小さな嫉妬 |
「親には、愛された?」 「ん?」 突然の俺の質問に ルーファウスが戸惑った 次にルーファウスは、少し困ったように笑った 「私の生い立ちは、思ったよりも普通だ」 「親は、アンタにどんなことしてくれた?」 「…うん?」 「アンタが風邪ひいた時、誰が看病した?」 「…医師」 「親ってさ、病気の時傍にいてくれたり、手を握ってくれたり…」 「クラウド」 俺の言葉をさえぎり、ルーファウスは腕組をする 「なに?」 「わからない、言いたい事が…」 「たまに、ふと思い出すんだ、父さん、母さん… アンタにとって、家族は大事だった?」 セフィロスに殺された 母さん 「…君は愛されていたんだよな」 「まあ、普通だよ。アンタは?プレジデントって…」 ぽつり、と力なく呟き、ルーファウスは立ち上がる 言葉は、聞き取れなかった 「いや、普通だよ」 どんな家庭に育ったのか 育ちが違うとか、そりゃあそうだけど わからない タークスの奴らは知ってるだろう あのセフィロスも知ってるだろうか 俺は、知らない どんな家庭に育ったのか どんなふうに過ごしたのか 知りたいのは、おかしいだろうか 「ルーファウス、俺」 ん?と振り向きながら、ルーファウスはグラスを手にした 中には水 「ルーファウス、俺アンタのこと、あまり知らない」 ルーファウスは水を一口飲んでから微笑んだ そして俺に水を差し出した 「私も、君のこと、多くは知らない」 ルーファウスは俺のデータや生い立ちは知ってるはず 調べあげてるはず 俺は水を受け取り、一口飲んでテーブルに置いた 「俺は、アンタのこともう少し知りたい」 「特殊な生まれだけど、特別なことはなにもない」 「アンタ一般人の生活知らないだろ」 「ははっ」 軽く笑い飛ばして、ルーファウスは俺の頭を撫でた 「何が聞きたいんだ?」 「どういう子供時代だったのかとか、どんな奴らと深く関わったかとか…」 「困ったな、特別なにもない」 「なんでもいい、アンタが特別好きだった人とか、そういうのはいた?」 ルーファウスの手を引き、抱き寄せる 「…一番影響を受けたというか、それはセフィロス」 「…セフィロスの話、簡単にできるか?」 「わからない」 「あいつは、アンタをまだ好き?」 ルーファウスは困ったように笑って、「まさか」と、首を軽く横に振った 「覚えていないだろう」 「アンタは、覚えてるのに、か…」 「私が彼のことを忘れることはないけれど ずっと追い求めているというわけではない」 「本当に?」 「彼のことは、君に任せてる。」 「俺が例えばアンタに、忘れられたら、俺は嫌だな」 ルーファウスは優しく笑って、頷いた 「アンタは?俺がアンタを、忘れたら…」 「状況にもよるが、良い気はしないな」 「素直に言えないのか?」 ははっ、とルーファウスは笑って俺の肩を叩いた その笑顔は、悲しそうにも見えた 忘れられることは、悲しいことだろう 悔しいことだろう ルーファウスをそっと抱き締めると ルーファウスが俺に手を伸ばす それと同時に、俺の頭の中には 昔の記憶が蘇った 俺の記憶が抜け落ちて、傷付けた人 「ティファ」 ルーファウスの手がぴたりと止まって、彼は苦笑した 「ルーファウス」 「ん?」 「…俺、今…名前…間違えたわけじゃなく…」 ティファの名前を口走ったということを、そのルーファウスの表情で気付く ティファを思い出したのは一瞬だった 「ははっ、気にしてないよ」 じゃあ何で、手を引っ込めた? 「本当に?」 「ああ」 ルーファウスの表情は、普通だ なんか、これじゃあ、俺ばかりが好きみたいだ 俺のことで、泣かせてみたいとさえ思う 泣くんだろうか、こいつは 「なあ、俺が死んだら、アンタどうする?」 「困る」 「色気のない答えだな」 ルーファウスの耳を押さえてキスをして、そのままソファに倒れ込んだ 「ふっ…」 「俺が死んだら、アンタ泣くのかな」 「馬鹿げてる、そんな例え話し」 身体の線を撫でると素直に、反応をする ルーファウスは声を殺し、吐息で喘ぐ 「なあ、掴まれよ」 薄く目を開き、ルーファウスが俺に手を伸ばす 「クラウド」 「ルーファウス!」 仕事から帰ると、部屋にはツォンもいて 俺を見てからツォンはルーファウスの手を離した 「クラウド」 ルーファウスが俺の方へ一歩踏み出す 「ルーファウス様、それでは私は…」 「ああ、ご苦労」 俺は素通りをしたツォンの腕を掴む 「おい、何していた」 「…ルーファウス様の手に、薬を」 「クラウド」 呆れたような声でルーファウスが俺を呼ぶ それも少し、悔しかった 「自分でやらせろよ、いちいち触るな」 肩をすくめてツォンが出ようとする 追おうとする俺をルーファウスが掴む 「アンタも簡単に触らせるなよ」 俺を掴むルーファウスの手を払うと ルーファウスはその手を自分で掴み、ため息をついた 「怪我をしてね、薬を塗ってもらっただけだ」 「触らせるなよ!