これからを











「困ったことに、居心地がいいんだ」




ルーファウスはそう言いながら笑った


俺の膝に頭を乗せて足を組んでいる




俺もだよ




そう言う代わりに俺はルーファウスの眼を見て少し笑って見せた



「海が見たいなー」


「行くか?」


「もう寒いからいい」



行きたいって言ったくせにその言い方

おれは思わず噴き出した






「アンタは、この扉を開けるといつもいるんだ」



ドアを指さすと

ルーファウスがそこに視線を移した




「キミは、いつもあの心地のいいエンジン音と共にやってきて
感情を表す様にこの扉を開ける」



くるりとルーファウスが寝返りをして

俺の膝の上で頬杖をついた



「そして言うんだ。ルーファウス、って」



そして俺を見上げた



「前な、キミ、ルーファウス、いるか?、って言うんだぞ。私を見て!
私に私がいるかって聞くのはおかしいじゃないか!って
笑ってしまいそうだった」



俺は苦笑した



「覚えてる。なんであんなこと言ったんだろうな」



コイツを好きだとわかってしまって

動揺していた時に、一度そう言ったことがある。


覚えてる



「キミは面白いなあ」



やたらと機嫌がよさそうなルーファウスが

またごろんと寝転んで鼻歌を歌う



俺は黙ってそれを聞く




「なあルーファウス…セフィロスは…もう、本当に…忘れたのか?」



ルーファウスがぴたりと動きを止めてゆっくりと俺を見上げ


そっと起き上がり目を伏せた



「…吹っ切れてるって」



穏やかな顔をしていた



「じゃあ、もう、あいつはいいんだよな?」



「…彼が私の前に現れることはないと思うから、いいんだ。
でももし目の前に現れたら、それがわからない」



自分の足の爪を弄りながら

ルーファウスはゆっくりと喋る



「でもな、クラウド、もう私といたときの彼は戻らないから
…もういいんだ。もう」



眉をひそめて笑った



「…セフィロスが、現れたら…アンタは、」



ありえない話ではないけど

あいつは昔のセフィロスじゃない

きっとまた現れても、そうだろうな



「本当は、どこかで彼を待ってる部分もあると思う。
本当にもう、それが辛くて。でも最近は、少し軽くなったんだ」




「軽くなったのは、時間のせいか?」



時が経ったから?


そう聞くと

ルーファウスは顔を伏せて押し黙った





「アンタ他に誰かできたのか?いるのか?」



ルーファウスの顔がはっとしたのを見て

きっとそうなんだと思った



タークスの、ツォン?



気付けばいつも一緒にいる

わからないようなところで通じているのを

見ていて誰だってわかるくらい近い



そしてツォンがルーファウスを見る目が何よりの証拠だと思う



俺の入る隙なんかないくらい





「正直に言えよ」



俺の言葉に



「なんで…」



言葉を詰まらせるルーファウス













「クラウド、仕事の時間だけど、忘れてないよね?」





ティファからの電話に

俺はフェンリルのキーを取り立ち上がった














なんか、俺だけがその気になって



バカみたいだ

























仕事が終わって夕方、雨が降っていた


俺はセブンスヘブンに行くのも

ルーファウスの家に行くのも


どっちも気が引けて


少し前にルーファウスと来た海に寄ってみた




近くに見覚えのある車があって


ああ、やっぱり…あいつ来てるんだ


そう思うと吸い込まれるように車の近くにフェンリルを停めた




少し歩くと

人の居ない海辺の小屋があった



こんな小屋、そういえばあったっけ



じゃあ、あいつ、ここの小屋にいるのか?











