距離 |
「風邪だな」 「風邪ですね」 布団に入ったままのルーファウスに、俺とツォンがほぼ同時に言った 「ハモるな」 少し声がかすれておかしい声 初めて聞いた。風邪のときの声 「うつったら困るからツォンは仕事に行け」 「はい」 「俺はいいのかよ」 咳払いをひとつして、ルーファウスが俺を見る 「なんだ、仕事なのか?」 「いや…」 暇だったから、来たんだけど…確かに… 「仕事がしたいならなんか見つけてやるぞ」 「いらん」 「私の看病だ」 「それ仕事かよ」 「ボランティアで頼む」 そういったのはツォンだった 「クラウドがいるなら私も安心です。では私は少し出ていますね。 クラウド、何かあったら電話をくれ」 「…ああ」 ルーファウスがベッドの隣にある小さいサイドテーブルに手を伸ばし 水が入ったグラスを掴む 「それから」 ツォンがドアに手をかけてから、俺を見た 「ルーファウス様にくれぐれも、無理はさせないように」 「…帰ってくんな」 フフフと笑ってツォンが家を出た ルーファウスは困ったように笑った ああ、なんだろう、何考えてるんだろう 「アンタ熱あんの?」 「無いだろう」 自分の首に手を当ててルーファウスが返事をした 「熱は無い」 「薬は」 「いらん」 「救急箱は!?」 わりと目立つところにあったデカい救急箱を取り出すと いろんな薬やらなんやらが詰まってた 「あった」 俺が風邪薬を一回分取り出してルーファウスの横まで来た 「食事は?」 「いらん」 「食べたのか?」 「いいや」 「アンタなー」 薬を水の横に置いてキッチンへ向かった 「うーん」 料理なんか何年ぶりだろう 冷蔵庫にはたくさん色んな物が入ってる おかゆを作ろう こういう時、一人暮らしをしておいてよかったと思う 「ほれ食え」 「何だコレ」 「おかゆだ」 「いや、キミが作ったのか?」 「一人暮らししてたからな。簡単な物くらい作れるぞ」 「ほう」 おかゆを受け取ってひとくち食べる マズかったらどうしよう そういえばコイツ舌が肥えたお坊ちゃんだ 「あー、庶民の味」 頭を軽く叩くと、ルーファウスが笑った 「うん、おいしいじゃないか、驚いた」 「そうか?」 内心ほっとした 「ハイ」 ルーファウスがスプーンに一口分おかゆを乗せて俺の口の前に出した 条件反射で口は開いたけど、これは結構恥ずかしくないか? 「うん、ホレあとは食えよ」 「ああ」 恥ずかしかった 「アンタ一人暮らししたことないの?」 「あるぞ」 「じゃあ料理作れるんだな?」 「それは無い」 「ボンボンめ」 スプーンをくわえながら、ルーファウスが天井を見た 「作ったことはある。あれは大変だ」 俺はルーファウスの手を軽く引っ張って スプーンを口から出させた 「行儀悪いぞボンボン」 「ルーーファウス、だ」 「伸ばしすぎ」 「ルーファウス」 「そう」 「クラウド」 「そう」 「ツォン」 「それは言わなくていい」 かるく噴き出すようにルーファウスが笑った ルーファウスの笑う顔は大抵口角をあげてニッと笑う感じで たまに違う笑い方をすると俺は嬉しくなる 嬉しくなる? ルーファウスが俺の髪を軽く撫でた 「クラウドは、いい表情をするようになったよな」 「なに?」 「表情が柔らかくなったと思う」 ルーファウスがおかゆをじっと見て、ぱっと顔を上げた 「ああ、そうか、それが本当のキミなのか。じゃあ私に慣れたからか?」 確かに俺は感情表現が苦手だ でもルーファウスだって、俺とは違った意味で感情は出さないよな ポーカーフェイスってやつか? 「アンタ熱あるんじゃないの?」 確かに、ルーファウスに慣れた ルーファウスの額を触ってから首を触った 「…アンタ熱いんだけど」 「そうか?」 「そうかじゃない、熱あるんじゃないか」 「もう食べれない」 「わかった、暖めるだけで食べれるようにしとくから薬飲んで寝ろ」 俺がおかゆを下げてくると、薬を飲んだ跡があった 「あんたよく風邪ひくの?」 