新緑の季節






「はっ…」



息を乱して身体を持ち上げるルーファウスを

ツォンが心配そうに見つめた



「夢でも見ましたか?」



ルーファウスは呼吸を整え、小さく息を吐いた



「ああ…」

「汗を拭きます」

「背中だけ頼むよ」

「痛むでしょう。私がやります」



傷口が塞がっても生々しい跡がいくつもある

ツォンは目を細める


吐息だけで痛みを堪えるルーファウスの声に
ツォンははっとした



「ルーファウス様、痛みますか」

「いや」



熱が上がってくるんが手に取るようにわかり
さっと身体を拭いて、ルーファウスを寝かせる



「出てろ」

「はい」



病室の外で耳を澄ましても、ルーファウスのうめく声は聞こえない



「社長は?」

「中に。今は入るな」

「…相当苦しいんだろ?絶対おれたちに苦しい顔見せないよな」

「そういう方だ」

「少しは、甘えりゃいいのにな、と」



ツォンは少し微笑み、足元を見た






「窓をあけろ。空気を入れかえるぞ」



眠るルーファウスが起きないように、ツォンが小声で喋る

レノはそっと窓を開けた



「社長を頼む」

「はいよ」



レノがツォンに代わって病室に残った










風になびくルーファウスの前髪を撫でると

さらさらと流れる



「社長?」



呼吸をしていないことに気付き、レノはルーファウスの頬を叩く



「社長、社長!!」


「いっ…」



顔をしかめて咳込み、目を開く

レノは一気に吹き出した汗を吹きながら、溜息をついた



「よかったー…」



ルーファウスがレノを見上げ、眉を片方上げる



「なに」

「今息止まってたぞ、と」

「…そうなのか」

「気をつけてくれよ、と」

「どうやって?」

「あー、わからん。けどもうやめてくれ」

「努力しよう」



風に撫でられ、ルーファウスは気持ち良さそうに目を閉じる



「社長、調子はどうだ?」

「悪くは無い。新しい情報は何かあるか?」

「いや、無いよ」

「そうか。レノ、外に行きたい。車椅子を」

「大丈夫かよ」

「さあな」



車椅子を持ってきたレノを見上げ、ルーファウスが笑う



「肩を貸せ」

「いやだ、やっぱ寝てろよ」



ルーファウスはレノを無表情で見上げてから、車椅子を見た



「移らないから貸せ」

「そういう心配じゃねぇよ!」



突然大声を上げたれノに驚き、ルーファウスが目を大きくした


レノは自分の口を手で押えてから
頭を掻きながらルーファウスを抱き上げて車椅子に乗せた



「熱あんだろ、上がったらどうすんだよ」

「上がるときは黙っててもあがるさ」



ルーファウスは何も無かったように微笑んだ






ゆっくり車椅子を押しながら、優しい風を浴びる


「社長、飯食ってる?」

「なんだいきなり」

「いや、いろんな所さらわれてすっげ痩せたから。さっき持った時軽くてビビった」

「食べてるぞ、少し太ったはず」

「あんまり痩せすぎてるとい持ち悪いぞ、と」

「お前に言われたくないな」

「いやー、俺は筋肉あるし」

「まあ一応な」

「ちゃんとあるって!」

「ムキにならんでも」

「あーーもう」





「社長、レノ」



目の前に現れたルードが駆け寄ってくる



「社長、起きて大丈夫ですか」

「ああ、気分が良いんだ」

「顔色は悪いですよ」

「マジで?」



レノがルーファウスの顔を覗きこむ



「本当だ、戻ろうぜ」

「もう少し風にあたりたいんだが」

「駄目です」



ルードが間髪入れず言うと、ルーファウスを車椅子から抱き上げた



「社長、食べてますか?」

「降ろせ」

「ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ」

「命令だ、降ろせ」

「好き嫌いしても駄目ですよ」

「頼む、降ろしてくれ」

「掴まっててください」



ルーファウスが諦めてレノを見ると、レノは笑いながら車椅子を押していた



「知ってっか社長、それお姫様だっこっていうんだぞ、と」

「勘弁してくれ」









「熱が上がってきたな」



ベッドに横になるルーファウスの額に触れて、ルードが言う



「言わんこっちゃねえぞ、と」

「少し寝るから、出てて良いぞ」



熱い息を吐きながら、ルーファウスが薄く笑う








「本当に治んねぇのか?バッタバタ死んでるぞ、あの黒い粘液の患者。
社長、体力落ちてきてるよな。熱も頻繁に出てる」

「死なないさ、社長は」



レノとルードがルーファウスの病室の前に座り、缶コーヒーを飲む



「死なせない」



突然ツォンの声が聞こえる

