空が高い

澄んだ空気と高い空を見上げる

少し肌寒い独特の空気は心地がいい



こういう、明け方独特の澄んだ空気が好きだと、ルーファウスが言っていたのを思い出す




何故か涙が出そうになった










夜明けの海












「なあルーファウス、俺がもし、任務から戻らなかったらお前はどうする?」
「どういう意味だ?」


お気に入りの曲を聞きながら セフィロスは手の中でペンを回す


「俺の身にもしものことがあったらという意味だ」
「不安なのか?」
「少しな」
「らしくないな」
「不安なのは、もし俺がいなくなったらお前がどうなるかということだ」

ルーファウスは鼻で笑いながら本を読んでいる
目は合わせていない

「キミがいなくなった所で私は変わらない。神羅は変わるだろうがな」
「俺がいなくなっても、お前は平気か?」
「馬鹿馬鹿しい」
「……そうか」

手を止めて自身の顎を触るセフィロスに ルーファウスは苦笑をもらす

「そういうのはな、その場になってみないとわからないじゃないか」

また本に目を落としながら ルーファウスが言うと
セフィロスは悩んだような表情で首を傾げる

「まあ…でも考えたりしないか?そういうこと」
「しない」
「考えてみろ。俺がいなかったら、お前は…」
「神羅は君というシンボルをなくしてどうするか」
「神羅じゃなく、お前個人だ」
「想像がつかない」
「…俺はお前が殺されたら狂うぞ」

目が合った
ルーファウスは呆れた顔で口角を上げた

「無いな。その前に君は私を助ける」
「…お前って…いや、それが叶わなかったら?」
「君がおやじを殺してくれ」
「お前の墓に一緒に埋めるか?」
「呪うぞ」
「フ…じゃあ、かたきを打ってプレジデントを殺したら、俺がお前の墓に一緒に入る」
「…私が死んだら、灰にして海に撒け。埋めて残したりしないで」

本に目を落としながら言うルーファウスを凝視して セフィロスが立ち上る

「海に?何故」
「墓なんか窮屈だ」
「…俺はその海で溺死したらいいのか?」
「ついてくるな邪魔くさい」
「追わずにいられるものか」

「…私なんかより君の方が、先にこの世のものでなくなる可能性はずっと高いじゃないか」

ぼそりと呟いたルーファウスの言葉はしっかり聞き取れず
セフィロスは目を細めてルーファウスの隣に座った

「なんだって?」
「そんな例え話を真剣に考えるな。私は死なない」
「…なあルーファウス、俺を置いてどこか行ったり、しないでくれ」
「馬鹿め」
「本気で言ってるんだ」
「そんなことばかり言ってると本当にそうなるぞ」
「困る」
「じゃあもうやめろ」
「ルーファウス」

抱きしめられた拍子に本を落とした
ルーファウスは困った顔をしながら小さく笑った

「なあセフィロス、いきなりどうした?」
「部下が自殺したんだ。婚約者が、突然事故で世の世を去ったからだ」
「後追いか。私には理解できない」
「俺にはできる」
「死んでどうなるわけでもない」
「絶望しながら生き続けるより死んだ方がいい。俺はお前が死んだら死ぬぞ」
「ではキミは、キミが死んだら私に後を追って死んで欲しいか?」
「……」

セフィロスがルーファウスを抱きしめる手の力を緩める
ルーファウスはソファに体重を預けてセフィロスを見上げた

「そこで死んで欲しいと即答できないなら、後を追って死ぬなんて言うな」
「俺は、お前には生きて欲しい・・・でも他の奴に渡したくない」
「なら死ななければいいじゃないか」
「わからんだろう。いつ何があるかなんてわからん」
「そんな不安は捨てろ」