「なんかな、以前より体が弱くなった気がする」 早く普通に歩きまわれるようになるといいな 口には出さないけど、本当に思う でもコイツが本当に自由に動き回れるようになったら また世界は変わるんだろうか 神羅がまた表舞台に出るんだろうか 「アンタ、世界の再建なんて本気じゃないんだろ」 だるそうな顔でルーファウスが俺を見た 「この星の人々から見れば生活を豊かにしたのも災いをもたらしたのも神羅だ。 私や神羅を憎んだり許せなかったり信用できなかったり、 それでいて生活を潤わせる何かを求めるのは当然の心理だと思っている。 以前ほどじゃないが、神羅の財産も私的財産も残っている。 これはこの世界のために使うつもりだ」 「本気なのか?」 平気で嘘をつきそうだけど、こいつ やっぱり信用をしてはいけないと、思っている 「いいさ無理に信じなくても。 でもな、神羅は私で私が神羅で、私はルーファウス神羅としてずっと」 なんかわかんなくなってきた、と呟いてルーファウスが横になった 「私は色々なものを失った。その価値は莫大だ。 しかし財産にも代えられない物を、人を失ったたくさんの人たちは 私よりもきっとずっとダメージが大きいだろう」 「…確かに、大勢の人が死んだな」 「私は誰かに許されなくていい。 私が生かされたことに意味を見出すなら、世界をどうにかすることじゃないかと思った。 そう思ったと言っても、私はちょっと胡散臭いからな。 信じなくてもいいよ」 許されなくていい 信じなくていい こいつの気持ちはどこにあるんだろう 「許されたいか?」 自分の気持ちがフラッシュバックする 仲間を助けられなかった俺 見殺しにしてしまった俺 それなのに、受け入れられた俺 「クラウド?」 はっと、ルーファウスの声で我に返った 「キミはこの世界を救った英雄だ。一度だけじゃない。 信頼しあう仲間と世界を救った。キミ達はこの星に無くてはならない存在だった」 「俺は…でも俺は大切な人を死なせてしまった」 「古代種の…?」 「だけじゃない、守れなかった人が、たくさんいる」 「キミは大事な人が多いんだな」 それだけ大事に思われていたんじゃないのか?と聞かれた 俺は答えられなかった なんだか、急に自信がなくなった 自分に自身が無くなった 「私なんか生まれたこと自体間違いだぞ。 キミは星のために生まれてきたんだ。きっと」 「星のために生まれた?」 「そうだ、この星を救うために」 「ちょっと待てよ、生まれたこと自体間違いって…」 「これは決して言いすぎじゃないだろう」 神羅自体がきっとそうなんだ、とルーファウスが薄く笑った 生まれたことが間違いって、どういう意味だろう 何ていえばいいのかわからない自分がもどかしくなった 「生まれなければ良かったか?」 「いや、そうじゃない」 「じゃあどういう意味だ?」 「神羅を考えればわかるだろう」 「アンタ神羅がイヤなのか?」 「私は私でいい、これでいい。他の者に私は務まらないからな」 きっと、耐え切れない、とルーファウスが両手で顔を覆った 確かに神羅のやったことはいい面もある でも、悪い面が大きすぎる 「あんた、ずっと神羅で悪巧みしてたのか?」 ぱっと手をよけてルーファウスが起き上がった 「実は私は、部外者と言っていいほどにな、 親父が生きてる間は神羅に関われなかった」 そして腕組をして考えているような顔をした 「オヤジが死んでから社長になってわかったことが多すぎた。 私が社長就任した時、既にもう神羅は危うい状況だったからな」 別に責任を投げ出すつもりじゃないけど、といいながらまた寝転んだ。 「実は長いことオヤジに軟禁されたり出張という名目で追い出されたりしてた」 「何で?」 「私が危険思想だったからだ。さぞ恥ずかしくて鬱陶しかっただろう」 確かにコイツは危険思想だ。 確かに… 「今はその危険思想はどこいった?」 「…どこにしまったか忘れてしまった」 久しぶりにこいつに会ったとき そういえばなにか違和感を感じた 前とは違う雰囲気 車椅子や姿のせいじゃなく なんでだろう 「言っておくがな、クラウド、私はキミのように ネガティブの塊じゃない。