青空・2




セブンスヘブン

店内の一番奥に、クラウドとルーファウスが並んで座っている



「クラウド、大丈夫か?」

既にかなり酔っているクラウドに水を渡すと
クラウドはそれを一口飲んでからまたビールに手を伸ばした


「今日、親友の命日だった」


成る程、それで様子がおかしかったんだ

ルーファウスの記憶の中にもいる、ソルジャーの、ザックス

あの、陽気で勇敢な 優しい男


そうだ、確かに…今日だ



「ザックスか」


「おれ、ザックスが死ぬ時、傍にいたんだ」



クラウドの手が止まる

あんなことにならなければ、今もザックスは隣で笑っていたはず

もしもなんて馬鹿馬鹿しい…

でも、考えてしまう


「なあ、アンタは、好きで好きで仕方がない人を、亡くしたことあるか?」


次の瞬間、クラウドは笑みをもらしてビールを飲んだ


「ああ、セフィロスか」

「クラウド」

「あいつは、死んでないじゃないか…エアリスを、殺したのに…」



クラウドの言葉に、ルーファウスは手を止める



「悪い、おれ、おかしい…」

「…大丈夫か?クラウド」

「大丈夫なもんか!大事な人を殺されてるんだ!神羅に!
親友、仲間、家族!ザックス、エアリス、母さん!」

「クラウド…」

「くそ…なんでお前、神羅なんだよ!」



ティファが目の前まで来て、心配そうにクラウドを見た


「神羅が代わりに死ねばよかったんだ!」


言われ慣れてる言葉

しかし、クラウドに今、目の前で言われると、衝撃は大きかった

自分に言われた言葉じゃなくても、神羅は自分だ


「クラウド」


ティファの優しい声にクラウドは、はっ、と声の方を見る


「ルーファウス、大丈夫?」


ティファの言葉に、ルーファウスはティファとクラウドを交互に見て
ティファに向かって頷いた


「ティファ、クラウドを、部屋に置いてくるよ」

「そうだね、大丈夫?任せて平気?」

「ああ」



ぼんやりした頭でクラウドが二人の会話を聞いている

言葉に出すと

会いたい気持ちがこみあげてくる

俺の、今でも愛する人達




呼吸ができない




苦しそうに倒れこむクラウドに駆け寄ると

ルーファウスは手をはねのけられクラウドはティファの手を取った

ティファはクラウドの背中を撫でながら、何とも申し訳なさそうにルーファウスを見上げた



ルーファウスは眉を片方上げて笑顔を見せた





これ以上、こんなことばかり言いたくない

別にルーファウスが原因じゃないことくらい、わかってる



それでも…あの神羅の血を引いて、社長の座を継いで
罪ばかり、増やして


やばい、傷付けたくないのに、俺



クラウドはそのまま目を閉じた




「部屋に、連れていくよ」

「…うん、お願い」







何を言っても言い訳だ

私が私であるかぎり、それはかわらない

ルーファウスはクラウドを持ち上げ、クラウドの部屋に向かった




「重いよお前」


クラウドをベッドに転がし、布団をかけてルーファウスはため息を吐く















「ルーファウス、ごめんね」

ティファがルーファウスにお茶を出すと、ルーファウスはそれを受け取った


「いや、君が気にする事ではない。
でも…クラウドは、あの気持ちを背負いながら私と居たんだな」

「クラウドは本当は、自分自身を一番責めてるの。
ルーファウスを責めてるんじゃ、ないから…」


クラウドの事を一番理解しているティファ

今ルーファウスに当たるように、泣きそうに叫ぶクラウドに
ティファは涙が出そうな気持ちに苛まれている

クラウドが、殺された人をどれだけ大切に思っているかも
今ルーファウスを、どれだけ大切に思っているかも知っているから



ルーファウスはティファに笑いかけて頷いた


「相当、痛いんだろうな」

「そうだね…私も知らないこと、クラウドはたくさん抱えてるから」

「ティファ、明日クラウドの記憶が飛んでいたら何もなかった事に」

「…うん、わかった」









ザックス


ザックス


ザックス!



