ビルから少し離れてはいるが 敷地内の森の奥
そこに行ったのは本当になんとなくだった

綺麗なカラスアゲハが 飛んでいったから。

花が咲き 小川が流れている

そこで金髪の青年が つまらなそうに何かを見ている

あれはプレジデントの息子 副社長ルーファウスだ


ゆっくりセフィロスが歩み寄ると ルーファウスの手の中には
真っ黒なカラスアゲハが居た

セフィロスを見上げたルーファウスが蝶を差し出す
蝶はセフィロスの手が伸びたと同時に飛び去った

大きな蝶が 飛んでいく

「キミみたいな蝶だろう?」

セフィロスがルーファウスを見ると 彼は既に立ち去る所だった



「お前はもののけか何かか?」

セフィロスが呟くように白い背中に声をかけると
ルーファウスは振り向いてセフィロスの目をしっかりと見た

睨みながら 口角を上げた





数日が経った



「おいもののけ」

神羅ビル、1階
ルーファウスの後ろから突然声をかけるセフィロスに
回りの人間が振り向く

副社長と英雄というツーショットはなかなか見られるものではない

「誰かと思ったら」

つまらなそうに ルーファウスはセフィロスを見る
自分に関心の無い人間はそういない
セフィロスはあまりされない態度に眉を寄せる

「お前はいつもあそこにいるのか?」
「たまに」
「人は来るのか?」
「来ないよ」

そう言ってルーファウスが立ち去る
セフィロスは少し考えて 歩き出した





「近道でもあるのか?」

セフィロスが来た時には 既にルーファウスが座っていた
ルーファウスはセフィロスを見ずに 空を眺める

「キミの足が短いんだよ」
「お前より長い」

座りやすそうな岩にセフィロスが腰をかけると
ルーファウスはセフィロスのほうを向いて口を開いた

「ところでキミは、何をしに来たんだ」
「別に何も。ただ何となくだ」

ルーファウスは 自分で持ってきたのだろうか
木製の椅子に座っている

ルーファウスの手に鳥がくる

セフィロスは首をひねった

「お前やっぱり人間じゃないんだろう」

ルーファウスは無言でセフィロスの手を引っ張り
手のひらに何かを置いた

間もなく小鳥が飛んできた

「餌だよ」
「成るほど」








白くて細くて薄くて 骨っぽい手だった

セフィロスは立ち寄った店で鳥の餌を探した

「あいつはまたあそこに居るんだろうか」


夜になって雨が降った




「雨の日は、どうするんだ?」

ルーファウスがセフィロスを見上げる
セフィロスはルーファウスの執務室の傍まで来ていた

「今日はやまないそうだ」

ルーファウスがそう返すと セフィロスは窓の外を見た

「雨でも行くのか?」
「雨の日は休み」



晴れたのは二日後

先に来て鳥を集めていたセフィロスを ルーファウスは遠目で眺める

視線に気付いたセフィロスが振り返ると
ルーファウスの指に 蝶がとまっていた

大きなカラスアゲハ


「来たかもののけ」

そう言って笑うセフィロスに ルーファウスは眉を片方上げた

セフィロスが近づいても
まるで蝶はアクセサリーのようにルーファウスの指にとまっている

セフィロスがルーファウスの手を掴んだところで
蝶が飛び去った

「ひと雨くるぞ」



それからすぐに セフィロスの言葉通りに雨粒が落ちてきた

「帰らないのか?」

ルーファウスに問われ セフィロスが首を振る

「お前は帰らないのか」
「私は、帰る」
「俺をつれていけ」
「家がないならどうぞ」

笑うセフィロスを ルーファウスが見上げる

「お前は何故鳥や虫と戯れているんだ?」

ルーファウスは手を雨で洗うように動かして
伸びている草をちぎった

「たまに動物もくるぞ」
「自然が好きなのか?」
「ひとが面倒なだけ」
「お前は人か?」

ちぎった草を唇に当てながら ルーファウスが振りかえる

「キミは?人なのか?」



突然酷くなった雨 空を見げてからセフィロスは辺りを見まわす


「雨宿りをする場所は無いのか?」
「無いよ。帰れば?」
「お前は」
「キミが帰ってから帰る」


セフィロスが森の出入り口で待っていると 雨が上がった

この森はビル側に一箇所 出入り口がある
この出入り口以外は 幅の広い川を越えない限り入ることはできない川に囲まれた森だ
ビル側の出入り口以外は 船でも無ければ渡れない筈

