未完成






まず人がくることが無いこの非常階段は、隠れ家みたいで落ち着く


仕事で嫌な事があったり、どうもやる気の出ない時、抜け出せる時はここにきている


これは仲の良い仲間にも知られていない



いつものように休んでいると

突然上から声がした



「サボり?」



誰だ?


階段を少し上がると

ひとつ上の踊り場で、真っ白な長いコートを着た、綺麗なブロンドの少年が立っていた

体が弱そうな肌の色と体の線



「誰?」



俺がそう聞くと、彼は俺の服をまじまじと見ながら、質問に答えた



「…ここの社員」



若いのに?そう聞こうとしたけど、俺と変わらないくらいに見えたから

俺も何か言われそうで、やめた



「ここ、誰にも知られてなかったんだけどな」



そう言いながら座り込む俺に

少年は髪を揺らし俺の顔を見た



「キミもいつもここに?」



綺麗な澄んだ碧い瞳



「ああ、絶好の隠れ家」



ふふ、と笑うその少年は

今にも降りだしそうな空を見上げた



「私もよくここに来ているから、きっと時間差で会わなかったんだな」



少年が持っていたペットボトルを飲み、俺に飲む?と差し出した



俺は条件反射で受け取った



「この会社、辛くないか?」


「俺は、望んで入社したから…アンタは自分で選んだ会社じゃないのか?」



うん、と小さく呟いて少年は俺の隣にしゃがみこんだ



「私はここ以外就職先が無かっただけ」



ふうん、と言いながら俺は彼にペットボトルを返した



「訓練、辛くはないか?」

「身体は辛いけど、嫌いじゃない。アンタはどんな仕事してるの?」

「普通。事務とか営業も」

「そっちのが大変そう」



ははっ、と笑いながら彼は腕を上に上げて背筋を伸ばした



「今日は寒くないからどっかでかけたい」

「そうだな」



呆っと曇り空を眺めていると

彼の電話が鳴った

彼は電話を見て苦笑い



「呼び出された」








彼が帰りぎわに飲めよ、と俺に渡したペットボトルを持って、俺も持ち場に戻った




翌日また同じくらいの時間に行ってみると

彼が俺の特等席に座っていた



「また会ったな」



そう言いながら少しズレて俺の座る場所を作る



「…ああ」



俺は用意された場所に座る



サボり?と聞くと、彼は首を縦に振った。

俺も、と言うと、彼は笑いながら俺の肩を叩いた



「あ、ここどうした?」



彼が俺の腕を指した



「訓練で、さっき怪我して、でも一応手当てした」



「血が滲んでいる」



彼が俺の手を取り、自分の膝に置いて、血が滲んだ包帯を取る


彼の髪の毛が目の前でサラリと流れた



「この薬、これ効くんだ」



彼が救急箱を取り出し、手を拭いて、消毒をしてから傷薬を俺の傷に塗る



「痛いか?」


「いや…平気…つーか…こんなもん持ち歩いてるの?」



救急箱を指さす



「さっき私も怪我してね、これ持ってきたんだ」



手慣れたようにガーゼをあてて包帯を巻いて

顔を上げて笑った



「これでいい」



綺麗な顔だな

長い睫毛だな

白い肌してるな



じっと見てしまってる俺を

彼も目を離さず見ている



「熱でもあるのか?」



白い手が俺の額に触れて

俺の頬が熱を帯びる



「いや…」


「うん、熱は無いな」


「アンタはどこ怪我したんだ?」



彼は自分の左腕を指さした



「アンタは訓練じゃないよな?」


「違うよ。私はただ、モンスターにやられた」


「仕事?」


「まあ、1人で行ったのが間違いだった」


「アンタ1人でモンスター倒したの?」


「いや逃げてきた」



そう言うと、彼は突然焦りだしてポケットに手を入れた



「…携帯落としてきた…」


「えぇっ!?」



彼は立ち上がりまたな、と手を上げて非常階段を出た


俺は後を追って、彼を呼ぼうとしたけど

名前を知らない事に気付いて彼の手首を掴んだ



少し驚いた顔で彼は振り向いた



「…アンタ一人でいくのか?」







現場に着くとモンスターが二匹いて、俺が倒すと彼はさすがと喜んだ



「キミ、携帯持ってるか?」


「あるけど、何で?」


「鳴らしたらすぐ見つかるかと思って。私のにかけてくれないか?」


「ああ、いいよ」



彼に携帯を渡すと

彼は番号を押して耳を澄ませた


木陰で携帯が鳴り、俺はそれを拾って渡した



「これ?」


「そうだ。すまないな」



薄くて白い携帯

それを受け取ると

彼は俺に携帯を返した



「助かったよ」










「行かなきゃ」


モンスターが出ないエリアまで来てから、俺は持ち場に戻ると彼に告げ、そこから走った




走ってる最中電話が鳴った


やばい、もしかして…上司の顔が頭に浮かぶ



登録されてない番号に不安を隠せず、恐る恐る電話に出た




「君の名前は?」




ああ、彼だ




「クラウド…クラウド・ストライフ」



「私はルーファウス、仕事頑張ってな。また非常階段で」











時間を作ってまで非常階段に来る自分を可笑しく思う


彼、ルーファウスもいつもいるわけじゃないのに



なんか会うのが楽しみになってる

友達とも、違うよな…

知り合い?



俺の携帯が鳴り、呼び出しがかかった


非常階段の扉を開いたら目の前にルーファウス


勢いよくあけたら向こう側から彼もドアノブを握っていたみたいで

ルーファウスが俺に飛び込んでくるような形で、思わずぶつかった



「クラウド」



彼は笑って、休憩終わり?と聞いた

ふわっと揺れた髪から良い匂いがして、思わずドキッとした


「呼び出された」


俺も、名前を呼ぶべき?

そんな相手にとってはどうでもよさそうなことを考えた



じゃあまた、とルーファウスは俺を見送った



あの良い匂いがまだ鼻に残っていて

俺はドキドキしながら廊下を走った






仕事が終わって、夕飯作るのが面倒で、何か買うか食べていくか迷う


誘ったらくるかな

いきなり誘ったら気まずいかな

変だとか思われるかな

それよりうざったいとか思われるかな



思い切って電話をしようと思うが、通話ボタンが押せない



携帯をしまって俺は歩きだした









「あれ?いた」



いつもの非常階段

俺はその姿を見て笑った


彼が俺を見て笑ったからだ



「やあクラウド、今日は遅かったな」



なあ食事は済ませた?

