あいしてる






目の前に突然降り下ろされた剣に驚き、目を閉じてしまった

目を開いた次の瞬間、見慣れた背中がルーファウスの前にあった



「無事か?」



笑いながらセフィロスは ルーファウスの手首を掴む



「君は私の部下じゃない」



お前を俺が守る、と言ったセフィロス
ルーファウスは彼を睨むと自分の手首に視線を下ろした


ルーファウスは少し離れた所にいる神羅の社長を見た

襲われた時 セフィロスは社長ではなく
ルーファウスに駆け寄り 敵をなぎ倒した

社長を守ったのは セフィロスより後ろにいたソルジャーだった

どちらも一瞬の出来事で


社長の護衛の筈のセフィロスがルーファウスの護衛を優先した事は
そこにいる誰もが気付いた


社長は無言で帰路に着く


セフィロスが本気で自分を守ろうとしているのが
ルーファウスにもわかっていた



「俺はお前がいればいいんだ」



帰り道の車内でセフィロスはそう言って笑った



「今頃親父は不機嫌だろうな」

「だろうなあ…」

「セフィロス、強いのは認めるが、
君は戦闘能力で言うところの強さに心が付いていっていない」

「俺の心が弱いと?そんなの、お前が傍にいれば問題はない。
お前が傍にいれば、俺は強くなれる」

「…馬鹿め」



笑うルーファウスに
セフィロスが微笑んだ



手を伸ばして空を掴む

ルーファウスは暗闇の中 目を覚ました









「ずいぶん昔の夢だ」



空を掴んだ手で目を覆い隠し
ルーファウスは笑った

過去の夢なんか 何故今更見なくてはいけないのか
自分が過去にとらわれている証なのか

全く情けない事だ、と自身を嘲笑う


彼を、忘れたことは1日と無い

死ぬほど忙しくても 思い出す瞬間はある

誰かといても それは同じ



「セフィロス」



消えるような小声で呟く


何かがを襲う

何から来る不安なのか
震えるように
涙が出るように

ルーファウスは小さくうつむいた
夢には、出てくるくせに

目は熱い

涙は出ない










翌朝、ルーファウスは晴れた空を窓から見上げた



「ルーファウス様、失礼致します」



ツォンが一礼をして報告書を出すと ルーファウスはそれを受け取った



「ご苦労様だった」

「では次の任務にとりかかります」



また一礼をして、ツォンは出ていく

ルーファウスはそれを見送って立ち上がった






「社長、ここは危険ですよ。なにをしに来たんですか、と」

「仕事に決まっているだろうが。この施設は使えそうだな」



レノがモンスター退治をする廃墟をルーファウスが見回す



「でも全部1から作り直しですよ」



壊れた機械を探り ルーファウスが笑う



「直せる」

「ええ!直るんすかこれ!」



様々な機械を見回し レノが驚く



「私は機械を直す。レノ、モンスターを頼んだぞ」

「近くにデカイ巣があるんで、先にそこ片付けてくるぞ、と」

「ああ、任せた」



廃墟に並ぶ無数の機械を手入れする

まずそれだけで、時間がかかった

廃墟の清掃は他の部下にやらせ、それは既に終わっていた



そこへ疲れた顔でレノが戻ってきた



「機械の掃除もやらせりゃよかったでしょ」



そう言うレノに、ルーファウスは苦笑する

「この機械の扱いを知らない奴に頼んで使い物にならなくなったらどうする。
過去のデータの復元ができなくなったら勿体ないだろう」



綺麗になった、さっきまで廃墟だったこの建物を見回し、レノが呟く



「…すごい昔、ヴェルド主任と来たことが…」



レノを眺め、ルーファウスは機械の前にあったスクリーンを見上げる



「ここからよく、本社とも連絡を取っていた。よく本社にあった情報を盗んだもんだ」

「ここ、なんの建物でしたっけ?」



記憶を探りきれず、レノがルーファウスに訪ねる