どちらかというとポジティブだ」 「悪かったなネガティブで」 布団を抱きしめるような姿で転がっている 布団から出ていた肩を触った 「アンタだって本心は言わないだろう?わざと隠してないか?」 「それならキミと同じだな。キミは不器用だからな」 そう見られていたのかと、ちょっと驚いた 「きみはいつも悩んだ顔をしていた。でも少し晴れたんだろう?」 「…まあ、な」 母さん、ザックス、エアリス、セフィロス ルーファウスの肩に布団をかけた 「それはよかった。愛されてる事には自信を持てよ」 嬉しそうな顔をして、ルーファウスが目を閉じた そして小さく擦れた声で、なんか、喋りすぎたな、と言った 「アンタは愛されていないのか?」 「信頼できる部下はいる」 そして少しもしないで小さな寝息が聞こえた 熱い手を握ると 頼りなく握り返してくる 「…」 何か言った気がした 少し口が動いたから 「何?」 ルーファウスの口元に耳をやっても、もう声は発せられなかった 代わりに握った手が少し動いた ルーファウスの頭を軽く撫でる 「愛されてる自信…か」 仲間がみんな、返事もしない俺に電話やメールをくれる 帰る場所ならある 待っていてくれる人はいる そういうことなんだろうか 星痕症候群になったことを知った時、ティファが一緒に戦おうと言ってくれた エアリスもザックスも、俺に姿を 笑顔を見せてくれた そういうことなんだろうか そいいえば、ルーファウスと話しているといつの間にか ルーファウスの話題から俺の話題になってる気がする 俺、ルーファウスの話聞けてるのか? 一時間も経っただろうか 気付いたらルーファウスが布団の中から俺を見ていた 「なんだよ、起きたなら声くらいかけろよ」 「だって考え事してただろう」 風邪の上、寝起きのせいか、声がひどくなっている 「いや…ああ、そうだな」 ルーファウスが自分の手に視線をやった 手がつなぎっぱなしだった 慌てて俺から離す 「私が掴んだのか?もしかして」 俺からだ、と、なぜか言えなかった 「…キミが握った?」 「ち、ちが…」 「だよな、すまんな」 苦笑した ルーファウスが この顔、いいんだけど何か切ないな なんだろう、なんでだろう 俺はルーファウスの手をもう一度握った 「…俺から握ったら、アンタが握り返したんだ」 ルーファウスの表情が無表情に変わった やばい。握らなければ良かった 無表情を崩さずに ルーファウスが握り返してきた 「そうだったか」 そのまま俺の手を自分の頬に当てて目を閉じた 「最初、君の手が、思ったよりもずっと戦士の手で驚いたもんだ」 最初っていつだろう 初めて触れ合った夜だろうか 「ずっと剣握ってればイヤでも皮は厚くなる。アンタも少し剣でも握ってみたら?」 「重いのは面倒だ」 「でもアンタの使ってる銃はデカいよな」 「前の持ち主が手がデカかったからな」 「誰」 「気になるのか?」 「ならん!」 小さく笑って ルーファウスが起き上がった 「まだダルイんじゃないのか?」 「少しいいみたいだ」 銃は本当にもらいものだったのか ただからかわれただけなのか コイツって一体どんなヤツと付き合ってきたんだろう 付き合ったことが無いなんてコト無さそうだし そもそも相手がいたなら男なんだろうか、女なんだろうか 想像ができない そういえば今だって、別に誰かがいてもおかしくない 俺とコイツは付き合ってるわけじゃないし やっぱり深く知ってるわけじゃないし でもコイツは俺のことを色々調べ上げてて知ってたりするんだろうけど 考えてるとキリがなくて「ああ、もう」と口から出た 「どうした」 聞きたいことがある 「いや」 聞けなかった 「言いたいことは言ったらどうだ」 言えねーよ 「なんか、考えても答えが出ないこと考えてるんだろう?」 「なんでだよ」 「ああ、もう、って言ってたじゃないか」 だからって素直に聞けることじゃない なんか俺がバカみたいじゃないか? 「アンタさ、どう思ってるんだ?」 