俺が聞くとルーファウスは横に首を振った



「キミは食べた?」


「まだ」



ルーファウスが俺の手を掴み、引っ張った



「よし、何か食べに行こう、社員食堂以外で!」






何がオススメ?というルーファウスを連れて俺は家に近い

いつも行ってる食堂へ来た



ルーファウスはキョロキョロしながら落ちつかない様子



「もしかしてあんまり食べに行ったりしないの?」


「ええと…ああ、あまり」



食事をしながら話したのは他愛も無いこと


「キミはどこ出身?」

「家族は?」


「休みの日ってどうやってすごしてる?」



ルーファウスはよく喋る奴で

俺は自分の事ばかり聞かれた



「自分はどうなんだよ」と聞き返す暇もなかった



食べ終わった後

用事あるのかと聞かれ、ないと答えると

ルーファウスは私も無い、とだけ言って二人道に立ち尽くした



「俺ん家来る?汚いけど」


「ああ、行ってみたい!」


実は友人の家って行ったこと無いんだ。と付け加えて

ルーファウスが笑った




「狭いけどドウゾー」



「おおー」



何に感動したのか、ルーファウスが歓声を上げた



バイクの模型やミニカーとかCDとか

ルーファウスは興味深気に眺めながらコレはなにかと

質問してくる


話しながら笑いながらゆっくりとした時間が流れた



ルーファウスがはっと立ち上がって時計を見たときは既に日付が変わろうとする頃


「明日会社休みだし寝ていけば?」



時計から俺に視線を移したルーファウスが笑った



「いいのか?なんか楽しい」




風呂に入って、俺の服を着ているルーファウスが

欠伸をひとつして 寝るのが勿体無いなと笑った



「アンタってよく笑うよね」



俺も笑うとルーファウスがベッドに転がった



「どこで寝ればいい?」


「そこで寝ろよ」


「クラウドは?」


「ここでいい」



ソファに転がる俺をルーファウスが手招きした



「隣に寝れば?」



「普通自分がソファでいいとかいわない?」



俺は笑いながらベッドまで歩いた



寝転びながら俺を見上げるルーファウスを眺めると

ルーファウスは俺の唇を指さした



「切れてる」

「え?どこ?」

「このへん」



ルーファウスが自分の唇を指さす


そして自分の唇を舐める



「わかんない、どこ」



同じように俺も舐める



「ここだって」



ルーファウスが俺の切れてる部分の唇に触れた瞬間

俺はもう一度唇を舐めて

ルーファウスの指を少し舐めてしまった



「うわ、ゴメン」

「あはは、いいよ」



距離を離さないまま、ルーファウスを見ていると

ルーファウスはごろっと寝返りを打ってベッドの落ちる寸前まで移動した



「狭いけどドウゾー」



俺は笑いながら隣に転がった



もう一度寝返りを打って、仰向けのまま俺を見る


俺はうつ伏せで、上半身だけ起きた状態で彼を見る



「キスでもする?」



俺は冗談交じりで半分本気だった

ルーファウスが笑いながらいいよ、と言う


俺はゆっくり顔を近づけてみた


ルーファウスから笑顔が消えて、逃げもせずにじっと俺を見る


唇を寄せると、先に唇を重ねてきたのはルーファウスだった



ルーファウスの頬を掴んで、舌を使ってキスを続けると

ルーファウスは俺の首に手を回した


ゆっくり重なるような体制になっていく





















翌日の朝は、恥ずかしそうにルーファウスが笑って

腰が痛いと呟いた


俺も笑ったけど、きっと恥ずかしそうな顔をしてると思った



俺の淡い青春みたいな気持ちは

恋心だということくらい自分でとっくに気づいてた


でも改めて思う


恋っていいもんだって









次に非常階段で会ったとき

避けられたらどうしよう、いなかったらどうしよう


