雨やどり




「君は愛されてるな」


ベッドで横になるルーファウスを後ろから抱きしめる


「俺が?」


「ああ…」


ルーファウスの首から肩にかけて唇でくすぐると
ルーファウスがくすぐったそうに笑って身体を反らした


「君は、多くの仲間がいる。信頼し合っている」


俺の手を掴んで、その手にキスをした



「家族みたいに、愛し合っている」


そして軽く噛み付いた



「ルーファウス、アンタは家族って言葉を使うよな。そう見えるか?」



「ああ、とても」




いつもと様子が違うのは、少しアルコールが入っているせいか

繰り返した激しい行為の後のせいか

それともさっき飲んでいた薬のせいか


「アンタの家族は?」


「うん」



器用に俺の方を向いて、首に抱きついてきた



「帰る時間か?」


「ああ、アンタはもう寝ろ」


「クラウドが帰るとき、フェンリルの音が遠のいていって
それが何だか寂しく感じる時があるんだ」


「…どういう意味だ?」


優しい言葉が出てこない



「帰るのか?」


「ああ」



帰ってほしくないのだろうかと考えて、起き上がるのをやめた


今日はバレットが家にいるから安全だとは思うが
帰るとティファに言ったから、きっと待ってるだろう



「家の人が待ってるか?」

「ああ」

「…そうか、それなら止めれないな。気を付けて帰れよ」


眠くなってきた、とルーファウスは俺から離れて目を閉じた








ルーファウスに渡されていた合鍵で、鍵を締めてフェンリルに乗った



少し走った所で雨が降ってきた



雨はすぐ激しくなった




ルーファウスは、何が言いたかったんだ?

アルコールのせいで、頭が回らない




携帯を手に取って、ティファに電話した






またルーファウスの家に戻り
ドアを開けるとルーファウスはそのままの姿で寝ていた


そっと近づくと、呼吸が無いことに気付いた



「おい、おいルーファウス!」


慌てて体を揺すり、頬を叩くとぱっ、と目を開いた



「クラウド」



「お前今、呼吸止まってたぞ…」



「ああ…なぜ戻った?」



雷が光り、雷鳴が聞こえた


ルーファウスの顔が、身体が蒼白く浮き上がる


「…心配、だった…」



額を押さえて優しく俺を押し退ける




「そんなこと、頼んでないぞ。なぜ起こした…」



俺はルーファウスの手を振り払う様に叩いた



「なんだその言い方」




「…いや、すまんクラウド」


ルーファウスが俺の手を掴んだ

俺はその手を振り払った



なぜかすごく、苛立った


謝るルーファウスにも
俺の手を掴むルーファウスにも




目が覚めたような顔で俺を見るルーファウスを無視して
俺はまだ残っていた酒を煽った


「クラウド、怒るな」


「一人がいいなら一人でいればいい。帰る」


「違う」


ドアを開けて出ようとする俺を
ルーファウスが追いかけようとベッドから降りて3歩で崩れ落ちた



「イラつくんだ!アンタが!」



一瞬言葉に詰まったのか、ルーファウスが口を開いたが何も言わなかった



「そうか」



ルーファウスはそう言ってベッドに戻り、横になった



俺をイラつかせるのはルーファウスだ





「なあ、アンタ寝てて呼吸止まる事はよくあるのか?」


「…たまに」



短い返事にまたイラついた




どうしてこんなに苛立つんだろう…



ルーファウスが起き上がって俺を見た



「クラウド、帰らないなら横に来てくれないか?」


「何で」


我ながら冷たい口調だった


ルーファウスが苦笑いしてまた寝転んだ


「言ってみただけだ」



恐らく、言うのに勇気がいる言葉だったんじゃないかと思う

こんな事はいつもは言わない



まさか泣いてやしないだろうか



ルーファウスの顔を覗き込むと、思いきり睨まれた




「私はなクラウド」


低い声に、心臓が大きく揺れた気がした


「私は…同情はされたくない。独りは慣れている。心配なんか無用だ」



俺の顔も渋くなった


「心配されたくないなら甘えてくるなよ!」


ルーファウスの目が揺れた


「…気を付ける」


相変わらず雷が鳴り響いている



なぜ胸が痛くなるんだろう


泣きそうだ



ルーファウスから離れ、ソファに座った


帰ろうか、帰るまいか…




帰らないと電話は入れたが、帰っても全く問題はない


帰ってまたルーファウスが呼吸を止めたら?