「私が親父に監禁された建物だ」



人里離れた建物
監禁というには設備がよすぎる



「ここで?不自由ないだろ、監禁にならないぞ、と」

「まあ、外に出れない以外の不便はなかったね。モンスターは?」

「さすがに全部とはいきませんでしたが、巣は破壊しましたよ、と」

「そうか、ご苦労。帰っていいぞ」

「社長は?」

「機械のメンテナンスを。今日はここで過ごす」

「危ないっすよ。俺もいるぞ、と」

「危険か?」

「いや〜、多分大丈夫だとは思うんですが、まだ何が出るかわからないぞ、と。
それに電気や寝床は?」

「電気や水道などは通った。寝室も新たに入れ換えた」

「早…や、一応俺、一緒にいますって」

「いい、帰れ。何かあったら連絡する」

「…わかりました。何かある前に連絡下さいね」

「ああ、何かありそうだったら連絡する」




レノが帰った後 スクリーンの前のコンピューターの前に座った

コンピューターをいじると 昔のデータが出てきた



「懐かしいな」



昔自分が作成した書類や 本社から盗んだデータ

それらを整理し終え、一息ついた時



「…なんだ?」



覚えの無いデータが隠されていた様に、ひっそりとあった

コンピュータや中の情報を攻撃する類のものではない

それは音声で

ルーファウスは少し身構えて 再生した



『ルーファウス、お前はいつこれを見つけるだろう』



悪戯っぽく笑いながら話すその声はまさしく



「…セフィロス…」



『もしかしたら、見つけることなく終わるかもしれない。それはそれでいい。
お前の目にしか触れない様に、ここにこのデータを送る。
ここにお前が来ることは、もう無いかもしれない。
ここに来ると言うことは、またお前は一人、監禁生活を送ると言うことだから、
聞くことはない方がいいかな。
だが、聞いているなら…不安はないか?不自由は無いか?不満はあるだろうな。
…俺は今日、これからニブルヘイムの神羅屋敷へ行く。
嫌な予感が、何だか胸騒ぎがするんだ。
なんだろうな、お前に何かあったらと考えると、不安だ。
早くお前に会いたい。ルーファウス、今何してるんだ?何かあったら、すぐ呼べよ。
俺はお前の為ならどこにいてもすぐに飛んでいく。
お前が呼ぶなら、すぐに行くから、呼べよ。
ルーファウス、お前は俺が守るから。
…もう時間だ。このデータをお前が監禁されていた神羅の別荘に潜り込ませたら、
任務に行くよ。帰ったら、またお帰りって、迎えてくれよ。

ルーファウス、愛してる』



思いがけない、声の手紙に ルーファウスはしばし止まる



「人の…心配ばかりしやがって…」



手を握りしめて ルーファウスは下唇を強く噛む



「助けに、来いよ…セフィロス、苦しいんだ…」



俯き 両手で顔を覆う



「残すなよ…こんなの…いつまで待てばいいんだ…」



どうして、今更

こんなところに


涙は出ない

ただただ、息苦しい


もう一度再生して 懐かしい声に聞き入る





共に見た景色の中で セフィロスが笑顔を見せる



もう戻れない過去


セフィロスはもう、私の知っているセフィロスは、いない

セフィロスは
どんなに苦しんで どんなに悲しんで どんなに恨んだだろう

負の念しかなくなってしまった彼を助ける方法は 自分は持っていない

できる事なら私の手で
この手で終わらせてやれたら



「すまない…セフィロス」



守れなかった、彼を少しも。
守られるばかりで



『ルーファウス、愛してる』



鋭い傷みがルーファウスを襲う

泣けたら 楽になるのだろうか


震える手でそのファイルを閉じた


ルーファウス

セフィロスの呼ぶ声が聞こえる

彼の笑顔ははっきりと覚えている

彼の手も声も体温も



気が遠くなっていくのを感じた










おそらくこちらが最後の更新。
皆様、ありがとうございました。



2012・12