ルーファウスが出てくる気配は全く無い




数日後 やはり会ったのは森の奥で


「ここが気に入ったのか?頻繁に来るんだな」

先に声を出したのはルーファウス

セフィロスはルーファウスに近付き 岩に座った

「さあ、どうなのかわからん。この森に居るもののけが気になる」

返事は無い

「お前はどこから出入りしてるんだ?」

続けてセフィロスが声を出すと ルーファウスはさらに森の奥を指さした

「あっち」
「…ビルとは反対方向だろう」
「住んでるから」
「森に?」
「森の外」
「川をどうやって越える?」

セフィロスの疑問に答えず ルーファウスは立ち上がる

「この森は、人工的に作られた川に守られた自然だ」
「何のために森がある?」
「…この森は立ち入り禁止だぞ?」
「お前入ってるだろう」
「ここは私の土地だ」
「知らなかった。本当にか?」
「本当だ。だから誰も入らない」
「だから出入り口の門は鍵がかけられているのか」
「普通気付く。どうして無理矢理入ってきた?」
「…蝶を、追いかけて…」



初めてルーファウスが笑った

困ったような顔をして 笑った






「人が笑う顔を 見たいと思った事は?」

セフィロスが 執務室から出てきたルーファウスに突然声をかける
ルーファウスは特に驚く様子も無く 歩いている

「無い」
「お前ともう少し話がしたい」
「何か困ったことでも?」
「あの森のもののけについて知りたい」


ぴたりと足を止め ルーファウスはセフィロスを見上げる

「あの森には、誰にも近付かれたくないと言っている」
「理由は」
「特別な場所だから」
「どういう?」
「キミに言う必要があるのか?」

強い声で言われた










再びそこを訪れたのは その一週間後の明け方
会社が休みの日

セフィロスは朝もやの中 気配を消して ゆっくり歩いた


いつもの場所よりも さらに奥で ルーファウスが歌を歌っている
澄んだ歌声は いつものルーファウスからは想像ができない







「お前に会うには ここに来るしか無かった」

目が合ったルーファウスにそう告げると
ルーファウスはゆっくりとセフィロスに近付いた

「話があるのか?私に」
「ここのもののけと仲良くなるには どうしたらいいんだ?」
「それは私にもわからない。何故仲良くなる必要がある?
キミにはもう地位も名誉もあるのに」
「そう言う意味じゃなく、普通に友人や仲間や恋人のように」
「私はそういうものを持ったことが無いからわからない」

首をひねるルーファウスに セフィロスが手を出して微笑んだ

「友人に、なろう」
「何故」
「俺が、そうなりたいからだ。理由なんて無い」

戸惑うように ルーファウスはその手を取った







「ルーファウス、お前携帯持ってるよな?」

驚いた顔のルーファウスを不思議そうに見るセフィロス
ルーファウスは首を縦に振って携帯を出した

「私の名前を知っていたのかと、驚いた」
「…お前は俺の名前、知ってるんだろうな?」
「当たり前だ」
「…呼べ、俺の名前」

赤外線で互いの電話番号を携帯に入れた

「友人って、そういう儀式でもあるのか?」
「いいや、お前に名前を呼ばれたかっただけだ」

セフィロスが時計を見て 歩き出す
そして振りかえる

「ルーファウス、夕飯一緒に食べないか?」

ルーファウスは不思議そうな顔でセフィロスを見ている

「聞いてるのか?終わるの何時だ?」
「…6時には…終わらせる…」
「わかった、6時に迎えに行く」

そう言って セフィロスが笑って手を振った








「終わったか?」

6時2分 副社長室から出たルーファウスにセフィロスが声をかけた

「ああ。キミは今終わったのか?」
「ああ、ついさっきだ」
「ご苦労」


セフィロスがルーファウスを連れて来たのは 隠れ家のような店だった
通された個室は他の個室と離れている


「初めて来た」

個室には小さい庭がついていて 小さな小川が流れている

「お前は自然は好きか?俺は好きだ」
「…ああ。悪くないと思う」
「お前を初めて見た時、本当に人間じゃないのかと思った」
「幽霊にでも見えたか」
「いいや、もののけとかあやかしとか…そういうのに見えた。
自然の中で蝶を指に乗せているのはなかなか奇妙だった」
「不気味だったか」
「綺麗だと思った」

