闇の向こう側






(誰だ?)


意識の中で、何かの感触が頬をくすぐる



(ダーク?)



ルーファウスの頬をダークネイションが舐める




(私は、生きているのか?)





何故生きているんだ、と可笑しくも無いのに笑った




薄く開いた目で

瓦礫の中に自分がいる事に気付いた



震える手で、ルーファウスがダークネイションを撫でる




「お前が、助けてくれたのか…」



優しく笑ってダークネイションにキスをする




ダークネイションが鼻を鳴らして

ルーファウスにぴったりと寄り添う



足は完全に動かない

背中にも激痛が走る


どうしたことか、視力が殆ど無く感じる



あのウエポンの攻撃からどれだけ時間が経っただろう



少しの時間?


何日も?




ゆっくりと周りを観察して

ダークを撫でると

手が濡れた






ルーファウスが動かない体を無理矢理動かし

ダークネイションを抱きしめる




「お前も、私を置いて、いく気か…」



重くなって

かたくなって

つめたくなっていく体をずっと抱きしめていた




「ダーク、逝くな」






「逝くな」










遠のく意識の中で



セフィロスが

お前は弱くていいから、強くなる必要が無いからと言っていた



俺が守ってやるから、と


セフィロスがこいつを連れてきたんだ



「俺がいない間はこいつ連れておけ」



「は?これモンスターじゃないのか?」



「まあ、似たようなものだな」



セフィロスに懐く黒豹



「コレどうしたんだ?」



「任務中にどうも殺しきれなくて拾って来た」



「なんなんだオマエは」



「だって鼻を鳴らして懐くんだぞ?殺せるか?」



「モンスターに懐かれるお前ってなんだろうな」



「元々俺を襲ったわけではないんだ。怪我をしていたのを助けた」



「お人よしっていうかなんと言うか…」



「ダークネイションだ。ダーク、新しい主人にご挨拶」



猫の様にルーファウスにすりついた




「ダークってのか。強いのか?」



「お前よりは」


「あーそうかハイハイ」



セフィロスが笑ってルーファウスとダークネイションを撫でる



「仲良くしろよ」



「子供か!」






ダークネイションは忠実に

ルーファウスを守った


セフィロスとの約束を守った






ビルが全壊する前に

ルーファウスを助け出して命を落とした



私を助けなければまだ生きていただろうに



だから動物は嫌なんだ



自分がした以上尽くして

先に死んでしまう





ダークを助けたセフィロス


私を助けたダーク



私は誰かを助けることが出来るだろうか?





