出会い








窓から外を眺めていると
後ろから幼い少年が声をかけてきた


「セフィロス。君はまだ子供なんだな」


俺より幼いその少年が、私の 少し後ろに立って 窓を見ている姿が窓に映る

初めて見る顔
誰か、社員の子供だろう


「おまえは子供じゃないのか?」


そう言いながら振りかえると金髪を少し揺らして
少年が俺を見上げた


「君の噂は聞いている。こんなに幼いとは思わなかった」


俺の名前は確かに知られていた

しかしこんな子供にこんな言われ方は初めてだ






「綺麗な目をしているな」


初めて言われた言葉に戸惑った



何を言っているのか

俺をからかいたいのか


少年が少し笑った

それはとても人懐っこいように見えた



「緑は、人の心を穏やかにする色だ」



少年の深い青色の目が俺を見る



なぜだろう、不愉快だった



俺は逃げる様にその場を後にした














数日後、任務を終えて立ち寄ったいかにも平和な小さな街の
小さな公園のベンチに腰を下ろした



家族連れが多い

子供がはしゃぐ
見守る笑顔の父親と母親

当たり前の風景




「また会ったな」


突然声をかけてきたのは数日前の金髪の少年


「何か用か」

俺が聞くと、少年はベンチの隣に立った


「何が見える?」



鬱陶しい



「民間人だろう。ただの家族連れだ」


少年は家族連れを眺めながらただ立っている


「君も家族とああして過ごしたか?」


苛ついて、俺は立ち上がった



ブランドで身を固め、着飾る姿
剣も握ったことも無いような傷ひとつ無い手
筋肉もなさそうな細い体

苦労をしらないという雰囲気が滲み出ている



「ぬくぬく育った坊っちゃんに何がわかる?」



そうだ。俺は親を感じた試しがない。



「家族など…」




俺には親も兄弟もいない




立ち去ろうとした時



「君のお父さんを知っているよ」



そう言って少年は先にその場を立ち去った



そんなのは

誰かと勘違いしたんだろう


でも、無性に腹が立った



一体あいつは何がしたいんだ


何が言いたいんだ




考えるのも面倒くさくなってやめて


俺もすぐにその公園を後にした















翌日、射撃場に行くと

その少年がいた


小さく細い、幼い手に似合わない大きな銃を構えていた

嫌な気分だった


姿も見たくなかった


こいつは嫌でも自分との差を感じさせられる


言葉ひとつでイラつかされる


裕福なお坊ちゃんの道楽に付き合う暇など俺にはない




すぐに立ち去ろうとすると

少年はこっちを向いて
銃を下ろした



「セフィロスか。また会ったな」



仕方なく、少年の方を向くと

少し笑っているように見えた

またあの人懐っこいような顔に見えた



「坊っちゃんはお友達とでも遊んでろ。銃なんか触るんじゃない」


少年の銃を取り上げ、人間の形をした的の心臓に打ち込んだ


「これは人を殺す道具だ」


俺がそう言った後
弾の先を見ながら少年は小さく笑った



「君は友達がいるのか?」

俺の持っていた銃を取り上げ、少年が構えた

「俺には友人も、仲間もいる」



少年は俺の打ち込んだ場所に

見事に銃弾を打ち込んで見せた




「ルーファウス様、ここにいましたか」


その少年に声をかけたのは
タークスの人間


ルーファウス


社長子息の名だ



「お前、社長の息子だったのか」



タークスが俺をにらむ


「セフィロス、言葉には気を付けろ」


ルーファウスがタークスの腕を軽く叩いて銃を渡した


「いい。セフィロス、言葉を改める必要はない」



少年、ルーファウスは
迎えに来た男に連れられ、射撃場を後にした



あいつがあのワガママで有名な

プレジデント神羅の息子か














数時間後、先ほどのタークスの男が俺の前に来た



