昔からある場所














久しぶりに会ったルーファウスは車椅子姿で


昔じゃれ合った面影はまるでなく

封印していた過去を解き放った俺の記憶の中のルーファウスの印象とは

似ても似つかなかった



昔のルーファウスとの記憶は本当に真実だったか

俺が作り出した幻?




「もう一度話をしたいのだが」

「うるさいタークスがいないなら」




白いローブから見える華奢な手には星痕

あきらかに俺よりも進行し

重度



向き合って座り

沈黙が流れる



「…君は、欠落した記憶は取り戻したそうだな?」



ルーファウスの声が響く



「…そのつもりだ」



「神羅兵時代のことも?」



「…アンタのことも」


「どこまで…?」



「…俺の家に、アンタよく来てた…」


表情がくるくると変わるアンタは見てて飽きなかった



ルーファウスはローブを少し上げて顔を出した



「じゃあ、あの時の気持ちは?」



あの時の気持ち…?

俺の顔を見て、ルーファウスが視線を足元に落とす



「記憶が戻っても、気持ちまで戻らないか…」


「…」


確かに、以前は恋愛感情があった



また顔を上げ、ルーファウスが俺を見て

車椅子で窓を見れる位置まで移動すると

ルーファウスはまた、世界の再建だのと尤もらしい話を始めた



「顔見せろよ」


ルーファウスの演説を遮った俺の言葉に

少し驚いたようにルーファウスは動きを止めた

そして柔らかい動作でローブを取ると、俺を見上げ


俺を見上げてふっと笑った



「こうして見ると、キミは変わらないなクラウド」


「アンタは…変わったんじゃないか?」



そうだな、とルーファウスは視線をそらす


額と目に巻かれた包帯を眺めながら

俺は少しルーファウスとの距離を縮めた



「アンタ、歩けないのか」


「ああ、歩けないよ」


「立てないのか?」


「そのくらいは、なんとか」



スッキリしない

何故こんなにも、スッキリしない?



こんな無駄な時間、過ごさなくても

さっさとここを出ても俺は


なのに何故、俺は戸惑うんだろう



「クラウド」




はっと我に返った


ルーファウスは俺を見ていない




「キミと話したかったのは、昔話をするためではないから
安心しろ」



「昔のことはどうでもいいか?」



俺の言葉にルーファウスが肩を竦めた



「そうではないが、キミは乗り気ではなさそうだからな」



「話せよ」



ルーファウスが眉を顰めて口角を上げる

目は笑ってはいない



「何故、話したいならキミが話せばいい」


「話は無いのか?」


「特に」



ルーファウスがローブをかぶる


俺はそれを引っ張った



「神羅に、アンタに手を貸す気はない」


「わかっている」


「じゃあ何故呼んだ」




ルーファウスは呆れたような表情でため息をついた




「それでも話をしようかと思っただけだが、ならばキミは
手を貸す気がないのに何故来た?」



俺はローブを床に放り投げ

ルーファウスのデスクに座った




「…アンタから、昔話を期待していた」



俺にしては素直な反応だった

おそらくルーファウスは、俺が違う言葉を言って気持ちを隠しても


見破る男だ




「では、キミの昔話を聞きたい」



素直じゃない

俺も、こいつも




「なあ、あのときの気持ち、って言ったよな?」


「ああ」


「それは、俺がアンタの気持ちを覚えてるか?
それとも俺があの時の気持ちを取り戻したか?」




困ったのか苦笑したのか

ルーファウスの表情は微妙だった


そしてその、俺とはまた違う金の髪が

流れるようにサラリと優雅に揺れた




「キミの、あの当時の気持ちを、思い出したのかと」




好きだった




「ああ、思い出した」


「私のキミに対する気持ちも?」




それも、思い出した

ただ、好きだとか、そんな言葉は、聴いた記憶がない


そう、俺の、片思いだった気がする




「たぶん、思い出してる」






ルーファウスは薄く笑って、足元へと視線をやった


また、髪が揺れた




「そうか」


「なあ」



そう言うと、ルーファウスが俺に視線を移す


俺はルーファウスの前に行って、しゃがみこんだ



「顔の包帯って、取ったらマズイのか?傷あんの?」



ルーファウスはなんとも不思議そうな顔をして首を傾げる


薄い瞳の色が、少し濃く見えた



「取っても問題はないんだが、なぜ?」


「痛むのか?」


「いいや」




そっと手を伸ばして包帯を取る

ルーファウスは目を閉じて黙ってなすがままにされている



「なんで包帯付けてんの」


「なんとなく」


「なんだそれ」



包帯の下は傷もなく綺麗でルーファウスがゆっくり目を開けようとした時

俺はルーファウスの前髪をぐしゃぐしゃに撫でた



わっ、と、小さく声を出したルーファウスは肩を縮めてきつく目を閉じる



前髪が下りたその髪型は、昔と似ていた




ルーファウスがそっと目を開いて俺を見る



「昔、みたいだ」


「そういえば、昔は前髪をおろしていたからな」




ルーファウスが自分の前髪を弄り続けている俺を見る

目を細めるルーファウスに、イヤなのかなと思いながら

俺はルーファウスの髪から手が離せなかった




「アンタの髪ってさ、気持ちいいな」



そう言ったとたんルーファウスが笑った

声を出してやわらかく、優雅に



その表情に懐かしさを覚えた


ああ、この顔、俺好きだった





「キミいつもそう言って触ってたな」



俺の顔が若干熱を帯びる



ルーファウスは俺のもう片方の手を握り

指を絡める




「そして、私はキミの手が好きだった。
逞しくなったな」




絡められた指の感触

それも懐かしかった


その手に視線を落とす


ルーファウスの華奢な手


俺とはまったく違う線の細さ




「今は?」




俺がそう言うと、ルーファウスが小さく笑って頷いた




「変わらない」




目線があった



「じゃあ、俺への気持ちは?」




ルーファウスの目が若干大きくなる

そして少し首を傾げる




「今は、俺への気持ちは?」




ああ、と、小さく呟いて

ルーファウスが俺から手を離す



その瞬間、少しだけ俺の胸が痛んだ


俺は期待していたのだろう




「ずっと待っていたよ」





俺を?





「きみを」





俺は派手に自分の頭を掻いて、立ち上がった



動揺した

なんて言い返せばいいかわからなくなった




「クラウド、キミは?」




そっと振り向くと、ルーファウスと目が合って


ルーファウスは笑った


その笑顔はなんとも頼りなかった




こんな顔、させたかったんじゃないのに





「正直に言えばいいよ」




その表情のままルーファウスが言う



俺はまたしゃがみこんで


ルーファウスの手を撫でた


星痕が見える




ルーファウスはそっと、星痕を隠すように自分の手をもう片方の手に置いた




「俺は、今アンタのこと抱き締めたいと思った」


「ははは」


「笑うところかよ」





そのまま抱き締めると

ルーファウスは俺の肩を軽く何回か叩いた




「やめてくれ、心地いいから」


「ならいいじゃん」



「あ」



ルーファウスは手を止めて

俺の肩口に顔をうずめた



「クラウド」


「なに?」


「昔のままだ」


「なにが?」


「体温と、キミの匂い。いいな」




ふふ、と笑うルーファウスの肩口に

俺も顔をうずめた



「アンタは、シャンプーの匂いがする。
シャンプー変えた?」



「はっはっは!」




抱き合う身体が、片割れを見つけたようにしっくりとなじむ






俺は自分の想いが

まだここにあることを思い知らされた































昔、濃い時間を過ごしていたなら
再会はどうだろうと思いながら書いたんだけども
なんか普通すぎた

失敗