ルーファウスがセフィロスを見上げ じっと見つめる
セフィロスは注がれ続ける視線に耐え切れずに目を離した

「キミは変な奴なんだな」
「自分でもそう思う」
「セフィロス」

自分の顔を無理矢理覗きこんだルーファウスと目を合わせる
ルーファウスは相変わらずセフィロスを凝視している

「…なんだ…ルーファウス」
「キミは何故私に構う?私の噂を聞いていないのか?」

副社長の噂は とても関わりたいと思えないようなものばかりだった

「知っているが…俺は森でお前を見て多分…」

一目惚れしたんだと思う。

「多分なんだ?」
「虫や鳥と戯れている姿を、見たからかな。自分の印象では悪いように思えなかったからな」
「わからん」
「お前は、何故俺が傍に居ても怖がらない?俺こそ興味は持たれても怖がらない奴は少ない」
「いいや、キミはとても人間味のある男だ」

ルーファウスが眉を寄せて 笑った

セフィロスはルーファウスの頭を派手に撫でた

「なあルーファウス。家に来ないか?」




食事を終え ルーファウスはセフィロスの家に足を踏み入れる

英雄セフィロスの家はとてもあっさりしていて シンプルだった


「好きだろうこういうの」

すぐにルーファウスが目を止めた大きな水槽には
綺麗な熱帯魚が泳いでいる

「すごいな。キミは熱帯魚が好きなのか?」
「そうだな。綺麗だしな」

そう言いながら部屋の電気を消すと 水槽が幻想的な青で照らされる

綺麗だろう?と呟くセフィロスの隣でルーファウスはうなずいた


水槽を眺めるルーファウスを セフィロスは黙って眺める





3日がかりの任務を終え セフィロスが森の奥に足を運ぶ
ルーファウスはいつものようにそこに居た
また カラスアゲハがルーファウスの指にとまっていた

少しの間 黙ってそれを眺める


「任務、ご苦労」

セフィロスを見つけてルーファウスが言うと
セフィロスは微笑みながら近付いてきた

カラスアゲハが飛び去った

「ただいま」
「あの任務なら、一週間はかかると思っていた」
「他の奴ならかかっていたかもな」
「キミだから、早かった?」
「ああ。俺だから、早かった」

セフィロスがルーファウスの手を引っ張り
手に何かを握らせた

綺麗な石だった

「土産だ。その土地にしかない物らしい。綺麗だったから…」

ルーファウスは石を眺めてからセフィロスを見上げる

「…私に?」
「お前にだからお前に渡したんだろうが」
「…ありがとう」
「やはり嬉しくないか…?」
「いいや、大事にするよ。とても綺麗だ」
「お前は表情が少ない。もっと笑え」

セフィロスの言葉にルーファウスは「ふん」と鼻をならす

「キミに言われたくないな。キミこそ表情をあまり変えないだろう」

確かにそうかもしれない。
セフィロスは腕組みをして考える
自分も表情が少ないと よく言われるのだ

「俺のこれは性格だ」
「私もだよ」

セフィロスがふっ、と笑うと
ルーファウスも苦笑をして見せた



たまに食事に行く
たまに家に行き来をする
わりと頻繁に森の奥で会う

そんな日々が続いた




「数日 森に行けない」

ある日セフィロスの家で 熱帯魚に餌をやりながら
ルーファウスが呟く

「寒くなってきたからか?」
「いや、違う」
「会う時間は減るか?」
「…明後日から少しの間、会社を離れるんだ」
「何処に行く?」
「ジュノン。表向きは」
「表向き?」
「ああ、出張扱い。本当は出歩かずにパソコンで仕事」
「何故」
「ちょっとな」
「いつまでだ?」
「さあな。おやじの機嫌が直るまで」
「プレジデントの?一体何があったんだ?」
「言うほどの事じゃない」

餌をやり終えたルーファウスがワインをグラスに注ぎ
立ったまま飲む

セフィロスがゆっくりと寄って行き
ルーファウスの手首を掴んだ

「何があったんだ?言いたくないことか?」
「あいつが私に押し付けた取引先が気に入らなくて
商談を成立させずに帰ってきたのが気に入らなかったらしい」
「…気に入らないってお前…普通個人的な感情でそんな事できないだろう…」

