Coward |
「大丈夫ですか」 「なにが」 「私達がやりますよ」 「こういうのは、いい経験になる。ガラスケースに棺と花を入れて馬車で引く。 そしてパレードだ。土葬ではなく火葬。遺骨は…」 プレジデントが死んだ翌日 ルーファウスはいつもの調子を崩さずにいた 副社長室から社長室へ引っ越す準備をしながら葬儀などの事を考える 「…遺言とか、ありますか?」 ルーファウスは突然立ちあがり、部屋を出た リーブが早足で追う 向かった先は社長室だった そこには綺麗にされ、防腐処理をされたプレジデントの遺体が 透明な棺に入れられ 横たわっていた ルーファウスは笑いながら窓を見る 「これから楽しくなりそうだ。なあ、リーブくん」 「ルーファウス…社長」 「別に無理しなくても」 リーブを見上げてルーファウスが笑った 「ルーファウスさん、送りましょうか」 「頼もうか」 葬儀から数日過ぎた夜、帰りが遅くなったリーブが 帰ろうとするルーファウスを見つけて声をかけた リーブは車を会社の前にとめてルーファウスを助手席に乗せた 「入っていくか?」 「コーヒーでもくれるんですか?」 物があまり無くシンプルな室内 さすが、ルーファウスに似合うと思いながらリーブはソファに腰かける 「ルーファウスさん、プレジデントの遺骨はお墓に?」 ルーファウスがくすくすと笑いながらコーヒーを落とす 「そんなことに興味が?」 「いえ…ちょっと気になって」 「なぜ」 「貴方ならなんかしでかしてそうで」 ルーファウスは声を上げて笑った 「あのデカい図体が骨と灰になって小さな箱に収まったんだぞ。笑える」 「すごい言い様ですね」 「ふふ」 「葬儀の間もまったくポーカーフェイスで、迷いましたよ」 「何を」 「どう接していいか…」 「意味がわからない」 「プレジデントはたった1人の血縁者では?」 「わからんぞ。どこかに息子や娘がごろごろしてるかも」 「プレジデントの子供は貴方1人だ」 「兄弟にも親にも、私は興味が無い」 ひねくれもの、とリーブが呟く ルーファウスは笑いながらコーヒーを差し出した 「実の父だ。悲しくないですか?」 コーヒーを受け取った反対の手でルーファウスの手首を掴む 「悲しむ必要が?」 「本当ですか?」 「勿論。」 葬儀に白いスーツで来たルーファウスはいつも以上にとにかく目立った その姿を思いだす 棺に花を入れるルーファウスを思いだす 「貴方は泣かないのか、泣けないのか」 「泣くことになど意味は無い」 「そういう問題ですか?」 「では、どういう問題なんだ?」 「ああ言えばこう言う。減らず口」 「ははは」 なぜここまで歪んだのか ただ歪んでいるように見せているだけなのか その表情からは読み取れず、リーブは溜息をつく プレジデントのを火葬する時、火葬炉の点火ボタンを押したのはルーファウスだったらしい 火葬炉の奥に入っていったルーファウスがどういう顔で どういう気持ちでそのボタンを押したのかは 見ていないので伺い知ることはでいなかった ただ、そのボタンは自分が押すと自ら名乗り出たらしい 火葬炉まで行ったのはルーファウスだけだった プレジデントの家族はルーファウスだけだった ルーファウスの家族はプレジデントだけだった 「ルーファウスさん、聞きたいんですが、血縁者っています?」 「どこかにいそうじゃないか?他にまだ勝手に産んだ奴とかが」 「プレジデントの子供がですか」 「私の子かもしれんぞ」 「まさか、あなたは女性に興味ないでしょう」 ふっ、と笑ってルーファウスはリーブの隣に座る テーブルに紅茶を置いて足を組んだ 「キミは?彼女できたか?」 「いいえ」 「気になる人がいるんだろう?その人は?」 「口説いてすらいません。そういうことをしたら仲が駄目になりそうで」 「臆病だな」 「相手がね」 ルーファウスは笑うリーブをしかめ面で見る リーブは笑顔のままルーファウスの頭を撫でて首のうしろを掴んだ 「だれだ?」 「本社にいますよ」 「そいつと2人で出張に行かせてやる。部署と名前を教えろ」 「いやです」 ルーファウスの首の後ろをつかんだまま、自分のほうに引き寄せ リーブから口づける 「身代わり?」 ルーファウスが苦笑して質問すると、リーブは「まさか」と呟いてまた口づける キスをしながら、リーブの手がルーファウスの身体を這う 器用に片手でボタンを外すリーブの腕にそっと手を乗せて ルーファウスはリーブの筋肉質な腕を掴んだ リーブはルーファウスの腰を抱き寄せ、ボタンを外した部分から手をいれる 「ん…はっ…」 舌を絡める口の端からルーファウスの甘い声が聞こえる リーブは舌を絡めたままルーファウスを抱き上げてベッドに向かった 「新しいピアスですか?」 ルーファウスの耳を撫でると ルーファウスは肩を震わせて笑った 「くすぐったい」 ルーファウスの様子を見てからリーブが耳を舐める 「っ……」 ルーファウスは自分の指を噛んで声を殺した 湿っぽい音が部屋に響く 音楽の無いひどく静かな暗い部屋 既に上半身を晒したリーブが、ルーファウスの肌を晒す 「綺麗ですね、いつ見ても」 「ふ…んっ」 「ルーファウスさん、私がいないときは誰としてますか?」 