目を閉じて意識を手放した後


もう目が覚めないほうがラクだと思った



でも、また目が覚めるなら私は何か

するべきことがあるのかもしれない




ルーファウスはダークネイションの亡骸を抱きしめて


目を閉じた














本当はこのまま逝ってしまいたいんだ










































目覚めてしまった後は最悪だった






「神羅の社長が生きているなんて悪夢だね」



目覚めた時、老いたナースが言った



目覚めて最初に聞いた言葉



「何故あんたが死なずに私の息子が死んだんだ」



「殺してやりたいよ」




動けない体


開かない口



ルーファウスは泣くことも怒ることも


顔をゆがめることもせずその看護婦の顔を見た




次に病室に入ってきたとき

その看護婦がルーファウスの呼吸器を外した




「苦しんで死ぬがいいさ」



そこに入ってきたのはタークスだった



「なにしてるんだ!」



最初に叫んだのはツォン



「社長!」



最初に呼んだのはレノとルード



「目が、覚めたんですね…」



目に涙を溜めたのはイリーナ





その看護婦はクビになることは無かったが

違う病院に回された



医者も看護婦もほとんどが


ベッドに横たわるルーファウスを見ては


冷たい視線かため息か、暴言を突きつける



その中でただひとり


中年の医師がルーファウスを気にかけた





「私はキミのお父さんをよく診たんだよ」

「キミはお母さん似だね」

「死にたいなんて考えるなよ。死にたくなくて死んでいく人たちが大勢いるんだ」


「たった一人しかいなかった家族だった息子を星痕で亡くしたんだ。
きみと同じ年だった」



「右目はだいぶ目は見えるようになってきたんじゃないか?」



「呼吸器もう外れるぞ、頑張ったな」





喋らず、タークスすらよせつけないルーファウスに


話しかけ続けた医師



タークスはほとんど話しかける機会すら与えられなかった


しかし一日たりとも全員が

部屋をノックしない日は無かった


ルーファウスは世界の状況を逐一確認し

タークスに仕事を頼んでいた

それは書類を渡すだけ

それだけの事でもタークスは何かと理由をつけて会いに来た





「そろそろ、彼等と喋ってあげたらどうだ?」



それはルーファウスが起き上がれるまでに回復した時だった



「彼らの気持ちも考えるんだ」











「社長は、いつ私たちにちゃんと会ってくれるんでしょう?」


俯き、今にも泣きそうなイリーナが喋りだした

病院の待合室



「社長だって今きっと何かと戦ってんだろ」


レノが言った


ツォンがため息をつく


「社長のやろうとしてることは何となくわかるが、話もできないとなるとな…」



「ずっと表情の無いままの社長なんて悲しいです」





その時まわりが少しだけざわついた


すでに医師か看護婦しかいない時間帯



4人はざわめきの原因を探すと


ルーファウスが車椅子で移動をしていた



「社長!」






リハビリルームで

まだ痛む体を腕の力で引っ張って

立ち上がる練習からはじめた



それを見たタークスの目は、とても嬉しそうだった






「リハビリなんかして、また何をする気かしら」

「なんであいつが生きてるのよ」


後ろから聞こえる若い看護婦達の声にイリーナが振り返り

思い切りビンタをかますと


慌ててレノとルードが看護婦二人をなだめ

ツォンがイリーナを引っ張っていった



その姿をルーファウスは見ていた






数日後、何時もと同じように病室をノックするタークスに



「入れ」



懐かしくも思えてしまうルーファウスの声が聞こえた


ドキッと、したのはきっと全員同じだ



「失礼します」



4人が入ると、そこにはベッドの上ではなく

車椅子の上に座るルーファウスの姿があった



いつも締め切られていた窓もカーテンも開き

心地よい風がルーファウスの髪を揺らす



そこには昔の表情と明らかに違う

大人びた表情のルーファウスがいた






ルーファウスがゆっくりと冷静に

今後の自分のやりたいプランを話した


そして「ついてきてくれるか?」と言った





その表情は


強い意志が溢れていた





病院から、人から離れた、医療がある程度整った場所に移った




そこにはあの中年医師が通ってくれた


歩けなくなる可能性が濃かったのに、よくここまで回復したもんだと

タークスに笑っていた







「これは?」


その医師の手に黒い禍々しいものを見つけたルーファウスが
医師を見上げる


「星痕症候群…かかったのか?」



医師は優しい顔でルーファウスに笑った



「もうすぐ来れなくなるかもしれない
でも体が動く限り、来るからな」



「帰る場所に誰かいるのか?」


「いや、一人だよ?」


「じゃあここに住めばいい」



私にとっても便利だしな、とルーファウスが笑った




5日間、一緒に暮らした