ルーファウスはセフィロスの手を振り払う

「普通じゃなくて悪かったな」
「何か理由があるのか?」
「当たり前だ」
「なんだ?」

ルーファウスはため息をついてから セフィロスを睨み上げた

「言いたくない」
「…怒ったのか?」
「別に」
「絶対言いたくないのか?」
「ああ」
「…護衛は?勿論居るんだろう?」
「さあ」
「…大丈夫なのか?」
「知るか」
「苛ついてるな」

ワインを飲み干して ルーファウスはセフィロスのグラスを取り上げる
それを一気に喉に流し込む様子に セフィロスは目を丸くした

「取引先の人間に、抱けと言われたんだ」
「…は?」
「自分を抱いてくれたら商談を成立させると」
「…それは…」
「親父は相手の狙いが私だと知って、私を行かせた。
馬鹿にされたもんだ」
「…好みじゃなかったのか?」
「そういう問題じゃないだろう!」
「まさか相手は男か?」
「女だ!」

ワインをグラスに注ぐルーファウスを眺めながら
セフィロスはゆっくりと口を開いた

「自宅でたてこもるのか?」
「まあな。どこだっていいんだ。出歩かなければ」
「自宅に誰か来ることはあるか?」
「まず無いな」
「一人で暇じゃないか?不便じゃないか?」
「暇ではないが、出歩けないのは不便だ」
「…ここに居れば?それか、俺がお前の家に…」