「何を」 俺を、俺との関係を 「…いや、色々、世界とか神羅とか」 言えなかった 「会話がさっき話した様な内容になるぞ?」 「そうだよな」 「キミのことか?」 「え?」 ビックリした もしかして俺の顔に書いてあるんだろうか 気になるって 「違うか?」 「いや、…なんだ、じゃあそれはどう思ってるんだ?」 「ボディーガード」 「あ、そ」 「まあボディーガードと手は握らないが」 抱き合いもしない、と言ったルーファウスの頭を軽く叩くと ルーファウスが小さく笑いながら屈んだ 「アンタがいまいちわからない。 正直本当に信用できるかもまだわからない。 神羅は許せない。 でも俺はアンタを憎く思ってない」 俺にしては、頑張って喋ったと思う ルーファウスが俺に釘付けになっていた 「そこまで見られると、なんか…」 「私に対して憎しみが無いというのは何故だ?」 「何故って…」 考えたこと無かった 俺はこいつになれすぎたのかもしれない 「アンタと一緒にいすぎたかもしれない」 これじゃあダメかもな、と付け加えた 「…距離でも置く気か?」 ルーファウスを見ると まだじっとこっちを見ている その目は真剣だ 「わからない」 「そうか」 ルーファウスが枕を抱きしめる様な形で ベッドに沈んだ 本当に距離を置いたほうがいいかもしれない 俺はこのままの調子でいたら ルーファウスにすべてもっていかれる気がする 現に、暇を作っては呼ばれていないときも来ている それはルーファウスに 暇が出来たら来て欲しい。キミがいると安心だからな そう言われたからだけど、別にそれは絶対でもなんでもない 任意だ 「でも君がいてくれないとな、私が殺されるかもしれん」 「なんの脅しだよ」 両手を上に上げて ルーファウスが伸びる 「私も戦おうかな」 「アンタは殺すより殺しを指示してろ」 こいつにはなんだ、人を殺して欲しくないと思う 誰か言ってなかったっけ 恋人に人を殺して欲しくないんだって 昔、…誰だっけ 「私の銃の腕前は本物だぞ?」 「でも殺しは似合わないね」 ルーファウスの顔が不機嫌そうに歪む ああ、そうだ、あれ確か俺が神羅兵の時だ 誰だっけ 恋人が居た人… ザックスじゃないし… 「俺、そういえば神羅兵だったんだよな…」 なんとなくこぼした言葉に ルーファウスがすぐに反応した 「覚えてる」 「は?」 「キミが神羅の兵士だった時 私と会ったのを覚えているだろうか?」 「え?」 ルーファウスと会った?俺が? 神羅兵の頃、今なら普通に思い出せることが多い こんなお偉いの坊ちゃんで、まして同じ年の子供 会ったなら覚えてるはず コイツにはオーラがあるし 「さては覚えてないな?」 「…思い出せない…いつだよ」 「忘れてたのか。なんだそうなのか」 納得したような顔で一人話を完結させたルーファウスの頭を叩いた 「なにするんだ」 「だからいつどこで!」 俺忘れちゃってることもあるんだよと言い訳をつけた 「私は身分を名乗っていなかったから、私の身分は知らなかったはずだ。 あとは自力で思い出してみろ」 「なんで教えないんだよ」 「キミに思い出して欲しいからだ」 その言葉に返す言葉が無くなった どう考えても思い出せそうに無い 思い出したい時に限って 思い出せないんだよなこういうの 探してるときに探し物がみつからないみたいに 「で、キミは距離を置くのか?」 「しつこいと離れるぞ」 「ではもう口を閉じよう」 「なんだ素直だな」 離れて欲しくないのかと聞きたくてやめた 所詮きっと俺はボディガードだから でもただのボディガードでは、ないんだよな 「クラウド、おかゆ」 ハイハイ、と立ち上がっておかゆを温めながら なんだ俺何やってんだろうとか思った でもなぜか たまにこういうのも、悪くないと思ってる |
個人的になんてほのぼのとしてしまったのかと後悔 もっと喧嘩させたりどっちか泣かしてやればよかった 好きになってるのを認めれないクラウド 好きになってしまうのが怖いクラウド ルーファウスはどう思ってるんだろうね |