あいつアンタを好きだろう!」 「呆れた」 ルーファウスはデスクに向かい歩きだす 俺ばかりが好きみたいで 悔しくて腹が立つ 「アンタ無神経だろ、他の奴に触らせるって」 「あのなクラウド」 「アンタもしかしてあいつに気があるんじゃないか?」 「…本気で言ってるのか?」 「髪が長い男が好きなわけ?」 ルーファウスの表情が、一瞬固まった 「アンタ、俺と何で付き合ってんの?本当に俺を好きなのか?」 ルーファウスが小さく口を開くと 低い声で 「無神経はどっちだ」 だって、俺ばかりがアンタを好きみたいだろう… 「…クラウド、気が立ってるな。何かあったか?」 ベッドに座る俺の目の前まで来て 顔をしかめて俺を見るルーファウスを、睨む 言わなくても、わかれよ 「で、怪我って、何で怪我したんだよ?ひどいの?」 「…グラス割って切った…」 「ドジ」 「…」 「ツォンすぐケアルかけなかったのか?」 「ああ、これやった時、いなかったからな」 「アンタ、ケアルも持ってないのか?」 「魔法は使えないんだ」 「あ、そっか」 手を見ると、まだ生々しい傷があった 時間が経ってからだろうけど どうせツォンがかけたんだろうけど 回復魔法を唱えても傷口はそのままで ルーファウスは俺を見て少し笑った 「なんだよ」 「いや」 「なんだって」 「回復魔法って、回復しなくても気持ち良いな。魔法を使えるってどんな感じだ?」 「どんなって、別に考えたことなかった」 「そうなんだ?」 「ケガしたんならずぐ呼べよ。他の奴にやたらと触らせるなよ」 じっと俺を見るルーファウスから なんとなく目をそらす 「クラウド」 「…なんだよ」 「…私が同じベッドで寝るのはキミだけだよ」 「なに、何言い出すんだよ!じゃなきゃ困る!」 ルーファウスは笑って前髪をかき上げる 「別に、なんとなくな」 いやな奴だよな。こいつは 「もっかいかけてやろうか、ケアル」 ルーファウスは楽しそうに笑ってオレの手を握る 「ああ」 握った手にキスをしながら、回復魔法を唱える 「どう?気持ち良いのか?」 「ふふ」 眉を寄せて困ったような顔をして笑う 俺はこいつが笑うのを見るのが好きだ 「いつでもしてやるよ」 「はは、頼むよ」 ルーファウスの携帯が着信を伝える 俺は動きを止めて、ルーファウスから手を離した ルーファウスは自分の携帯を俺に放り投げた 「わ、なんだよ」 「かわりに出てくれ」 「ヤだよ、自分で出ろよ」 「今、気分が良いんだ」 そう言いながらルーファウスは俺のひざに頭を乗せて目を閉じる 大事な用事かもしれないのに携帯を俺に渡すのは 俺が妬いたからだろうか だからってコレはないよな 通話ボタンを押す 「ルーファウス様」 「俺だ」 一瞬無言になったツォンの顔が頭に浮かんだ 「…ルーファウス様に代われ」 「ルーファウス、代われって」 「用件を聞いてくれ、私は忙しい」 楽しそうなルーファウスの声に俺は笑ってルーファウスの頭を撫でる 「忙しいから要件聞けってさ。で、なんだ?」 「…貴様には言いたくない」 「なら切るぞ」 「…早く帰れよ」 「ここ今、俺の家でもあるんだけどな」 ブッツリと切られた ルーファウスをみて「切れた」と言うと ルーファウスは大笑いした 「あいつ何の用だったんだ?」 「たまにな、何をしてるかとかけてくるんだ」 「何のために?」 「心配性だからな」 「愛されてるな」 皮肉をこめて言うと、ルーファウスは俺を見上げて頭を撫でた 「私が?」 目をそらしてため息をつくと ルーファウスは伸びをして起き上がった そしてルーファウスは俺の手を取り その手にキスをした 「なあルーファウス、俺、あんたのこともっと知りたい」 「私はどうしたらいい?」 「自分のこと話せよ」 「話すことがない」 「なんでもいい」 「そういうのが一番困るんだが。何を話せばいいのか」 「あんたってさ、あんま自分のこと喋らないよな」 「そうか?君も言わないじゃないか」 「そうか?」 ルーファウスの手のひらを撫でる 骨っぽい細長い手は、確かに男のものだ それなのに、俺はこの手がいい 「…オレは、お母さんっ子だった。小さい頃は人になじめないで孤立してた」 ルーファウスがじっと続きを待つ オレはルーファウスの手を握って「アンタは?」と聞く 「ん?」 「次、アンタ」 「続きは?」 「…その時、ニブルヘイムでアイドルだったのがティファなんだ。 特別仲がよかったわけじゃない」 昔の思い出を話すと どうしてもティファの話が多くなる ルーファウスは興味深そうにうんうんと頷きながら聞いてた 「オレ、母さんとティファくらいしかいなかった。 神羅に入るまでは。