ルーファウスの不思議そうな顔を見て セフィロスは口を閉じた
ルーファウスはじっとセフィロスを凝視してから口を開く

「ここの方が安全かもな」

その言葉に 嬉しそうに笑うセフィロスを見て
ルーファウスは苦笑した

「キミは変な男だな」





翌日 必要な物を持って来たルーファウスが深刻な顔をしてセフィロスを見る

「大事なものを忘れてしまった」
「何を忘れたんだ?」
「ベッド。そういえば寝る場所が無い」

セフィロスはルーファウスに背中を向けて 寝室の扉を開いた

「…俺のベッドは広い、問題は無い」
「一緒に寝るのか?」
「…あ…そうか…嫌か…嫌だよな…」
「キミは寝相は悪いか?」
「いいや」
「なら、いいか」



夕食後 シャワーを浴びたルーファウスが
自分をじっと見ているセフィロスに向かって首をかしげた

「何だ?」
「…お前のスーツ以外の服装、初めて見た」

ラフな格好のルーファウスを眺めながらセフィロスが言うと
ルーファウスは右足を椅子に上げてズボンの裾をまくり上げた

「落としたハンガーを蹴飛ばしてしまった」

ルーファウスの足の甲に ミミズ腫れのような傷がついていた

「…阿呆」

そう言って笑いながらルーファウスの足を見るセフィロスの頭を
ルーファウスが容赦無く叩いた

「随分綺麗な足だな…」
「けなしてるのか?」
「誉めてるんだ」

欲情したら駄目だ。
そう頭で繰り返しながら セフィロスがルーファウスの足に触れ
回復魔法を唱えようとすると ルーファウスは笑い出して足を引っ込めた

「駄目だ、くすぐったい」
「我慢しろ」
「ははは!さわるなセフィロス!」
「我慢しろ馬鹿」
「は、くすぐったい!」
「キレるなって」

セフィロスはルーファウスの足首を掴んだまま
回復魔法を唱える
ルーファウスの傷が消えてもセフィロスは手を離さなかった

「悪いな、って、離せって」
「…くすぐられるのに弱いのか?」
「ああ、だから試すなよ」

ルーファウスがセフィロスの手を握って ゆっくりと自分の足を離させる
セフィロスはその手を掴んでワイングラスを持たせた

「俺もシャワーを浴びてくる。好きなものを飲んでろ」




シャワーを浴びながらセフィロスはため息をついた

「駄目だ。これ以上近付いたらヤバい」





ワインを飲みながらTVを眺めるルーファウスの頭をひと撫でして
セフィロスが隣に座る
ルーファウスは眉間に皺を寄せてセフィロスを見た

「何のTVだ?」
「神羅のCM。車の」
「CMかよ」



他愛の無い話をして ベッドに入った






特別秘密を打ち明けるわけでも 秘めている気持ちをちらつかせるでもなく
普通の会話が続く日常は楽しいものだった

2週間近く経ったある日
セフィロスが家に帰るとルーファウスはすぐにセフィロスに寄ってきた

「明後日から出社する」

セフィロスは目を大きくしてルーファウスを見た

「…出社するのか」
「ああ。やっとだ」
「嬉しいか?」
「まあね。家から出られない生活は窮屈だったからな」
「そうだよな…じゃあ、乾杯でもするか」

ルーファウスが出社するということは
自宅に戻るということだろう

セフィロスは浮かない顔のままワイングラスを取りだした

「何かあったのか?」

ルーファウスの質問に セフィロスは少し慌てて首を横に振った






いつもよりも、酔ってしまった

そう気付いたセフィロスが黙ってビンの中のワインを眺める

「なあルーファウス、明日帰るのか?」
「ああ、長く居座って悪かったな」
「いや…俺は…ああ、明日送るからな」
「そうだな、頼む」






「…キミは何故、私を家に呼んだんだ?」

ベッドに入り、暗くなった部屋で ルーファウスの声が響く
セフィロスはルーファウスのほうを向いた

「お前の事を気に入ったのと、一人暮らしが少し味気なかったからだ。
お前なら一緒に居ても、暇しないしな」
「暇をしないとは?」
「仕事の話もできるし、他の話もできる。それに俺を珍しがったり
媚びたりしない」
「ああ、そういえば英雄セフィロスは人気者だもんな」
「お前は何故、俺の家に来ようという気になったんだ?」
「さあ…安全だし、何かあったら買い物も頼めて便利だし」
「便利…俺は安全なのか?」
「キミは強い」
「それは強くて便利なら俺じゃなくてもよかったという意味か?」
「まさか。信用できる奴は少ない。キミは私には裏表がなさそうだし」

ルーファウスが顔をセフィロスのほうに向けると
セフィロスがルーファウスの髪を撫でた

「俺を信用してるのか?」
「危害は加えないだろう?」
「わからんぞ」
「口も軽くはないだろう」
「俺がお前に何かするとか考えないのか?」
「何かするつもりだったのか?」
「…だったらどうする?」
「さあ、どうしようか」

ルーファウスはセフィロスから目を離さない
セフィロスはルーファウスの両手首を押さえて上体を起こした

セフィロスの上半身が ルーファウスに覆い被さる


「これでも、俺が何をするつもりかわからないか?ルーファウス」

セフィロスはゆっくりとルーファウスに顔を近付ける

「セ…」

ルーファウスの口が塞がれる
ルーファウスの身体に力が入る

「嫌なら、やめる」
「なんの真似だ」
「…駄目だった。我慢できなかった。我慢しようと思ってたのに」

唇を噛んで 額をルーファウスの肩につけて
セフィロスは「すまん」と呟いた

「…意味がわからん」
「俺が、お前に好意を持っているということだ。
でも、こういうことをしたくてお前を呼んだわけじゃないんだ・・・
嘘っぽいよな、今言っても」

そう言いながらルーファウスから離れ
背中を向けてセフィロスは寝転がった

「わからない、好意って、友人としてではないのか?」
「友人にキスは、しないだろ」
「私は…そういう好意は持っていない」
「わかってる…」
「…別に、嫌ではなかったけどね」

セフィロスがルーファウスを見ると ルーファウスは既に目を閉じている

「そういう事は、言わないほうが良いぞルーファウス…」

ルーファウスの髪を撫でながら セフィロスはもう一度ルーファウスにキスをした

長いキスをしながら セフィロスが手をルーファウスの腰に滑らせると
ルーファウスはすぐに笑い出した

「くすぐったいって」
「感じるとか言えないのか?」
「くすぐったいんだって」
「どこ?」
「っ…」

セフィロスが服の中に手を入れると
ルーファウスは小さく声を上げた

「…駄目だ、そんな声出されたら、そんな顔されたら我慢できないぞ」
「もう既にしてないだろう、我慢なんか」
「…すまん」
「謝ってばかりだな」

苦笑するルーファウスに セフィロスは微笑んだ








冷え込む朝 ルーファウスが目を開くと
セフィロスが後ろから自分をがっちりと抱きしめたまま眠っていた


ああ、腰がだるい。

ルーファウスは苦笑してセフィロスの腕を叩いた

「離せ馬鹿力」
「…おはよう」

ルーファウスが振り向くと セフィロスはなんとも言えない恥ずかしそうな顔で
ルーファウスを抱きしめた

「痛くないか、腰」
「まだ中にキミの感触が残っているよ」
「何て事を言うんだお前は!」
「ははは!痛くは無い。だるいけどな」
「お前、初めてじゃなかったんだな」
「キミこそ」
「…ルーファウス」