…そもそもなぜこいつは今日こんなに情緒不安定なんだろう







一時間近く経った気がする



ルーファウスの寝息を確認しにいくと、大きく目を開いたルーファウスと目が合った



「今度は何だ。何を言いに来た」


腕で目を覆ってルーファウスが溜め息をついた



「アンタ散々甘やかされて育ったのか?」


嫌味っぽく言うと、さらに大きく溜め息をついてルーファウスが起き上がった



「私は人より裕福に育った。それが何だ?」



裕福とは無縁な俺が、至る所でその差を見せ付けられているのを気付いているだろうか
気付いてないだろうな


「我が儘放題育ったんだろ、だから友達の1人もできないんだよ」

ルーファウスは眉間を押さえた



「クラウド!」


ドキッと、した


「いい加減にしてくれないか?口論をするつもりはない」


「俺はアンタの友達じゃないからな」


ああ、もう、とルーファウスが頭を掻いて俺を見た



「わかったわかったからもう口を閉じてくれ」



俺はそれで止めたら俺が折れる様な状態になる気がして
負けた気がして嫌だった


嫌味を言わなければ気が済まなくなっていた



「アンタは俺に何を求めた?身体だけか?誰かの代わりか!?」


おもいきり殴られた


殴り方も力も、さすがに女の様にやさしくはなかった



「君に心を許した私が間違っていた」


ルーファウスの唇が微かに震えていた



俺に、心を許していたと

ルーファウスが言った言葉が頭を回る



「早く帰れ。私自身はもう君に護衛は頼まないから安心してくれ」






いつの間にか外に立っていた

雨は小降りになっていた



ルーファウスとの関係は終わったのか?


フェンリルにまたがり、エンジンをかけて考える





考えたくない

それなのに酔いが覚めている事に気付いてしまった



「クソ…」



フェンリルを降りてドアの前で考えた


何ていえばいい?



するとドアが開いて、寒いのか、薄い布を肩にかけたルーファウスが顔を見せた



歩いてきたのか、車椅子はない



「エンジンの音が遠くに行かないから、見送りに来たんだ。気を付けて行けよ」


壁によしかかって腕を組んで、薄く笑った



俺がおもいきり抱き締めると、ルーファウスが腕の中で強く反発した


「やめろクラウド!やめろ!」


力では遥かに俺が上だ



「ルーファウス」



「は、話なら離れてからしろ!離せ!」



俺はそれに従わずに言葉を続けた



「すまん、どうしようもなく苛立った。言い過ぎた…」



「だから何だ!離せ!怒るぞ!」



「でも気持ちがなくて抱けるほど俺は器用じゃない」



ルーファウスの動きがピタリと止まった



「もう一度私が君を殴る前に離せ」

「殴れ。気が済んだら許せ」


「貴様…」



ルーファウスの顔を覗き込むと
軽く睨まれた



「俺に甘えたか?」


ルーファウスは俺を睨み続けている


「俺をどう思っている?」



「もう過ぎた事だ。早く帰れ」


「俺は…」

「私はなクラウド、女じゃない、
抱き締められて優しい言葉をかけられてもどうも思わないぞ」


「こんな女いてたまるか」


はねのけられ、簡単に離れてしまった


「帰れ。見送りに来ただけだ」



ここで帰ったら、きっとルーファウスはもう俺を呼ばないだろう



「アンタを守れる奴が出てくるまでアンタを守る約束だ」


「それは君の気持ち次第だろう。
嫌ならいつでも降りると言ってただろう」


「だから!今は降りる気分じゃない!」



ルーファウスが少し口をあけたまま、俺を睨む



「はっきり言ったらどうだ?」


俺は考えながら、目を伏せた


「神羅はいい取引先だ」



ルーファウスは表情を崩さない



「安心しろ。いい仕事は回してやるし、これからもキミには仕事を頼みたい」


「そうじゃ」

そうじゃないと言う前に、ルーファウスが口を開いた


「君の家族にも悪い暮らしはさせない。もう帰れ。疲れた」



ルーファウスが素早く家に入り鍵をかける


「おい!」


合鍵で開けては鍵をかけられる


「おい開けろ!」


「開けるかバカ!」


「離れろドア壊すぞ!」


「やめろ!私まで吹っ飛ぶ!」


「じゃあよけろ!」


「開けられるくらいなら吹っ飛んでやる!」


「ルーファウス!」


「呼ぶなバカ!」



こいつまだ酒残ってるな…



「ルーファウス、聞いてくれ、俺はまだお前と離れる気はない」


返事が無い


「認める。俺はきっとあんたに特別な感情を持っている」


やはり返事が無い


「愛だのそういうのはよくわからない。でも離れたくないと思うし
アンタの傍にいたいと思う。これってどういうコトだか分かるか?」


素早く鍵を開けたと同時にドアを開いた



ルーファウスが驚いた顔で俺を見る


「教えてくれよ」


今だの返事は無い



「俺にばかり喋らせるな」



ルーファウスが唇を噛んだ


「アンタの気持ちは全く違うか?アンタが嫌ならもう来ない」



「お前以外に誰が私を守る!?お前が飽きるまで傍にいろ!」



ルーファウスが俺以上に動揺している



「だいたい恥ずかしくないのか!男だぞ!」


「恥ずかしいままならアンタを抱いてな…」



殴られた



そのまま俺はルーファウスを抱きしめた


「落ち着けよ」



無言で無抵抗で、ルーファウスが息を吐いた



「いつ去って行ってもいいが、行く前に一言くらい挨拶しろよ」


「ああ」




ルーファウスを抱き上げベッドに置いた



「約束しろルーファウス」



「何を」



「死んでもいいと思わないと」



「……わかった」









夜が明けるまで抱き合って眠った






この話はもう気まぐれで書き上げたので
またクラルーを書くときはこの小説の話は
無かったことにして考えます。