だからティファの話ばっかりになっちまったな」 ルーファウスが笑う 「そうやって神羅に入ったんだな」 「まあね。で、アンタは?アンタの話が聞きたくて話したんだけど」 「ん?そうか?」 「そういえばアンタの母親は?」 「あれ?クラウドの父親は?」 「お前な…小さい頃死んだよ。俺もあまり、覚えてない」 じっと俺を見るだけで何も言わないルーファウスに オレは苦笑して見せた 「母さんは、父さんの分まで必死に働いてオレをみてくれた。 愛情を注いでくれた。セフィロスに殺されるまでは」 「病気の時に手を握ってくれたんだろう?すごいな」 「すごいのか?」 「すごいじゃないか」 「…アンタはさ、普通の家庭じゃないよな」 「人間と人間から生まれたから普通の人間だが」 「違うって」 「アンタの母親は?」 「覚えてないな。そのくらい昔に死んだからな」 「アンタ、母親似なのか?プレジデントに似てる所って 金髪と演説好きなところだけだろう?」 「ははは」 さらりと流れる金髪 ルーファウスの髪は本当に綺麗だと思う その流れ方も色も、感触も 「オヤジとはちょっと違うよ、髪は。私はあれよりくすんでるな」 「くすんでるとかじゃないだろ」 「キミは綺麗なブロンドだ。海チョコボってそんな色だよな?」 「例え方が悪いっつーの。オレは母さんと同じ色なんだ」 ルーファウスの髪に手を伸ばす 「アンタの髪の色ってあんまり見ないよな。なんていうか」 「そうか?きみの色よりよっぽど多いと思うが」 「いないっつーの。なんていうか、アンタの色だよなあ」 ルーファウスが「ああ!」と何か納得したように 笑って俺を見た 「それは私がクラウドを見た時に ああ、クラウドだ、って認識するのと同じか?」 「え?は?」 「キミってすごく目立つから」 「アンタってたまにいきなり酔っ払った様なこと言うよな」 「ん?」 俺は笑ってルーファウスを抱き締める 「こうやったりすると俺は ああ、ルーファウスだ、ってよく思う」 「そ、そうか?」 「オレさ、アンタが誰かに触られんの見るのイヤなんだよな」 「ただのやきもちでか?」 「…そうだよ、悪いか」 「いいや、それなら気をつけるよ」 「あ、話が流れてるぞ。アンタの子供の頃ってどんなんだった?」 ルーファウスは少し斜め上を見ながら 考えてる 「なあクラウド、聞いていいか」 「何だ?」 「本当にティファとは、そういう、関係になったことはないのか?」 「ないよ、なんで?」 「だって、好意を寄せてるんだろう?」 「それを肯定するなら寄せてた、になるけど キスとかそういうのはしたことない」 「じゃあどこまでならしたんだ?」 「なんだよ」 「いや、気になって」 「いいよそんなの」 「何かあったんだな?」 「つっかかるなよ」 「隠すなよ」 ルーファウスがこうして質問責めにすることは珍しい 俺は笑をこらえてルーファウスを見た 「この話はやめようぜ」 「クラウド」 「なんだよ。なんで聞きたいんだよ」 「だってキミ、いつもティファを気にしてるじゃないか」 俺はどんな顔をしてるんだろう そう思われてるなんて、思っても見なかった 「アンタそれ本気で言ってるのか?」 「私にはそう見えているが」 俺がティファを気にしてるから、まだ 繋がりがあるんじゃないかと思ってるのか?」 「…まだ繋がりがあるって、繋がりがあったのか 深い意味での」 「だからないっての。アンタはそう見えるんだろ?」 ルーファウスは顔をしかめてから、俺に背中を向けて立ち上がる 「なんか面倒くさくなったな。この話はやめよう。 なんか飲むか?」 「オレがティファの手を握ったり抱き締めるのって 許せるか?」 振り向いたルーファウスの顔はなんと言うか 純粋に驚いた顔をしていた 「アンタを触りながらティファの名前呼んだから 気にしてるのか?」 ルーファウスはオレの正面に座りなおした 「そういう意味で、深い意味で本当に彼女が好きなら…」 「好きならなに?」 「私は身を引くが?」 ルーファウスの額を叩くと ルーファウスがそこを撫でながらオレを見る 「オレがすきなのはアンタだけだ。 それから、オレが本気で好きになったのもアンタだけ。 アンタが逃げてもオレは追いかけるからな」 苦笑に近い、なんともいえない笑顔で ルーファウスは笑った 「わかった」 「なあルーファウス、ティファに対して妬いた事ある?」 ルーファウスは笑いながらオレの額を叩いた 「断じて無い」 妬かれるのは オレは嬉しい そういえば セブンスヘブンでは、ルーファウスはいつも きっと無意識で オレとティファの目線を見ている 言わないながらも気にしていたんだと思うと 嬉しくなった ルーファウスの子供の頃の話とか 聞きたかったことは結局聞けず仕舞いだった 今度はしっかりと聞き出そうと思う |
なんだかよくわかりません。 |