ルーファウスが今朝からいないと連絡を受けて

探し回るツォンの元に一本の電話がかかってきた




リーブの執務室のソファで横になって寝ているのはルーファウス



「…何故ここに?」



ツォンが苦笑してリーブを見ると

リーブも笑いながら さあ、と首をかしげた



リーブが今日初めて自分の執務室を訪れたのは

もう昼も近くなった今の時間で

それまでは他の部屋に居た


ルーファウスがいつ潜り込んだのかは謎だ



ツォンがルーファウスの額を触る



「熱があるだろう」


リーブが言うと、ツォンが頷く



「私はこれから外せない打ち合わせなんだ、ルーファウスを頼めるか?」



「ええ、医務室に運びます」



ツォンがルーファウスを抱き上げる



「ルーファウスはここの医務室が嫌いだそうだ。
違う病院へでも運んでやってくれ」



「はい、わかりました」




























「気が付かれましたか」


薄く目を開くルーファウスにツォンが気づく



「大丈夫ですか?」





ルーファウスはツォンと目を合わせ、自分の腕に刺さる点滴を見上げた



「何で?」



そういってルーファウスが眉間にしわを寄せると

ツォンが軽く噴出した





丁度看護婦が来てルーファウスを覗き込み

「顔色よくなりましたね」と微笑む

そして点滴をいじってから病室を出た




「私は何故点滴をしているんだ」


自分を見上げるルーファウスに ツォンは困ったように微笑んだ



「全く困った人ですね貴方は」



わからない、という顔をしてルーファウスは天井を眺める



「だから何故、私はここで寝てるんだ」



「…ただ体力が低下していただけです」




ルーファウスが眉間にしわを寄せながら考える



「しっかり食べてください」


「食べてるぞ」


「…もっと食べてください」


「…」



「ところでルーファウス様、貴方はどこで寝ていたか覚えていますか?」


「リーブの執務室か?」


「ええ、何故あそこに?」



ルーファウスが少し考え、ツォンを見る



「帰るのが面倒で」



納得のいく答えが得られなかったツォンが眉間にしわを寄せる



「一人で大丈夫だ、帰れ」



「そうはいきません。貴方を任されていますから」



「キミがいて、私がゆっくり寝ていられると思うのか」



「ルーファウス様、そんなに私が嫌いですか?」



「そうじゃない、私の機嫌が悪いだけだ」

病院なんかにいたら病人になった様で気分が悪い、と

まだまだ時間がかかりそうな点滴を眺める



「点滴が、終わる頃に迎えに来ます」



ツォンが病室を出ようとドアを開けた時

ルーファウスがツォンを呼び止めた



「迎えはリーブをよこしてくれ」
























「全く困った人ですね」


笑いながらルーファウスの頭を撫でると

リーブが医師や看護婦に挨拶をした



「しかしルーファウス、何で私の部屋で寝てたんですか?」



ルーファウスは髪を直しながら少し笑った



「調子が悪くて、すぐ横になりたかったんだけど、家まで帰るのが面倒で」



「なんで私のところに?」



車に乗り込み、シートを倒してルーファウスが深くため息をつく



「顔を見てやろうと思って。でもよく考えたらもうキミは退勤した後だった」



「…昨日の夜からいたんですか…」


「そうだ」




車をゆっくりと発進させながら

リーブはミネラルウォーターを差し出した



「これしかないけど」



ルーファウスは薄く笑ってそれを受け取った



「どこか寄る所ありますか?」



「リーブん家」



「いいですけど、何かあったんですか?」



「…リーブ、私の母親を知っているか?」



「…いや…どうして?」



ミネラルウォーターを一口飲んで

ルーファウスはリーブをじっと見た



「私は、プレジデント神羅の妻の子か?」



「何を言ってるんだ?」



ルーファウスは首を引っ掻きながらああ、もう、と強く呟く



「私は母の姉によく似ているんだと」



母の姉の子ではないかと思っているのか

リーブは優しく笑った



「伯母さんに似る事だってよくある話です。不思議でもなんでもない」



しかし誰が言ったんだ と、リーブが聞くと

ルーファウスから宝条の名前が出てきた



「おやじは母ではない人を愛していたと聞いた。それは母の姉?」



神羅一家のプライベートを、こうも簡単に聞いていいものかとリーブは苦笑する



「ルーファウスはお母さんに似てないんですか?」



「わからない。顔を知らないんだ。その伯母の顔も」



「ん?写真くらいあるでしょう。
お母さんが亡くなったのは、ルーファウスがいくつの時ですか?」



物心がついていたはずじゃなかっただろうか




(アレが死んだ時 コイツも目の前にいてな
覚えていない方がいいから 記憶は消したんだ)




