寒いときに書きました・・・はい、冬真っ只中に書きました
うたごえ |
「何をしてるんだ?」 寒い中、動きを鈍らせながら何かをいじるセフィロスの背後から ルーファウスはその手元をのぞいた その手の中には小さなオルゴール 「鳴らない」 そう呟くセフィロスに ルーファウスは小さく笑った 「どうしたそれ」 「雪の中に埋まっていた」 セフィロスは立ち上がり、振り向くと歩きだした 暖かい部屋に戻っても、オルゴールは鳴らない 昼食を摂ってから セフィロスは黙々と二時間程オルゴールを鳴らそうと作業を続け ルーファウスはパソコンに向かいながらたまにそんなセフィロスを見る 会話の無い空間 それでも空気は重くはならない 「もう無理だ」 セフィロスはオルゴールを投げ出し ベッドに転がると毛布に包まる それからすぐに睡魔に襲われ うとうとすると 心地いい音楽が聞こえた どこかで聞いたことある音楽 その音楽を奏でる音は 「オルゴール?」 セフィロスが飛び起きると ルーファウスのパソコンの横に置かれた、先程格闘した末に諦めたオルゴールが 音色を奏でている 「ルーファウス、どうやったんだ」 起き上がって近寄ると、ルーファウスはくすり、と笑った 「手品」 「器用だよな、お前」 「不器用ではないな」 不満そうにセフィロスはオルゴールを手に取ると、それを眺める 心地いい音色が流れる 「…なあルーファウス、この曲知ってるか?聞いたことがあるんだが…」 ルーファウスは不思議そうに瞬きをすると、眉をひそめて笑う 「さあ」 首を捻り、またベッドに横になると、ベッドの脇にある小さなテーブルにオルゴールを置き セフィロスはルーファウスを手招きする 「もう少しで終わるから」 ルーファウスの返事に セフィロスは不満気に毛布に潜り、目を閉じる はっ、と目を覚ますと、すっかり夜で 電気はついておらず、ルーファウスもいない セフィロスは額を押さえて目を閉じた 「寝すぎたな…」 携帯を手に取り、ルーファウスからの連絡がないことを確かめる 「あいつ、どこ行った…」 カーテンを開けながらルーファウスに電話をする 外は吹雪いていた 電話は、電源が入ってないか、電波が届かないのガイダンス 帰ったのだろうか セフィロスは上着と鍵を手に取りながら、外に出た 合鍵でルーファウスの家に入っても、暗く、人の気配はない 「会社か…?」 会社に電話をしようとポケットに手をいれる いや、でも会社なら、電話には出るよな… 部屋の電気をつけ、飲み物を用意してソファに座る 待っていたら、来るだろう もし誰かと帰ってきたら… テレビをつけて、上着を脱いだ 1時間経っても帰る気配はない 電話もメールも無い 携帯を見て、電話をしようか考え やめた 来るはず 連絡は、来るはず さらに1時間が経過し、連絡がないことに不安になって立ち上がる まさか何かあったわけじゃないよな? 携帯を取り、もう一度ルーファウスに電話をすると 電源が入ってないか、電波が届かないのガイダンス 俺が副社長に、会社に電話をするのは、ルーファウスが嫌がるだろう 会社には連絡できない 急な会議かもしれない 会社に行ってる間にルーファウスが帰ってきたら… いや、でも何かあったなら その時着信が入る 「ザックス?」 「よう!」 通話ボタンを押すと、明るい声が聞こえた 「なんだ?」 「あー、セフィロス、落ち着いて聞けよ」 「なんだ」 「副社長、急な会議入って会社にいたのは知ってる?」 「いや…」 「あー、会議だったんだけど、帰り事故って…」 「なに!?」 「トラックに突っ込まれて、今病院に…」 「どこの!?状態は!?」 セフィロスは鍵を取りながら、外へ出る 「いつもの病院、俺すぐわかる所にいっから、裏口からこいよ」 「状態は!?」 「…車は、大破。ありゃ廃車だな」 「ルーファウスは!」 「…いやすぐ救急車で運ばれたから、見てないんだけど…」 「医者は!看護婦はなんて!?」 「まだ話してない、俺も今来たんだ」 「すぐ着く」 すでに車を発進させたセフィロスは 電話口でそう言うとすぐに切った 「スピード出しすぎじゃないか?」 距離を考えると異常に早い到着に ザックスは腕組みをする 「ルーファウスは?」 「セフィロスか」 奥から出てきたのはツォン 「ああ、ルーファウスは…」 「奥で検査を…」 指差された部屋に飛び込むセフィロスの姿に ザックスとツォンが顔を見合わせて笑った 扉のすぐそこにいた看護婦が、突然のセフィロスの登場に驚き、注意を忘れると 奥にいたルーファウスがセフィロスを見て笑った 「君も検査を?」 採血が終わったばかりのルーファウスに走り寄り、抱き締めると その場にいた看護婦たちの空気が変わった 「無事だったか…よかった…」 「おいおい…」 ルーファウスが宥めるようにセフィロスの背中を叩き、引き剥がすと 看護婦はセフィロスに椅子を差しだし、カーテンを引いてその場を去る 「怪我は?