セフィロスがルーファウスに覆い被さった瞬間 セフィロスの携帯が鳴った

ルーファウスとセフィロスは目を合わせて笑い その体勢のままセフィロスは携帯を取り
電源を落とした

「いいのか?」
「今日は非番だ」






「いまさらなんだが、恋人なんていたりするか?」

起きてから、セフィロスにコーヒーを渡した瞬間言われた言葉に
ルーファウスは目を丸くした

「キミに恋人がいるのか?」
「いない、違う、お前に聞いてるんだ」
「ああ、いない」
「好きな人は?」
「いない」
「そうか、よかった。俺には聞かないのか?」
「聞かない」
「聞け」
「そういえばハイデッカーが春にでもソルジャーの演習等を
一般人に見てもらう為に祭りをやりたいとはしゃいでいたぞ」
「何だそれ」
「ソルジャーを一般人に見せるんだと。君は…強制参加」
「見世物にはなりたくない」
「目立つ所に立たされて何かさせられるぞ」
「だろうな…有休とろうかな」
「無理だろう」
「だな」


家に戻る前に寄りたい所がある

ルーファウスが行きたがったのは あの森だった




「ここは落ち着く」

ルーファウスはゆっくりと椅子に座る


「好きなんだな、ここが」

セフィロスも近くの椅子に座った


「昔から来ていたんだ。ここで遊んだ」
「昔からあるのか?」
「昔はもっと広かった」


セフィロスが森の中を見まわして ふと視線を戻すと

ルーファウスの手にあのカラスアゲハ


「この気温でも、アゲハ蝶っているんだな」
「…うん」
「お前の事が好きなんだな…ルーファウス?」

アゲハ蝶が ルーファウスの手の中にとまった状態で
息絶えていた

「この森にはな、昔から何故か、一羽だけカラスアゲハがいて…
毎年必ず一羽だけ出てきて こうして私が居る時はずっと姿を見せていて
雪が降る頃にぱったりと姿を消すんだが、死んだ姿を見たのは初めてだ」
「…お前を、待っていたんだな」
「そうかもしれない」
「来年も出てくるだろうか」
「わからない」


ルーファウスはしゃがみこんでアゲハ蝶を小川に流した
冷たい水に ルーファウスの手が白くなる


「その蝶が、お前にとって大切な存在だったのか」
「どうかな。わからないけど、これが寂しいという気持ちなのかも知れない」
「寂しさを知らないのか?」
「そうではなく、この気持ちをどう表現したら良いかわからないだけ」

早い小川の流れにカラスアゲハが飲まれるのを ルーファウスはじっと見ていた



「ルーファウス、平気か?」
「寒いだけ」

自身の手を握りながら立ちあがるルーファウスに近付き
セフィロスは上着を脱いだ

「黒いコートが黒い羽根みたいだ」

呟くルーファウスに セフィロスは穏やかに笑いかける

「ほら、白い顔して風邪ひきそうだ」

そう言いながらセフィロスはルーファウスに上着を羽織らせた
ルーファウスは笑って身を縮める

「不思議だった。あのカラスアゲハは、誰かが来る前には必ず隠れていた。
キミには姿を見せていた」
「俺も近付いたら逃げられたぞ」
「姿は見ただろう?キミを除くと、私以外姿を見た人はいなくて…」
「…俺を森から追いださなかった理由はそれか?」
「キミは…あいつに認められたんだと思った」
「そいつに変わって俺が、お前のそばにいてやる」

ルーファウスはセフィロスを見上げると 肩を上げて笑った

「帰ろうか」
「ああ。…俺の家?」
「構わないよ」

セフィロスがルーファウスの手を取ると
ルーファウスは軽く握り返して 同じ歩調で歩き出した













2010/12