「苦しいのか?」


黒くドロッとしたものを構わず

横たわる医師をルーファウスが膝に寄せて抱きかかえる



「触るんじゃない。移るという噂に根拠は無いが
移らないとも限らない」



「苦しいのかと聞いている」



ルーファウスが背中をさすると

医師は笑った



「苦しくないよ」



「死ぬ気か、私はどうするんだ?」



「生きるんだ」







一緒に暮らし始めて5日後、彼は息を引き取った





ツォンが部屋を訪れたとき

医師の亡骸を抱きしめたルーファウスを見つけた



「ルーファウス様!?」



「私の命の恩人だ。葬ってやってくれ、丁重にな」



表情の無いルーファウスは
自分の膝にいる医師を見つめている


きらきらと光るルーファウスの下ろされた髪が
涙にも見えた



追って入ってきたイリーナとレノとルードも

その異様な光景に言葉が出なかった





それから何ヶ月も経たずに

ルーファウスにも黒いものが現れた




「これが、星痕症候群か…」



少しの間

一人でその黒いものを隠し続けた


隠し切れなくなったとき

タークスが揃った時にルーファウスは口を開いた




「星痕症候群、私は発病した」



ルーファウスが腕のその生々しいドス黒いものを見せた


イリーナは口を手で塞ぎ

他の三人も何も言えずにその跡を見つめた



ルーファウスはその跡をまた隠すと

膝にかかっている大きく白い布を肩に羽織った



「いつまで持つか私にも分からん。治療法がまだ無いからな」


そういうルーファウスの表情に、落胆や恐怖といった感情は見えなかった

いたって普通に、いつもの堂々とした姿



タークスの不安げな表情にルーファウスは

指先で車椅子をトントン、と叩いた


「安心しろ。医者の話では伝染病ではないらしい」


そう言ったとたん、ツォンが叫ぶように言った

「ルーファウス様は私たちを信じていますか?」


それは移る心配をしているのではない
そういう意味が込められていた


ルーファウスは睨むような目でツォンに言い返した

「キミ達は私を信じているのか?」


その言葉には私が星痕に負けると思っているのかという意味が込められている


そしてルーファウスはゆっくりと立ち上がり、笑って見せた


「まだやり残した事がある。死ぬものか」


















夢を見るようになった


セフィロス

ジェノバ

星痕


星の叫び


民の叫び


自分の心の闇










自分との戦いは、日が増すごとに壮絶なものになっていった



以前からのダメージも手伝って

体力の消耗も激しかった



星痕は治療法が無い


ウエポンの攻撃で受けたダメージは

悪化する箇所さえ出てきた

弱ったせいで
新たに発病した病気もあった



ルーファウスはできるだけ、最低限の薬しかとらないようにしていた


だが痛みに耐え切れず麻薬に頼るしかないこともしばしばだった



それは確実にルーファウスを体の内側から蝕む



いつ息の根が止まってもおかしくない状況で

ルーファウスは普通に、自然に振舞った



「ツォンさん!社長が!」



呼吸が止まり、心臓も止まったとき



「レノ!医者を呼べ!」



そう叫びながらルーファウスに心臓マッサージをするツォンの姿は

三度見られた



死の淵で見る甘美な夢は

ルーファウスを苦しみから解き放ち

確実な死へと誘う



「死ぬな!社長!」


「社長!頑張ってください!」


「社長!」



三度目の心配停止は

もうダメかと医者も諦めかけた




「この人をまだ、連れて行かないでください」





泣くような声で祈るツォンの言葉の後に


電気ショックで息を吹き返した






いつも意識が戻ってはルーファウスは薄く笑う


「私はしぶといな」と






星痕が治った今、死に直面するのは命を狙われた時くらいで

自らの体が原因で死の淵を彷徨うような事は無くなった






ルーファウスはいまだに長く暗い

終わりの無いトンネルを歩いている





きっと、光が見えたときが

自分の死に時なのだろうという思いを抱いて




































負けないように枯れないように、笑って咲く花になろう


人より多く
大切なものをルーファウスはことごとくなくしてきたのではないだろうかと思う。

それはきっと自分が原因というものと、神羅というものが原因というものと
その他と、色々あるだろうけど
無印の社長を見てると自分のあの歪んだ心が原因で見えないものや
失ったものがすごく多かったんじゃないかと思う。
きっと本当はパパ嫌いな時期もあったけど、心の奥底では嫌いじゃなかったんでしょ?

生まれた場所が悪かったね。

でもカラっと悪巧みとかイタズラをして自信満々で笑うルーちゃんが好き。

あのウエポンの攻撃をモロに受けて衝撃が走ったとき
ぐっと屈んでたムービーあったじゃない?
きっと自分で脱走はしなさそうだと思った。
ルーファウスは多分なんかに守られてる子なんだと思う。

セフィロスとか(ハァハァ)
神様とか(飛びすぎた)