一体どうしたんだ」 はは、と笑うルーファウスの額には、真新しい傷がある セフィロスがそこに触れると、ルーファウスは眉をしかめて身を引いた 「でかい事故のわりには、無傷に等しくてな」 「よかった…でも顔に傷が…」 「ははっ。そんなの」 「相手は?」 「無事だ。というより全くの無傷だ」 「どういう事故だったんだ」 「…向こうの、居眠り運転」 「ルーファウス様、失礼します」 ツォンの声に二人が振り向くと カーテンが開かれた 「処理は済ませました。特に異常無しとのことで、お帰りになっても… 送りは、いらなかったですか?」 「野暮」 ツォンの腕をつかみ、ザックスが二人に手を振って出ていった 「セフィロス!明日は出勤前にルーファウス様を再検査に病院にお連れしろよ!」 引っ張られながらも喋るツォンに、セフィロスとルーファウスは顔を見合わせて笑った 「車まで抱いてってやろうか?」 悪戯にセフィロスが笑うと ルーファウスが笑ってその広い肩を叩いた 「無傷だっての」 「俺の家で良いか?」 「どちらでも。どうせ明日はゆっくりだ」 「痛むのか?」 「いや」 ベッドに転がるルーファウスが、オルゴールを手に取る 「なあルーファウス、出掛ける時は置き手紙かメールくらいしてくれ」 「君が起きる前に帰る予定だったんだ」 「心配、した…」 「ふふ」 「休め、疲れただろう?」 「君は?眠くないだろう?」 「一緒に布団入っていれば眠くなるさ」 寝入っているルーファウスを腕枕しながら オルゴールを鳴らすセフィロス 「どこかで聞いたんだよなこの曲…なんだっけ…」 歌声が聞こえる これは夢だ ああ、この歌、オルゴールの曲 ああ、そうか、昔聞いていたんだな かあさん? 違う、でも… ああ、そうだ、思い出した セフィロスが目を開くと ルーファウスが複雑そうな顔でセフィロスを見ていた 朝陽がカーテンの隙間から差し込んでいる 「…おはよう」 複雑そうな顔のまま、ルーファウスが口を開く 「ああ…おはよう…どうした?」 ルーファウスはオルゴールを回しながら セフィロスを見ている 「この曲、思い出でもあったか?」 セフィロスがオルゴールを取り上げ 枕元においてからルーファウスを引き寄せた ルーファウスが見下ろす形でセフィロスを見る 「ああ、そういえば、小さい頃誰かが歌ってくれていた曲だ。 そして初めてお前が口ずさむのを聞いたのもこの曲だ」 ルーファウスは苦笑してセフィロスの鼻をつまんだ 「だから、かあさんって?」 セフィロスは気まずそうな顔で自分の鼻をつまむ手をよけた 「オレが言ったのか?」 「寝言だな」 「歌ってたか?」 「いいや」 「歌ってただろう」 「母親のようには歌ってない」 「わかってるよそんなの」 ルーファウスを引き寄せて、額の傷にキスをする ルーファウスは笑いながらセフィロスの胸に頭をおいた 「続き歌ってくれ」 「イヤだ。起きるぞマザコン」 「この野郎」 セフィロスがルーファウスを掴んで組み敷くと ルーファウスが顔をゆがめる 「あ、すまん、痛むか?」 「はは、いや、大丈夫だ」 「お前ここ、腫れてるぞ」 「っ…そこ、は、ちょっと…」 セフィロスが薄笑いでルーファウスを眺める 「…痛いのか」 「その顔やめろ」 セフィロスの額を叩いてルーファウスが苦笑する 「病院、行かなきゃな」 「1人で行ける。君は仕事に」 「せっかく一緒にいられるんだ。付いて行かせてくれ」 「そうか?」 「ああ、そうだ」 病院にいく準備を終えたルーファウスがセフィロスから紅茶を受け取る セフィロスはルーファウスをじっと見てため息をついた 「なんだ、そのため息」 「…昨日、おきていきなりお前がいないもんだから不安になった」 「子供か」 「電話にも出ない。お前の家にもいない。いろんなことを考えたよ」 ルーファウスは紅茶を飲みながらセフィロスを眺める 「例えば、お前が他の奴と一緒にいたらとか、何かあったのかとか」 「他の奴と一緒にって…」 「それはただの嫉妬だが、ザックスから、お前が事故に遭ったと聞かされて 本当に心配だった」 セフィロスは自分の持ってるコーヒーカップを揺らしながら 緩やかに波打つコーヒーを眺める 「俺が寝てても、次からは起こせ。絶対にだ。約束しろ」 ルーファウスは紅茶をテーブルに置いて、無表情でセフィロスを見上げた 「君も、私が寝ていても出かける時起こすというのなら、約束してやってもいい」 ルーファウスと目を合わせて、セフィロスが苦笑する 「お前、思ったより不安があるんだな」 「何故」 「いや、不安そうに見えるから」 「バカか」 苦笑してルーファウスはもう一度紅茶を持ち上げた 「約束するから、ルーファウス、約束してくれ」 「…わかった」 笑って、お互いの手のひらを叩いた |
姿が見えなくて不安なのはセフィロスだけじゃなかったりする ルーファウスも人並みに不安になったりするのね |