そんな心配を、彼はすぐに拭ってくれた




いつもの様にルーファウスは笑っていた






仕事が終わって、ちょくちょくルーファウスがうちに来る


そんな日々が続いた


合鍵も渡して、半同棲みたいな生活




俺のこと好き?とか聞きたくても聞けない言葉



俺、ルーファウス好きだよ、とか

口には出さないけど

きっと伝わってたと思う








小雨が降っていたある日



偶然外で訓練をしていた横に

社長専用の車が停まった


即整列し、一斉に敬礼をする



窓が開き、中に見えたのはルーファウスだった


ルーファウスの表情は無表情に近くて

外を見ずに前を向いていた



「セフィロスはいるか?」


その声にセフィロスが車に近づいた



「ここに」



「任務だ、付き合え」




その車に乗り込むセフィロスを見送る




一般兵の前に居たザックスがため息をつく



「副社長にセフィロス持ってかれちまったー」




休憩中ザックスの隣に行くと

ザックスはどうした?と隣に座るよう促してくれた



「今のは、ルーファウス?」


「そうそう、あれがルーファウス神羅」


「副社長?」


「副社長。そっか、クラウドは見るの初めてか」



お前と同じ歳だぜ確か、とザックスが笑っている












数日間雨が続いた


その数日間、俺は非常階段には行かなかった












「よく降るなあ」



会社の帰り、傘をさして駐車場に向かおうとすると

ひょっこりと俺の傘にルーファウスが入ってきて、俺は立ち止まった


「クラウド、今帰りか?」


「…はい副社長」


「…クラウド」


強く名前を呼ばれて俺はため息をついた


「ああ、今から帰る」


「最近非常階段で会わなかったな」


「避けてたから」



目をあわせもしないで俺は歩き出す



「隠してたわけじゃないけど」


「なんで言わないかな。社員じゃなく副社長だろ」


「社長じゃない限り同じようなものだ」


「偉い副社長様がこんな一般兵と会ってるのって不自然じゃないか?」


「関係ないだろう、そんなこと」


「おれにはある!」



ルーファウスを振り切って先に歩いて、振り返ると


雨に濡れたまま黙って俺を睨んでいるルーファウス



俺はそこまで戻ってルーファウスに降る雨を傘でさえぎった



「私も、普通に付き合える友達が欲しかったんだ」


「…悪かったよ」









ルーファウスは俺の部屋で定位置となったベッドに転がって

「堅苦しい生活と少しでいいから離れたいんだ」


そう呟いた


神羅カンパニーは普通の会社ではないから

こいつの生活なんか想像できない

華やかなんだろう

俺とは正反対

俺は別に貧乏なわけじゃないけど

贅沢をできる身分でもない



「何が不満なのかわからない」


俺の言葉を受けて

ルーファウスは頬杖をついた



「私が私であることが不満なんだ」

「ますますわからない」



そう言う俺に笑いながら、深く考えなくてもいいよと言った



風呂から上がると

ベッドの上でイヤホンを付けながら曲を聞いているルーファウスが目に入った



「入れば?」


イヤホンを片方外して耳元で言うと
驚いた顔で俺の方を向いた



「びっくりするじゃないか」


耳を押さえて少し恥ずかしそうな顔をするルーファウスを押し倒すようにして

俺もベッドに上がった



「風呂入る前に一回する?」



イヤホンを片方俺の耳に付けて
もう片方の耳に唇を寄せた



「やだ」



ルーファウスはベッドから降り

バスルームに向かった



曲を聞きながら生活の差のことを考えた

金持ちは貧乏人の気持ちなんかわからないだろう


ルーファウスはたまに

俺より先に俺の家に帰ってきた時に

光熱費の振込み用紙を見つけたらいつの間にか払ってたり