セフィロスが眉間に皺を寄せながらルーファウスの膝の上に転がる

「それでも俺は、お前のいない世界で生きる自信は無い。生きていくには狂うしかない」

セフィロスの顔を覗きこんだルーファウスが 眉間に皺を寄せて笑った

「だから、キミが死なない限り私は死なない。キミが死ななければいい」
「俺が死んだら、お前はどうする?違う人を愛して幸せになれるか?」

ルーファウスの目の色が僅かに変化する様子を見て
セフィロスはルーファウスの頬を包むように掴んで微笑んだ


「俺は死なない。お前を1人にはしない」


途端に不機嫌そうな顔を見せながら ルーファウスが立ち上がる

「ルーファウス、俺はおまえを…」
「そういう話なら私は遠慮する。嫌だと言ってるじゃないか」
「どこ行くんだ」

家から出るルーファウスを追いかけ セフィロスも外に出る

「ルーファウス、どこに行く気だ」
「別に、家に居たくなかっただけ」
「俺だって…弱気になる時もあるんだ」

ルーファウスが立ち止まってセフィロスを見上げる
ルーファウスに追いついたセフィロスがルーファウスの腕を掴んだ

「…海が見たい」

ルーファウスが唐突に言うと セフィロスは笑いながらルーファウスを撫でた

「今からじゃ、海に付くまでに夜が明けるぞ?」
「どうせ休みだし」
「それもそうだな、まあいい、行くか」







「ルーファウス、お前は、夢を見たりしないか?」
「寝てみる夢ではない方の夢?」

スピードを上げながら車を走らせる
セフィロスの運転を信頼しているルーファウスは、助手席でくつろぐ

「ああ、そうだ。俺はやっぱり、お前とずっと居たい。
神羅をやめて二人でゆっくりと暮らすんだ。ここはやはり海のそばで。
観光地じゃない、静かできれいな土地が良い」
「現実味が無い話だ」
「夢だって言ってるだろう」
「その場合はどんな仕事をするんだ?」
「なんでもいい。自給自足だっていい」
「貧乏は嫌だ」
「並の生活なら、二人で一生遊んで暮らせる位の蓄えはあるぞ」
「夢を見たって腹の足しにならん」
「それでもお前だって夢くらいあるだろう。
プレジデントを殺すとか、そういう物騒な事以外の夢はないのか?」
「それは夢じゃない。現実に起こすことだ」
「…夢は?」
「無いな。目的や目標しか無い。
そうだな。考えるとしたら私の世界を一から作るとか、そういうこと」
「お前らしくて涙が出る…」

苦笑するセフィロスに鼻を鳴らすルーファウス

夜が明ける前に 海に着いた




「ルーファウス、俺は、本当はお前が俺のそばで笑ってくれていたらそれで良い」
「ずっと神羅にいるつもりか?」
「いや、お前のそばにいるつもりだ。お前は嫌がるが、俺は…お前が全てだ」
「そういうの迷惑だ」
「お前が俺を拒否するのは、俺を守るためなんだよな」

ルーファウスがセフィロスを見上げると
セフィロスはやさしく笑った

「なあルーファウス…お前は…神羅にいたら、俺は駄目になる、と言うよな。
俺が神羅に負けると思ってるんだろう?」
「…神羅は、私が…私やキミが思ってる以上に…黒い。
何が出てくるかわからないし、何が出ても不思議じゃない」
「…だろうな。隠された神羅の闇を知る度に、これ以上の事があるかと思う。
神羅は、どこまでも深い闇を隠してる。神羅にいて、神羅に負けそうなのは、俺じゃなくお前じゃないのか?」
「まさか。私はこの神羅を変えたいんだ。別に善になるつもりはないけど」
「お前がどういう道を行こうとも、俺と変わらない位の茨道だろうな」
「痛くも痒くも無い。私は一人でも、自分の道を進む」
「でもルーファウス、俺はお前を一人にはしない」
「やめろ」
「聞いてくれ。本心なんだ、俺は、何があってもお前を一人にはしない」
「そんな守れない約束はいらん」
「約束もお前も、守…」
「この世界には! 絶対なんて…無いんだセフィロス」
「…それでもルーファウス、俺は、絶対俺から離れたりしない。
お前が俺から離れて逃げきるまでは、離れない。俺はこの命に代えても、お前も守りぬく」


ルーファウスがセフィロスを睨み上げて手を上げた
セフィロスの胸を殴ったと同時に セフィロスがルーファウスを抱きしめる



「…さすがに少し、肌寒いな」

セフィロスの低めのやさしい声に ルーファウスが苦笑した

「でも、私はこういう、明け方独特の澄んだ空気って好きだぞ」
「そうだな。俺もだ。清々しい」
「ああ、陽が昇ってきたな」
「あー、綺麗だな」








夜が明けていた











守れない約束をするべきではないとしても

この世に絶対など存在しなくても

決意を約束に変えて、伝えたかった

守りきる自信があった
1人にしない自信があった

言葉で伝えたかった




そんな自分の言葉で傷つけるなど 思いもしなかった


守れない約束ならいらないと言い続けたルーファウスの気持ちを無視して告げた言葉は

守られないままこの胸に残っている










2010・4

うちのセフィロスはルーファウスが好き過ぎてキモイですごめんなさい…