守るもの |
「神羅にはもうかかわる気はない」 睨み付けるようにルーファウスを見ると 首の包帯が目に入った 「君に力を借りられなければ困るんだ。 今日はタークス全員別件で出払っていてな」 でかい態度で座るルーファウスを見下ろした 「関係無い。帰るぞ」 神羅を恨んでいる奴なんか珍しくもない ルーファウスの命を狙う奴も珍しくもない 「君の力を貸してくれ」 「断る」 足早に、俺は家を出た 星痕も消えた 弱くても、あいつだって戦える それに あいつが死んでも俺には関係の無い事だ フェンリルにまたがり 俺はその場を去った 20分くらい走っただろうか そこにあった草原に腰を下ろして 携帯を眺める 教えた筈もないのに また電話をかけてきた この番号はルーファウス本人のものだろう 着信履歴のその番号を消去しようとして やめた 「何かに使えるかもしれないし…」 寝転がり、目を閉じた この後この世界はどうなっていくんだろう この後俺はどうなっていくんだろう 戦いはいつまで続くんだろう ザックス セフィロス エアリス ルーファウスはあの状況でどうやって生き延びたんだろう 「よく、生きてたな…」 携帯が鳴った その音で目が覚めた どれくらい寝ていただろうか 明るかった空には夕陽の赤色が混ざっていた 「もしもし」 相手も確認せずに出ると 馴れ親しんだ声 「クラウド!今どこにいるの?」 「ティファ、何かあったのか?」 「うん、今レノから電話があってね、クラウドは社長といるのかって。 ルーファウスが電話に出ないんだって」 「いや…一緒じゃ…ない」 「じゃあ断ったの?」 「…ああ…。 わかった。今から向かうとレノに伝えてくれ」 俺はフェンリルにまたがりながらティファからの電話を切った バカらしい 危ないなら一人にしなければいい 男なら戦えばいい バカらしい ルーファウスのいる家に入ると そこは血だらけの床 血まみれの 「…どこだ…?」 見知らぬ男の死体が三体 ルーファウスの姿がない 辺りを見回す 「ルーファウス!」 さらわれたのか シンプルな部屋を歩き回る 「ルーファウス!!」 何があったんだ 「クソッ…」 ソファの影から かすかに物音がした すぐに寄ると、ルーファウスが銃を握り締めたまま 横向きの体勢で倒れ込んでいた 「ルーファウス」 寄って見てみると、細く目を開けて俺を見上げた 「…クラウドか?」 小さな声でルーファウスが答える 血に染まった白いスーツを引っ張り 首の後ろを押さえて上半身を起こすと 想像よりもずっと軽く持ち上がった ルーファウスが低く呻いた 「アンタ、何やってるんだよ」 ルーファウスが俺の目を見て顔をしかめながら笑う 「お前こそ何をやっているんだ」 自分から立ち上がろうとしないルーファウスを放って、立ち上がった 「…レノからティファに連絡が入った。アンタが電話に出ないって」 ああ、と言って ソファにもたれたルーファウスが指をさした先に 携帯電話が転がっていた 「取ってくれないか?」 「自分で取れよ」 黙ったルーファウスを見て気付いた 「もしかして歩けないのか?」 ルーファウスに携帯を渡して 抱えあげてソファに座らせた 軽いな ルーファウスは自分のくるぶしを指さした 「まず、ここをやられてしまってね」 しかし全員を片手でやったよ、と 銃を顔の高さまで持ち上げて笑った 「アンタ弱いんだな」 ルーファウスに跪く形で 両足のくるぶしの止血をした 細い脚が、戦闘とは無縁に見えた 住む世界が違う 価値観も違う 「君ほど強くはないが、弱くはないぞ」 ルーファウスを見上げると 伏せられたルーファウスの目と目が合ってしまった その目を見ていられなくて また下を向いて手当てに集中した 「それにまだ長い時間立っていられないんだ」 その言葉と言い方が言い訳に聞こえて 少し笑えた レノと電話をしているだろうルーファウスを見ながら 俺は立ち上がり、ティファに電話をかけた 「ティファ、ルーファウスは無事だ。 今日はここにいるから何かあったらすぐ電話して」 俺を見上げるルーファウスの目が丸くなった 電話を切ってじっと俺を見ている 俺はすでに切れた電話を耳から離すまで 少し時間がかかってしまった 死体を片付けてルーファウスの正面のソファに腰を下ろした 「なぜ気が変わった?」 