「なにしてんだアンタ」


「キミこそ」





小屋の椅子に座り、外を眺めるルーファウス



「雨宿り」


「…私もだ」



少し距離を置いて立ちながら、俺は外を眺める





「寒いのに海水浴でも?」


沈黙を破るルーファウス



「俺はただ、海を眺めに」


俺が答えても、その返事はない

会話を続けないルーファウスに、俺がまた口を開いた



「…アンタは海水浴?」



するとルーファウスの声がした


「海を眺めに…」






会話が終わり、また二人、黙って海を眺める







波の音



雨の音





「クラウド、キミはどんな天気が好きだ?」


「…雨は嫌いじゃない」



「じゃあ、朝とか夜とかでは、いつが好きだ?」


「夕方も、嫌いじゃない」



「じゃあ、季節は?」


「…いきなりなんだよ」




俺がルーファウスの方を向くと

ルーファウスは窓から視線を俺に移した



「知っておこうと思って」




「好きなヤツに聞けば」


そう言うと、俺はまた外に視線を移す





「…キミの好きな人の、好きな季節は?」


「なんだよそれ」


「きみが答えてくれないから」



「好きなヤツに聞けよ!」


もう俺はムキになっているのが

自分でも分かる


ルーファウスは苦笑して答えた


「答えてくれないんだ、それが」




ツォンなら答えるだろうし

やっぱり好きなのはセフィロスってことか?




「じゃあアンタの好きな季節は?」




「…なあクラウド、今朝、キミは私に
気持ちが軽くなったのは時間のせいかと聞いたよな?」



「…ああ」


「それはな、少し、違う。
でも他にパートナーがいるわけでもない」



そしてルーファウスが俺を見た



「…クラウド、キミの存在が彼の影を薄くしたんだ」




無邪気に笑った



「…俺?」



俺は息を呑んで


俯いてからまたルーファウスと目を合わせた



「…なら…もう、もういいなら、アンタ俺の所にくれば?」



ルーファウスが、表情を変えた


一瞬、言わなければよかったと後悔したくらい


驚いたような怒ったような真剣なような

そんな顔




でもここまで言ったら、言わなくては



「はっきり言う、ルーファウス、アンタが欲しい」



そう言うとルーファウスは眉をひそめて笑った



「ルーファウス神羅という人間を考えたか?」


「ああ、考えた」



「神羅がやったことをわかってるのか?」


「ああ、それに卑怯なのも、結構間抜けなのも知ってるよ」



はは、とルーファウスが笑った



「それでも、私でいいのか?」


「アンタがいいんだ」





「いいよ、あげる」



なんだろうなこの笑顔は


俺もつられたように笑った




「俺が、アンタを守ってやる」



こんどこそ、後悔をしないように守り抜きたい



ルーファウスが、ぎゅっと唇を噛んだ



「…私も、キミを守りたいよ」




泣くんじゃないかと思った


その表情が今にも崩れそうだったから


でも泣きはせずにルーファウスは、クラウド、と俺を呼んだ


名前を呼ばれた瞬間

俺はルーファウスを抱き締めた






「私はずっと、言葉なんかいらないと思っていた。言葉は簡単に裏切るから。
でも、言葉っていいもんだな」



「…俺はそんな、上手いこと言える人間じゃないけど…」



「充分すぎるほど、キミは言葉をくれてるよ」




すっかり俺に身体を預けたルーファウスを強く抱きしめると

ルーファウスは楽しそうに笑った



「なんだか、嬉しいものだな、こう…受け入れてもらうって」




受け入れてもらうこと



きっとルーファウスには特別なことなんだろう

そう思った



「俺はアンタが好きだ」



ルーファウスの表情は見えない



「アンタは?」



「アンタは俺に言葉をくれるか?」





「だから聞いたじゃないか、キミに好きな季節を」







ルーファウスは俺よりも不器用な部分があるんだろうと思う






「…アンタと過ごすこれからの季節全部」


「じゃあ、私も」








これからを



これからの季節を二人で過ごしていきたい
















いろんなパターンを考えたけど
とりあえずあまりいじめないで平和なパターンでいきました。

最後まで結ばれない二人っていうのもいいんだけどなー
やっぱりハッピーエンドのが後味はいいかな