その傷
















ルーファウス



声が響く



名前を呼ぶ声



セフィロス…



懐かしい声





初雪だぞ、ルーファウス

見てみろ、雪だ





「セフィロス!」



寝室から勢い良く飛び出すと

部屋にはセフィロスの影などあるはずもなく


「社長?」


辺りを見回すルーファウスは、そこにいたレノにも気付かずに

慌てたように素足のまま外に飛び出すと

ひやりとした感触


寒空

まだ、外は薄暗い



雪景色



早足で歩き回り



何かに足が切れた


血に染まる雪を見て、我に返る



そうだ、いるはずが、ない


「社長!」


レノがルーファウスに走り寄り

少し、困った顔をした



「なした?」



その場を動く気配がないルーファウスを

レノはその細い身体で軽々と抱き上げる



「わ、待て」

「歩かせられません」

「歩く、歩くから下ろせ」



足から滴る鮮血に目を細め

レノはそのまま歩いた



「社長、雪降りました。根雪になりました」

「…そうみたいだな」



家に入り、ルーファウスを座らせひざまづく


「夢でも見ました?」

「ああ」

「悪夢?」

「…いいや」

「痛みます?」

「…いいや」



足の手当てを終え、レノがルーファウスを見上げる


「…なあ、どうした?」

「…よく、わからない。懐かしい夢を見た、それだけ」


レノの目線を避けるように、ルーファウスは窓に視線を移す


粉雪が舞うようにゆっくりと降り続く


「降り出したんだな」

「そうっすね。寒くないすか?」

「…ああ」







もう、遠い昔の事に感じる



懐かしいあの声

眼差し



セフィロス



ふたり、歩いた

銀世界


雪に溶けそうだった


そうだ、あれは…










「ルーファウス、雪だ」










「おい!ちょっと!」




走りだし、車に乗り込むルーファウスを追いかけ、レノは車に乗り込み

走りだすルーファウスの車を、追った








昔セフィロスと来た展望台

ここで二人で雪を見た


それは初雪だった



柵に付いた傷を撫で、ルーファウスは座り込む



これはその時、セフィロスが付けた



レノは後ろから黙って、ルーファウスを見守る






なぜ、いないんだ、なぜ




傷をなぞり、額をつける




笑う顔が、好きだ、と

セフィロスは笑った



その笑顔は綺麗で儚かった



笑えないよ、お前がいないんじゃ、笑えない



ジャケットを脱ぎ、レノがルーファウスに歩み寄る



「社長、風邪ひくぞ、と」



そう言ってジャケットを羽織らせ、また距離を置くように下がろうとした時

ルーファウスの目元が光った



泣いている?



とっさに、レノはルーファウスの肩を掴み顔を覗き込むと

涙ではなく粉雪だということに気付いた



「レノか」



ほっ、としながらレノは、微笑んだ



「貴方を心配しているんですよ、と」



ルーファウスは少し濡れたレノの髪を撫でる





「すまない。まだ寝惚けているのかもな」



「クラウドやツォンさんとかに話せなくても
俺には話せるだろ?」



少し間を空けてルーファウスが苦笑して

柵の傷を指でなぞった



「これは、昔のな、恋人が、付けた傷だ」



「うん」



「少し下に、私も付けた。
馬鹿馬鹿しいけど、その時はそれでよかった」



「うん」



「さっきはその人の夢を見たんだ。とても、温かかった筈なのに…どうかな」



そう言うとルーファウスは立ち上がり

景色に目をやった



「社長、そん時幸せだった?」


「…そう、だったんだろうな」


「戻りたい?そん時に」




ルーファウスが振り返りレノを見る




笑っているのだろう




朝陽が眩しくて、その表情はレノの視界にははっきりと入ってこなかった

















いいんです。中途半端でそれでいいんです。