飲まなければよかった


ルーファウスを誘わなければよかった


今になってどうしてこんなにも


悔しくなる

悲しくなる


麻痺した目尻から涙がこぼれる


拭うこともせず、クラウドは独り泣き続け、睡魔に身を委ねた














ほとんど飲んでいないルーファウスは
自宅に戻りワインを開けた


クラウドの壮絶なこれまでの道は知っている


何度それに押し潰されただろう


さっきは、出来れば一緒に居たかった

でも、神羅である自分を見てしまうと
また、思い出したくない事や言いたくない言葉が頭を回るだろう


頭にたたき込んでいる膨大な神羅のデータを思い出しながら
ワインを飲む



「恨みの矛先は、私以外向ける所がなかったんだよな」













「おはようクラウド」


クラウドが起きると、ティファは水を差し出した


「…大丈夫?」


クラウドが頭を押さえながら、カウンターに座った


「俺、昨日酷かっただろう…」

「そうだね、かなり飲んで潰れてたよ」


ティファが笑いながらサラダを出した


「ルーファウスは?いつ帰った?」

「クラウドが潰れてすぐだよ」

「俺、あいつと喧嘩してたか?」

「してないよ?どうして?」

「いや、俺怒鳴った気がして」

「夢見たんだね」


サラダに手を付けて、クラウドが携帯を眺める


違う、夢は、ザックスが笑ってた

ホント困ったヤツ

そう言って、笑ってた




今だに消せないザックスの電話番号を眺め、ため息を吐いた




「出かけてくる」

「ルーファウス?」

「いや、違う」


ザックスのところ













「なあクラウド、ここだけの話だぜ、セフィロスの恋人、お前と同じ歳だぜ」
「え?嘘!」
「なんかさ、犯罪っぽく感じね?」
「…感じる…」


昔、ザックスは俺によく「内緒の話」をしてくれた

他の人には絶対言わないから、俺はそれが嬉しくて堪らなかったな

そういえば、ザックスはルーファウスとセフィロスが恋人同士だと知っていたけど
ザックスとルーファウスも接点があったんだろうか













「なあルーファウス、セフィロスさ、寂しがり屋だろ」
「…そう、なのかもな」
「あいつのこと、頼むな」
「セフィロスとは、君のほうが長く深いじゃないか」
「じゃあ、俺じゃダメな部分、ヨロシク」
「ザックス」
「なんだ?」
「君も、彼を思うなら、彼より先には死ぬなよ。あいつはなかなか繊細だ」
「ははは、んだな。でかい図体でな」



最初だけ人を上司として扱って
それからはもう慣れたように話をして来た

ああいう奴は珍しかった



果物だけという朝食を摂りながら、ルーファウスは呆っと考える


クラウドは、ザックスが大好きなんだな


ザックスも、クラウドが可愛くて仕方なかったんだろう



セフィロスの、親友でもあった、ザックス








突然ばたん、と扉が開く

ルーファウスは一瞬、どきりとした


「クラウド」

「おう、昨日俺、荒れてなかったか?」

「いいや、ペースは早かったが、普通に酔ってさっさと潰れたよ」


苦笑混じりのルーファウスに、クラウドが頭を掻いた


「昨日さ、親友の命日だったんだ」

ソファに座るクラウドに、ルーファウスは手を止めて向き合った

「だから、ペースが早かったんだな」

「ああ…俺、なんか怒鳴った気がして、アンタを…」

「怒鳴った?いや、怒鳴られてはいないよ」

「…親友は、神羅に殺されたソルジャーだ」

「成る程、神羅に対して思うところがあるわけだ。
それ、今まで私にたいして押さえ付けてきた感情だろう?」

「かもしれない。アンタってより、神羅に」

「私がその神羅だ」

「…でも、アンタに言っても…」

「ため込まず、言ってみると良い」

「…俺は、自分たちの為に簡単に人を殺す神羅が憎かった。
でも、それに対して何もできなかった無力な自分も、憎かった…」


ルーファウスはただ頷き、聞いている

クラウドは自分の指先を弄りながら話を続けた


「よく考えたら、アンタに当たるのって変な話だ。
アンタ副社長の時、なんも権限なかったんだろ?
アンタが社長になってしたのって、プレジデントがした様な悪どい事じゃない気がするんだ」

「でも私は、おやじを殺したくてあの手この手で我儘を通して人も殺した。
平気だったよ、人が死んでも」

「…とんでもない親子だな」

「今更だ」

「今は簡単に部下を殺せるか?」

「それ以上のメリットがあれば」

「最低だな」

「今気付いたのか?」

「…ルーファウス、ごめん」

「なにが?なにかしたのか?」

「当たり散らして」

「当たってたのか?気付かなかった」


わざとらしく驚いた顔を見せてから ルーファウスは笑った


「真面目に話したのに」


そう言ってクラウドは苦笑した


ルーファウスがクラウドに手を伸ばす

また、振り払われたら?

そう思っても手を伸ばさずにはいられなかった

泣きそうな顔のクラウドの頭を抱きしめる


クラウドはルーファウスの背中を掴む 


「ルーファウス、俺、アンタを傷つけるつもりはないのに…」


クラウドの声は震えていた

大丈夫 神羅の血は 私で終わりだ


胸の中でだけ呟いて ルーファウスは緩やかに首を横に振る


「キミの言葉や行動に傷つくほど私は繊細でも優しくもないよ」



ルーファウスは穏やかに笑って見せた













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2010・8