「ティファが…心配してたからだ、お前を」 ティファのせいにしてしまった いや、ティファは心配はしてたから、ウソはついてない 「心強いよ」 そう言ったルーファウスはどんな顔をしていただろう 俺はその顔を見ることはしなかった ----------------------------------- シャワーを浴びながら 空腹に気付いた そういえば夕飯はどうしよう あいつも食べるよな… シャンプーを手に取ると いい匂いがした あいつこんな匂いなんだ 「クラウド!」 洗い終わってシャワーを止めると 部屋からルーファウスの声がした 「誰か来たか」 俺はバスタオルを腰に巻き、すぐに部屋まで走った ルーファウスは困った顔をして俺を見た 「考えてみると、お前が使うような整髪料が無い」 俺は頭を抱えてうなだれた 同時にホッとした 何もなくてよかった 「驚かすな」 バスルームに戻って体を拭きながら 鏡を覗きこみ、頭を拭く 髪をセットしないで出るのが少し 恥ずかしかった 「雰囲気全然違うな」 車椅子でルーファウスが寄ってきた 俺の髪に触れた 嫌なのか嫌じゃないのか 俺の中で何かがゆれた いきなりすぎて、驚いたんだろう、俺は 俺はその気持ちを無視するように歩きだした 「なんか鳥の雛みたいな髪だな」 「おまっ…」 ちらっと振り返ってルーファウスを見た 「クラウド、テーブルに食事を用意した」 テーブルには豪華ではないが、質素でもない食事が並べられていた 「まさかお前が作ったのか?」 「私は料理はしない。イリーナだ」 「お前は食べないのか?」 バスルームに向かうルーファウスに声をかけると 振り向いたルーファウスと目が合った 「実は昼に食べ過ぎてな」 軽く笑ってバスルームに消えていった テーブルに向かい、料理を口にはこぶ 「うん、旨い」 あの怪我でルーファウスは風呂に1人で入れるだろうか でも手伝う気はないから そんな心配はやめよう 窓を見ると、綺麗な夜空には月が浮かんでいた あまり灯りのないこの山のふもとに 小屋のような家で暮らすルーファウス 住む場所を、ルーファウスは転々としている 身の安全のためか仕事の都合かは知らない 食事を済ませてから窓を開けて夜空を見上げた 「綺麗だな」 少しの間空に見入って 窓を閉めた 人の気配がする外に 自分の存在を確かめられるよう わざとカーテンは閉めない 生活感をあまり感じない家を見回す 無造作にソファに置かれたルーファウスの銃を手に取った 見た目よりは軽く しっかりした銃 バスルームから気配を感じて バスルームに向けてその銃を構える 「私を殺すか?」 その顔に、姿に見入ってしまった 「アンタも…雰囲気全然違うな」 前髪を全てたらしたルーファウスはいつもより幼く見えた そしてYシャツにズボンというラフな姿 笑ってルーファウスが答えた 「君の方がずっと、雰囲気は変わるよ」 銃をルーファウスに突き出す 「置きっぱなしにして危険だと思わないのか?」 銃をルーファウスが受け取る 「だって君がいるじゃないか」 「新鮮だ」 ルーファウスが俺の髪を見て言った 俺は横目でルーファウスをにらんだ お前だってその髪型は新鮮だと 思った ワインを俺に差し出し 「飲めないか?」 と言うルーファウスの手からワインを受け取った ワインを飲むルーファウスの顔を横目で見る 伏せられた目に、長い睫毛 切れ長の目 女に騒がれる顔立ち 経ち振るまい 住む世界が、違うんだ 三杯目のワインを飲んでいるとき ルーファウスもまた三杯目を飲んでいた 「お前、戦闘向きじゃないのにあの部屋からよく飛び降りたな」 ジェノバを打ち落とした時 一歩間違えればこいつは死んでたはず 「私も戦える。君には到底敵わないがな」 「一歩間違えれば、潰れてただろアンタ」 「死ぬことが怖いわけではない アレを消してしまうことができれば 満足だったんだ」 さらりと髪が揺れる ワインを飲む姿が様になって 月の光がよく似合うと思った 綺麗だ、と思ってしまった 無意識に手を伸ばして ルーファウスの髪に触れていた 「お前は柔らかいのに、サラサラしてるな」 じっと俺を見る目を 今は離さず見返せる 「酔ったか?」 ふっと笑ったルーファウスの顔が とても人懐っこい顔だった 俺の手に、ルーファウスの指先が触れると 俺は慌ててルーファウスの髪から手を離した 「酔ったのかもしれない」 俺は頭を抱えてから 残りのワインを一気に飲み干した 「クラウド、先に休んでもいいぞ」 「俺、眠そうか?」 