一本 頼りなく灯っている 「そういえば、昔ルーファウス様が夜に雪の中歩いているのを 帰りの車から見つけたことがあります」 「いつの話だ?」 「かなり昔ですよ。一人かと思ったらセフィロスが一緒にいました」 セフィロス 彼と深い仲だという事はなんとなく知っている しかしどこまでの仲なのか そこは曖昧 彼の話が出ても ルーファウスは表情が変わらないのだ 呆っとしながらルーファウスは窓を見る 「それは昔だ。そしてどうした?」 「一人ではないので安心しました。だからすぐに帰りましたよ」 なんとなく、雪を見るとたまに思い出すんです、とツォンが続けた セフィロスはルーファウスの 友人だったのか 恋人だったのか 後者だろうとは思うが、違うかもしれない ツォンは急に気になってこの話をした そして今更気付いたのだ セフィロスの話になると ルーファウスから表情が消えること 表情が崩れないわけではなく 消えてしまうこと 「ルーファウス様、セフィロスとは、仲がよかったのではないですか?」 ルーファウスが不自然な笑顔をして ツォンを見た 「どうだっただろうか、忘れた」 この人を寂しい人だと思ってきた それは今でも変わらない 前は愛情を知らない子供だとか 人の心が少し欠けていると思っていた 今はそうじゃない、でも何故だかがわからない ツォンがルーファウスと初めて会った時 ルーファウスはまだ幼かった しかし表情も言葉遣いも知識も 大人の様だった 一度だけ 写真で子供らしい笑顔をしたルーファウスを見たことがあって 歳相応のはずのその表情が不自然に見えたのをツォンは覚えている 「ルーファウス様」 窓の傍からソファに移動するルーファウスは ツォンを見ずに「うん?」と答えた 「あなたの事を聞いても?」 ソファに座り、何故とルーファウスが問う ツォンは正直に答えた 「自分でも解らないのですが、知りたいのです」 ルーファウスが腕組みをしてなんだ?と言った ツォンが話し出そうとすると ルーファウスがソファの隣をバシバシと叩いた 「立ってないで座ったらどうだ?」 隣に座り、何故か緊張するツォンは やっぱり私はこの人が苦手なんだと思った 「ツォンは、この会社にいて何か不便を感じることは無いか?」 突然の質問にツォンは困惑した 「ありません」 「では、寂しいと感じることは?」 思い出すのは故郷や 戦うこと殺すこ 「…それは…」 口を閉じたままぼんやりするツォンの肩を ルーファウスが叩いた 「キミは神羅に必要な人材だ。 いなくなられては困るから変なことは思い出させないことにしよう」 そう言ってどこからともなくワインを出してくると 飲むぞ、と笑った 「そういえばキミは何を食べて生きてるんだ?」 「は?」 「キミはどんなものをいつも食べてるんだ?」 そんな他愛の無い話が続いた よくわからない言い回しをするルーファウスに 笑いつつ本当は頭悪いんじゃないかと、ツォンは少し心配するが 真面目な話はさすがと感心する いつもは酔わないのに、と額を押さえ 酔いが回ったことを確信して ツォンは水を飲んだ そういえばルーファウス様の話を聞くはずが 私の話になっていた 水を飲み終えてルーファウスを見ると 呆っと窓の外を眺めていた 「ルーファウス様、酔いは回っていませんか?」 するとルーファウスはツォンを見上げた 「とっくに酔っている。キミは強いな」 きょとんとしたツォンを見て ルーファウスが眉を寄せて笑った 「実は私は、酒、弱いんだ」 フフっと笑ったツォンが ルーファウスの正面に座る 「なあツォン、キミは強いな?」 また突然の質問に、ツォンはすぐには答えられなかった 「…はい」 「では、死ぬなよ」 言葉が出ないツォンの胸を ルーファウスが拳で軽く押した 「命令だ」 「はい」 満足そうなルーファウスを眺めながら ぼうっとする頭でツォンは考える なぜそんなことを? 「なにが、不安ですかルーファウス様」 するとルーファウスが残っていたワインを煽って 優しくグラスを置いて 俯いて笑うだけ 答えは無かった ツォンは初めてこの時 抱きしめたいと思ってしまった 「もうお休みください」 「キミも休め」 ツォンは、ルーファウスの手を握り 「ベッドまでお連れしますよ」 そう言ってルーファウスを立ち上がらせた ルーファウスがツォンの手を優しく叩いて 「大丈夫だ」 「ルーファウス様」 寝室を開けると 電気をつけていない室内は カーテンが開かれた窓から雪だけの光で ほのかに明るかった 「どうした?眠れないか?」 ルーファウスがベッドから上体を起こした 「聞き忘れたことが」 「なんだ?入れよ」 ベッドに腰を下ろし ツォンがルーファウスをじっと見る 「なぜ、昔貴方は入院なさっていたのですか?」 不思議そうな顔をして、ルーファウスがツォンを見る 「ん?監禁じゃなく?」 「いえ、それより前の…」 ルーファウスの考え込む顔に ツォンがはっとして首を振った 「いえ、そうですよね、監禁ですよね、記憶が何か、おかしくなっていました」 「大丈夫か?」 昔、子供のルーファウスが牢獄のような病室に居たのを 一度だけ見たことがあった その理由も意味もわからなかった 今のルーファウスの反応で 触れてはいけない部分だったのでは、とツォンは思った 目の前のルーファウスは考え込み 耳を押さえた 「ツォン、その話、いつの話だったかな?」 「いえ、そんなに昔ではないですよね」 「アレの前だろ?私がもっと、子供の頃の…」 耳を押さえていた手が、首まで下がり 強く首を掻いている 「痒いですか?」 「なんか、酔ったせいかな?」 「私は、入院していた?」 「ルーファウス様、あまり掻かないでください」 「ああ、そうだ」 「ルーファウス様、血が」 ツォンが首に薄く滲み出した血に気付いて 「ああ、血?掻きすぎた」 聞かなければよかった 「なぜ私はあそこにいたんだ?」 それでも首を掻こうとする手を ツォンが握る 「もう眠りましょう」 ここですみませんなんて言おうものなら もっと考えてしまうかもしれない どうして、どんな話だ、と 「あ…」 何かを見つけたように空を見る 握っていた手が硬直した 「ルーファウス様?」 「ルーファウス様!」 叫ぶようなツォンの声に 我に返ったルーファウスがツォンを見て笑った 「すまない、何の話だったか…」 そして耳をふさいで深く俯いた 「大丈夫ですか?」 「ああ、キミは平気か?」 震える身体にツォンが触れようと手を伸ばすと 「出ていろ!」 そのままの体勢で叫ぶルーファウスに驚く そのまま部屋からは出ずに、そこに居るツォンに ルーファウスはもう一度叫び ツォンは部屋を出た 今のはなんだったのか そして、本当は何故ルーファウスが入院していたのか 「何をしておいでですか?」 |
ツォンルーはどうでしょうか。 なんていうかどこまでの信頼関係があるのかが気になります ACではかなりの信頼関係が築かれている印象を受けました なんかだから何?的な小説になったのでアップも迷いましたが せっかく長々と書いたので思い切ってアップ。 ツォン→ルーファウスです 次は両思いも書くぞー |