なんか色々買ってきたり(しかも高そうな物ばっか)

そんなことをしなくていいと怒った時あいつ



「別にお前の為じゃないから、私もここに堂々と居るためにやってるだけだから」



と、当然のように言った

無茶苦茶。

こいつなりに気を遣ってるんだろうけど









ある日


ルーファウスは姿を消した



出社した時、副社長が出社していないと騒いでいて

何時間待っても、連絡も付かないし出社してこない副社長の色んな噂が飛びかった



俺の電話にも出ない




退勤して、ルーファウスを探すあてもない俺は

電話をかけながら帰路についた



家に入ると、家の中が綺麗に掃除されていた



ベッドにはルーファウスが転がっていた



俺は呆然として、まず部屋を見回して

キッチンやバスルームも覗いて


そこもやっぱり綺麗に掃除されていて


ルーファウスがやるとは思えないけど

他にいないし



ベッドでぐっすり眠るルーファウスの髪を撫でた



少しだけズボンから足が見えて

そこを叩いたら

ルーファウスが寝返りして俺を見上げた



「…おかえり」


「…ただいま」



欠伸をしながら起き上がるルーファウスの足を見て


なに、とルーファウスが俺を叩いた



「いや、毛、生えてるのかなーと思って…」



ルーファウスはズボンの裾をめくって俺に見せた



「生えてるって」

「え?どれ?」

「これ!」



ルーファウスが強調するその毛とやらは、毛自体も色も薄くてよくわからなかった



「アンタなんか色素薄いよな」

「ちゃんとあるって」



肌も白いし、髪も俺のより色素薄いって感じ


目も、濃くない、アイスブルー



「君は綺麗なブロンドだよな」


「…なんか食べた?」


「いや、君と食べるから、食べてない」


「電話出ろよ」


「音消したままだった」



テーブルに手を伸ばし

携帯を取り、着信履歴をたしかめるルーファウスがため息をついた



「なんで休んだ?」

「ずる休み」

「みんな心配してたぞ」

「それは仕事が溜まるから」

「俺はアンタの仕事が溜まっても関係ないけど」


「心配したのか?」

「…別に」


「じゃあなんで電話したんだよ」



着信履歴を見せながら笑うルーファウスをこずいた



「で、ホントはなんで?」


「…ちょっと反抗期でね」



普通に考えてこの年でこの大企業の副社長はありえない

どんな仕事をするかさえも想像がつかない


「でも今はキミがいるし、いいか」



ルーファウスは布団に包まり目を閉じる



「クラウド、キミは私にとってほっとする人」



俺がルーファウスを抱きしめながら撫でて

なんかあったの?と聞くと首を横に振って笑って

擦り寄るように抱きついてきた



これは日頃聞きたかった俺のこと好き?の答えに感じた


こんなふうに甘えるようにくっついてくることが無かったから

俺は嬉しかった







そんなある日、俺は故郷にある魔晄炉に行く任務を受けた



「ニブルヘイムに行くんだ」


「彼女に会うの?」


「会わない。ていうかいない」


「幼馴染は?」


「彼女じゃないし会わない」



俺の手を握ってルーファウスが呟いた



「待ってるから、早く戻ってこいよ」




翌日俺は、憧れていた英雄セフィロスや、ザックスとニブルヘイムに向かった






そして俺は


ルーファウスのことをきれいさっぱり忘れてしまうことになる











一般兵と副社長。例えば昔二人に接点があったなら、
同じ歳なんだから少し可愛らしくお付き合いして欲しいかも。
そんな気持ちで何となく書きました。
消化不良ですがちぐはぐな話ですが、いいんです気にしません。
ルーファウスとまた再会できるのはもうずっと後
思い出してから会うのはもうACの時なんですねー。