「少し」 窓を見るルーファウスを引っ張り 車椅子ごと移動させた 「外にまだ誰かいるぞ あまりアンタが姿を見せるな。 それから俺はまだ眠くないから眠いなら寝てろ」 「そうか?」 立ち上がろうと俺の腕をつかむルーファウスをつかみ上げ ベッドまで運んで、寝かせた 横に寝かせるときにルーファウスの首の後ろに回した俺の腕を ルーファウスが掴んで笑った 「驚かせるなよ」 上からルーファウスを見下ろす体勢で ルーファウスはまだ俺の腕を離さないで 横になったまま俺を見上げている 沈黙が耐えられなかった 俺の頬を触ったルーファウスの手を パチン、と叩いた 「俺にはそんな趣味はないぞ」 ルーファウスを睨むと ルーファウスがはは、と声を上げて笑った 「クラウド、ティファは恋人なのか?」 「こんな体勢でする会話じゃないぞ気持ち悪い」 「聞いてることに答えろ」 「関係ないだろう」 じっと見るルーファウスに降参して俺は口を開いた 「恋人はいない」 さっきから、心臓が早くなってるのは きっとワインのせいだ 「…イリーナは彼女か?」 ルーファウスはまた、笑って答えた 「違うよ」 俺はもう片方の手も ルーファウスの、首の隣に置いた ベッドのきしむ音で俺は飛び上がった 俺は何をしてるんだ ルーファウスが上半身を起こし ベッドから離れようとする俺を引っ張って その勢いで俺はベッドに座った 「ここにいろ。少し話そう」 「話すことなんか無いね」 俺の腕から手を離して ルーファウスが少しだけカーテンを開けて月の明かりを入れた 「私には友人というものがいないんだ。 仕事の話以外、する相手がいない」 「…何を話したいんだ」 「うん、わからん」 笑みは浮かべていても、明らかに寂しそうな顔だった だからといって 俺も何も話すことが無い 脇にあった俺の剣にルーファウスが手を伸ばす 俺はその姿を見ている 「お…重いな」 「当たり前だ」 一度両手で持ち上げて すぐに下ろした きっと車椅子にお世話になっていなければ そこまで重く感じなかっただろう ルーファウスは月の光に照らされた自分の手を眺めている 「クラウド、セフィロスは、どうなっただろう」 少し、考えた なぜ、セフィロスなんだろう 「もう、終わっただろう…多分」 悪夢は、まだたまに見るんだ あいつがまだ生きてるんじゃないかという 恐怖にも似た感情 そうだな、というルーファウスの目が揺れた気がした どういう関係だったのかはわからない でも、浅い関係ではないんじゃないかと 思った 「セフィロスと、アンタは…」 俺の声が聞こえていないのだろうか ルーファウスは呆っと自分の手を眺めている 俺はルーファウスをベッドに倒しこみ その髪の毛を指でなでた 大丈夫か? そう言いかけて言葉を飲み込んだ 泣いてるのかと思った ルーファウスが俺の頬を撫で 髪を撫で 耳のピアスを撫でた 「なんだクラウド、泣きそうな顔だな」 唇を噛んで ルーファウスの手の上に自分の手を重ねた あんたの方が泣きそうじゃないか 言葉が出ない代わりに ルーファウスのピアスを撫でた 「その趣味は無いんだろう?」 その口を、自分の口で塞いで、離す 「忘れたね」 人懐っこく笑うルーファウスに 口付けを繰り返した それでも泣きそうな笑顔が 頭からはなれない 「泣くな」 そういった俺の目を優しく ルーファウスの細い指が撫でる 「泣いてるのはクラウド、君じゃないか」 家をノックする大きな音で目が覚めた 人を抱きしめたまま 人に抱きしめられたまま眠ったのは初めてだ 小さく唸るルーファウスの髪を撫で 俺はそっと起きてすぐに服を着た 「社長ー!俺だぞ、と!しゃーちょー!」 そのドアを開けた瞬間に思い出した ルーファウスは服を着ていないんだった これはヤバイんじゃないだろうか 「なんだクラウド、顔が赤いぞ、と」 「お前が来たなら、俺は帰るぞ」 昨日寝転がっていた草原で 俺はまた空を見上げていた 男なんかに、こんな気持ちを持ったのは初めてで もちろん男相手は初めての俺を 手馴れた女の様にルーファウスがリードしていた 他にもいたんだろう そういう相手が そう思ってイラつく自分に笑ってしまった 携帯のルーファウスの番号を電話帳に登録して 俺は帰路についた END |