プレジデントが昔言っていた言葉を思い出した



「忘れた。母のことはさっぱり思い出せないんだ」



「そこまで悩むことじゃないですよ」



「でもリーブ、気になって仕方ないことがあるんだ
それがコレとつながってる気がする」



「何がですか?」




「オヤジが私を憎みながら、なぜ手放さないのか」










あれだけ愛した母は父に殺されたようなもの

父は母を裏切ったから


なぜかそう思っている


でも、それが真実なのかなんなのか、わからない

そもそも母を覚えてはいないんだから

その存在が自分に愛情を注いだのかもわからない



父が自分に愛情を持っていないのは手に取るように解る


でも父が自分を手放さないのは

世間体というだけの理由ではない気がする


他に何か理由がある気がする




「考えても答えが出ないんだ」



もう一度ミネラルウォーターを飲むと

ルーファウスは身体を伸ばした




「それは私にも解らないですよ」



リーブは自分の家に着くと車を止めて、ルーファウスの方を向く



「でも、プレジデントが 本当に貴方に愛情が無いとは思えないんですよ、私には」

確かに、愛されてるようには見えなかった

でも、それでもリーブは時折見せるプレジデントの父親の顔を知っている




ルーファウスがめいっぱい嫌そうな顔をして見せる



「でも私は、本気で愛情のかけらも愛着のかけらも無い。
それはきっとあいつも同じだと思う。
死んでも悲しくは無い、寧ろ嬉しい」


いいから家に入る、とルーファウスが車から降り

リーブもそれに続いた


家に入って、ルーファウスをとりあえず横にならせるために

リーブは寝室まで来た



親子がそろってる所をあまり見たことが無い

ルーファウスはある程度成長してからは

プレジデントとは暮らしていないらしい



この親子のことはわからないことが多い



リーブは、「それでも、親子の絆を信じたい」と言った




ルーファウスがにっと笑うと、リーブに抱きついた



リーブは驚きながらもルーファウスを抱きしめる




「どうしました?」


「絆は他の形でも存在するよな?」



リーブが家族だったらよかったのに



それは、口には出せなかった

絶対に不可能だと解ってるから

口に出してしまえば虚しいだけだから




「ええ、すると思いますよ」


優しくルーファウスの背中を撫で

リーブがルーファウスの額にキスをする




歪みかけているルーファウスに、リーブは気付いている


小さい頃から歪みはあったが、成長するにつれてはっきりとしてくる歪み



このまま成長しなければいいのにとすら思ったこともあった



どうしたらこの歪みを修復することができるのだろうか




「親の愛情が欲しいですか?」



欲しいといわれても、いらないと言われても

自分が代わりにやると言いたかった




ルーファウスは抱きつく腕を強める



「そんなもの、いらない。愛情なんて、いらない」



「何故?」



「そんなもの知らないから」



リーブは身体を離してルーファウスをじっと見る



「それじゃあルーファウスは、私に愛情は無いですか?」



ルーファウスが目を丸くして、それから眉間にしわを寄せた



「私は貴方に愛情を持って接してるつもりですよ?」



ルーファウスの両手を包むように

両手で掴む



そのままの表情を崩さず、ルーファウスはリーブを見る



愛情


それってなんだろう



「貴方がいなくなったり熱を出したりすると心配だし
何日も顔を見てなければ顔を見たくなるし
話をしたくなるし
こうして抱きしめたくなるし」



そういってリーブがルーファウスを抱きしめ、ばたっとベッドに倒れこむ



「だから安心して寝なさい」



「とことん子ども扱いしやがって」



ルーファウスが苦笑をしながら強く抱きつく




絆なんて

愛情なんて


言葉と一緒で信じれない


リーブにそう言うのは罪な気がして口には出さなかった



きっと自分は独占欲が強いんだと思う


例えばリーブが奥さんを作ったら、俺はそうなったときの自分の気持ちが怖い


だから距離は置かなければならない



絆も愛情も届かないくらいの距離を







「おやすみ」










リーブはルーファウスの頬にキスをして

眠りに落ちたルーファウスからそっと離れる



仕事に戻ろうと思いつつ


寝顔を眺め、髪を撫でるとそのリーブの手を握った




「いかないで」




完璧に寝言だった


寝てても寝ていなくても、そんな言葉は初めて聞いた



リーブは優しく微笑んでルーファウスの隣に入り込んだ





このまま、成長しなければいいのに



このまま、ルーファウスが遠くに行かなければいいのに




そしてルーファウスが望むなら

ずっと一緒にいるのに







































副社長になる前の話かな?というくらいの気持ちで。
その後リーブに彼女とか出来ちゃってルーは距離を置くとかなるかな。
うちのルーの初恋はリーブかもしれなくなってきた件。
相思相愛でいいのよ。