耳元で囁くと、ルーファウスはリーブの胸に触れた 「きみだけだ、リーブくん」 「良い子ですね。嘘っぽいですが」 「ふふ」 晒されたルーファウスの白い肌の至る所に舌と指を這わせる ルーファウスの身体は跳ねるように反応を返した リーブの手を掴もうとするルーファウスの指に指を絡ませて、ベッドに押しつける 「は…」 「細いですね」 「んんぅ…」 「折れそうだ」 ルーファウスの指から手首へと手を滑らせ、押えつける 「ルーファウスさん、教えてください。 どんな気持ちでプレジデントの火葬炉に点火したんですか?」 ルーファウスの手がびくリと跳ねる 「そんなことに、興味が?」 「ええ、貴方の心が知りたいですね」 「教えるほど深くはない」 「ルーファウスさん、私ね、気になってる人への感情がまだ愛なのか、わからないんです」 「…そこまでの仲じゃないのか?」 「いえ…愛や欲はあるのですがね、なんだか、近付きすぎたみたいで」 「そこまで親しいのか?」 「その人がいるのがあたりまえになってるんです」 「両思いじゃないのかそれ」 「いいえ、その人には愛する人がいます」 「恋人?」 「ですね」 「妬けるか」 「ええ」 「妬くならもう好きなんじゃないのか?私はその手の感情がよくわからないが」 「ルーファウスさん、貴方だって人を愛したでしょう」 「いいや」 「…昔の可愛いルーファウス坊っちゃんはどこに行ったんでしょうね」 「誰だそれ」 「…純粋でかわいかった」 「純粋じゃないから抱くのか?」 「違いますって」 リーブはぎゅっとルーファウスを抱きしめて前髪を撫でた 「私の前では泣いてもいいのに」 ルーファウスは優しくその手をよけた 「泣く理由とか、意味もない」 「嘘ばかりですね、あなたは」 「私ほど正直な奴はいない」 「逆さ言葉ですか、それ」 「減らず口め」 「それは貴方でしょう」 フン、と笑ってルーファウスがベッドから出ようとする リーブはその手をひっぱって抱き寄せた 「ルーファウスさん、寒いのでもう少しこうしてて下さい」 「うっとうしい」 「抱きしめられるの好きなくせに」 ルーファウスが顔をしかめてベッドから飛び出す 「…あなたは何故私におとなしく抱かれるんですか?」 ルーファウスは顔をしかめて腕組みをする 「面倒臭いなキミは」 「わかりましたよ。もう言いませんから」 ベッドから出るリーブを、ルーファウスが目で追う 「昔は抱きついてきてくれることもあったのに」 リーブがそう言いながらルーファウスを見る ルーファウスは知らん顔で水を飲んでいる 目が合った瞬間、リーブが両手を広げると、ルーファウスがむせた 「抱きついてきてくださいよ、たまには」 「無理な要求はしないでくれ」 「寂しいんです」 「何が」 「あなたが変わっていくことが。大人になっていくことが」 「どうだか。キミは…変わらない。信用できそうでできない男だ」 「あなたは誰も信用しないんでしょう」 「キミが私を信用したら、私もキミを信用しよう」 「うそつき」 「はは」 「少しでも、弱音を吐いたら良いのに」 「そんなもの私の中には存在しない」 「私の弱音は聞きたくないですか?」 ルーファウスがリーブに歩み寄る 「なんだ?」 「好きな人とは、貴方のことです」 「そうか、それは有難い。で、弱音とは?」 「貴方が好きです。あなたの事を支えたい」 「真面目に聞こうとして損をした」 「真面目なんですが」 「その手の冗談や感情は好きではない」 「あなたの言い方は結構傷つきます」 「知るか」 ルーファウスは差し出されたリーブの手を見て リーブを見上げる 「この手を取ったら、私はいつか絶望する」 ふい、と顔を背けるルーファウスを リーブが抱きしめる 「何故そんなこと思うのですか」 「私は死ぬまで神羅だ。キミは、いつか敵になるだろう?」 「なぜそんなこと考えるんですか。貴方が望む限り私は」 「言っただろう、信用しないと」 ルーファウスがリーブの腕からすり抜ける 「言葉なんか絶対じゃないだろう」 「私は裏切りません、貴方を」 「信じろと?」 「はい」 「馬鹿なことを」 「ルーファウス」 リーブがルーファウスを抱きしめ キスをする ルーファウスはリーブの肩に額をつけて背中に手をまわした リーブが神羅から離れていっていることはわかっていた 信じきらなくて良かった 言葉なんか 信じるものじゃないから 真実なんて どこにもないんだ |
2009・7 リーブとルーファウス。 昔すごくよかった二人の関係は今はとっても微妙です。 もっともっと凍結したんじゃないかというようなものにしたかったんだけど… 個人的に社長室がウエポンに襲撃されたときのリーブの言葉が ちょっとショックだったので… |