「セフィロス、今日最後の仕事だ。ルーファウス様を自宅まで送り届けてくれ」

そう言うとすぐ、走りだした


断る暇も無かった


残されたルーファウスがその背中を見送る


「忙しい奴ばかりだな」


俺は腕を組んでルーファウスを見下ろした


溜め息が出た


子供のお守りは俺の仕事じゃない


喉まで出た言葉を飲み込む


言ってても仕方が無いことかと諦め

ルーファウスから廊下に目を移した


「自宅とは、社長の自宅でいいんだな?」

「あぁ」








自宅の門の前でバイクをとめた


「たしかに送り届けたぞ」


ルーファウスはバイクから降りると

俺を呼んだ



「入れ」



ルーファウスは返事も待たずに入っていく

仕方なく玄関に入ると
ルーファウスが中に入れとジェスチャーをする



「入れ。何か飲んでいけ」



「一応仕事中なんだが…」

「もう上がる時間だろう」



半ば強引に通されたルーファウスの部屋の、ソファに座る


広く、豪華で、贅沢な部屋




「用事でもあったか?」


ルーファウスが目の前に座った


じっくり見るとますます思う

その言葉遣いがその幼い顔に似合わない



「暇ならお前、友達と遊んでろ」



ルーファウスは困った様な顔をして
笑った



「君の事は資料で見たり、人から聞かされたりしていた。
特別な者だ、と聞かされていたよ」


特別

言われ慣れている言葉だ



「攻撃的な奴だと思っていたよ。そんな雰囲気じゃないんだな」



真っ直ぐに俺を見る



短い沈黙を破ったのは部屋をノックする音

メイドが飲み物を運んできた






「仕事は、辛くないのか?」


「辛い?」


少し、考えた

仕事は難しくはない

難しいと辛いは、違うよな





少し時間が流れ、部屋の外が騒がしいのに気付いた


「あいつが帰ってきたんだろう」


ルーファウスは興味のなさそうな顔をして紅茶を飲んでいる


社長がルーファウスの名前を叫んでいる


部屋の扉が開いて

すぐに立ち上がったルーファウスを

突然現れた社長の手が殴った



倒れこむルーファウスに近寄るか、寄るまいか考えていると

社長が俺を見た



「セフィロスか、ご苦労だった」



それから冷たい視線でルーファウスを見下ろすと
 背中を向け



「恥さらしめ」

と吐き捨てるようにルーファウスに言うと

部屋を出ようとした


立ち上がったルーファウスが

一歩足を踏み出した



「お前は恥の塊だ」



社長はその息子の言葉に動きを止め

ルーファウスに向き直ると同時に

強くこぶしを振り上げた



鈍い音がして

白いルーファウスの顔が赤く腫れあがる


俺はルーファウスの前に立ち

また拳を振り上げる社長の手を制した



「おやめ下さい社長。無意味です」



社長はそのまま

背中を向けて部屋を出た




この親子の関係は

一体どうなっているんだろう




口から出る血を拭いながら

ルーファウスは俺に苦い笑顔を向けた



「つまらん場所に引き止めて悪かったな。もう戻れ」



ワガママ

生意気

嫌味

ただのお坊ちゃん



俺はルーファウスが評判とは違う気がしていた



「父親は厳しいか?」

「そう見えるか?」


俺の問いに、ルーファウスは口元を押さえながら軽い口調で答えた



「私は親父が嫌いなんだ」



笑った様に見えた


ルーファウスに歩み寄ると

ルーファウスは反対の窓側に足を運んだ



「帰らないのか?」


「神羅を継ぐのか?」



ルーファウスが笑った



「私が継ぐ。そうしたらセフィロス。神羅を守ってくれ」



ルーファウスが俺に近づく



「私は神羅という名で、セフィロスを守ってやる」


























あれから3年


ルーファウスを再び見たのは


ルーファウスが神羅に副社長として入社してきた時だった




その顔にあの時の人懐っこい 面影はなかった