2人が振りかえると、ツォンはまっすぐルーファウスの部屋のドアを見ていた









「ルーファウス様、お加減は?」



目を開けたルーファウスにツォンが声をかける

ルーファウスは呆っとしながら天井を眺めている



「ああ、平気だ」

「貴方は痛いとか苦しいとか、言わないですよね」



ゆるやかに振り向き、独特の無表情でルーファウスはツォンを見る



「よくない時は言っている」

「痛みを訴えたりしないし見せてはくれないでしょう」



ルーファウスは少し考えて、また天井を見上げた



「耐えてみせる」



未だ夢の中にいるようなルーファウスの視線と口調

ツォンはそっと顔を覗きこむ

ルーファウスは目を閉じて眠っていた



「疲れているんだな…」



ルーファウスの身体を優しく拭きながら

ツォンは黒く

まがまがしい

跡に顔をしかめる

そっとそこに触れると、ルーファウスが小さくうなった



「っは…」



顔を歪ませ、手に力を入れる



「ツォン、出てろ」



ルーファウスの声に、ツォンは立ちあがる



「いいえ、出ません」

「出ろと、言っている」

「ルーファウス様」

「無様な姿だ。見られたく…ないのだが」



苦しそうに、それでも笑ってルーファウスがツォンを見上げる



「痛みを見せてください」

「出ろ、命令だ」

「1人で耐えないでください」



手足に力を入れ、ぐっと歯をくいしばり、ルーファウスは息を吐く



「っ…」



顔を歪め、じっと痛みをやり過ごそうとしている様子がわかる

ツォンは喋らなくなったルーファウスを心配そうに眺める



一時間近く、痛みを無言でやり過ごしたルーファウスはすっと寝入った

思っていたよりも長時間痛みに耐えていたことにツォンは驚いた



「疲れるはずだ」



痛みに耐えている時は、ルーファウスはすぐに部屋から「出ろ」と言う

一日に痛みに耐えては寝入り、痛みで起きることを繰り返すだけの日もあるらしい



「また熱が上がっているか…」



薬を他の患者にやってしまい、長時間苦しんだことを思いだし
ツォンが微笑んだ



「まったく」



ルーファウスの髪を撫で、無反応の額に口付ける



うなされて起きることもしばしばある








「夢見が悪くて困るよ」



タークスが集まっている中で、そう言った後寝入ったルーファウス



「でも社長ってさ、おれらがいる中で寝入った時は気持ち良さそうに寝てるよな」



レノの言葉にルードがうなずいた



「社長、安心するんじゃないんですか?みんなの声聞こえたりしてると」

イリーナの言葉に、ツォンがルーファウスを眺めながら
笑って「そうかもな」と呟く












「社長はどこだ?」



社長の看病の交替のために来たレノが病室を見まわす



「ツォンさん、社長がいないぞ、と」

「なんだと?」



目を離したのは数分



「逃げたか?」



ルードの言葉にツォンが車椅子を探す

見当たらず、ツォンは額を押えた



「ツォンさん、私中探します」

「私は、外を見てくる」







数分後、少し離れた芝生の上から声が聞こえることにイリーナが気付き
4人でそっと近寄る



「あ、車椅子」



車椅子にはルーファウスの姿は無い

芝生に寝転び、歌を歌っているルーファウスに4人は見入った









「珍しいものを見たぞ、と」

「社長歌うまいですね〜〜」

「綺麗な歌だ…」



3人の感想にツォンが苦笑して、そっと歩き出した



「久しぶりに聞きましたよ」



ルーファウスは寝転びながらツォンを見上げた



「いたのか?早く声をかけろ」

「聞いていたかったので、歌が終わるまで待ちました」



ルーファウスが上半身を起き上がらせ、他の3人を見つけると笑いだした



「なんだ、お前達までいたのか」

「社長の歌、初めて聞きました!もっと聞きたいです」

「またいつかな。所で誰か肩を貸してくれないか?」



ツォンがルーファウスを抱き上げ車椅子に乗せると
ルーファウスは口角を上げて背もたれに深く背中を預けた



「なあ社長、頼むから1人で出歩くなって」

「心配しました」


レノとルードを見上げ、ルーファウスは「気を付けるよ」と言って前を見た



「天気が良いな。もう少し外にいないか?」

「調子いいんですね」

「ああ、気分も良いよ」

「では少しだけ、散歩でもしましょうか」




ゆっくりと、五人そろっての束の間の休息を過ごす事は滅多に無く

心なしか全員の心は弾んでいた










タークスとルーファウスっていいですよねー
題名は特に意味はありません。新緑の季節のイメージで書いただけです

2009・5