芽生え
「なんで俺が?」
レノに差しだされた封筒を条件反射で受け取ったクラウドが 眉間に皺を寄せてレノを睨んだ
「急用。お前がこんな丁度いいところにいる方が悪いだろ、と」
じゃ!と、敬礼のように指二本を出してレノが走り去っていく
クラウドが溜息をついて封筒に目を落とした
レノが言っていた店に入り、辺りを見まわすと
無防備にルーファウスが座っていた
すぐにクラウドを見つけて目を丸くする
クラウドがゆっくりとルーファウスに向かって歩いていくと ルーファウスが片手をあげた
「クラウドじゃないか」
「レノから」
クラウドがそう言いながらテーブルに封筒を置く
ルーファウスは封筒を手に取ってから目線だけをクラウドに向けた
「ご苦労。ところでレノは?」
「知るか。これを届けて、ちょっとの間アンタといてくれと言われただけ」
「…そうか。なにか飲むか?」
「いらん」
ルーファウスは店内を見まわすクラウドから目を離して手元の書類に目を通す
人が少ない店内はなかなか洒落ている
「…もしかしてレノが来るまで俺はここにいるのか?」
「さあ、キミ達がどういう会話をしたのかは知らない」
「だからこれを届けてちょっとアンタと居てくれって」
「引きうけたのかキミ」
「押しつけられたんだっつの」
「ふふ。そうか。これから何か用事はあったか?」
「別に」
「なら付き合え。私も1人では少々不安だ」
書類やパソコンを眺めるルーファウスをじっと見ていると
ルーファウスは手をとめて紅茶を掴んだ
「何か飲め。きっとレノはすぐには来ないよ」
「…ああ、コーラ」
「コーラ?」
「…コーラ…なんか悪いか?」
「いいや、そういうのを飲むんだなと思って」
「いいだろ別に」
「ああ、勿論」
ルーファウスがコーラの注文をすると それはすぐに運ばれてきた
「アンタはこういうのやハンバーガーなんか食べないんだろう」
「そうだな」
「アンタの主食ってなに?」
「なにって、普通」
「普通ってなんだよ。カレーとか食うの?」
「…カレー?」
ルーファウスがペンを唇に当ててクラウドを見る
クラウドは頭を掻いて辺りを見た
「…カレーって言ったらなんかカレー食いたくなってきた」
「なんでカレー?」
「…カレー、ここにあんの?」
「さあ?」
ルーファウスがメニューをクラウドに差し出す
クラウドはそれを受け取らずに覗きこむ
「無いな。カレー無いんだ」
「そんなに食べたいのか」
「ああ、今日絶対カレー食べる」
「作るのか?」
「うーん…食べてくかな。どっかで」
「…今そこのホテルに泊まるんだが、カレー有名らしいぞ。夕食一緒にどうだ?」
「え?あ、ああ…」
その時ティファが、窓を叩いた
「クラウド!なにしてるの?」
外からは丁度ルーファウスが見えない
クラウドは首を振ってティファに答えた
「今日はカレーだよ!帰ってきてね」
クラウドが少し笑って立ちあがった
「ルーファウス、ちょっと待ってろ」
外で楽しそうに話すクラウドとティファに笑みをこぼして
ルーファウスが携帯を手に取った
「クラウド、電話」
着信・ルーファウスの文字に顔をしかめてクラウドが通話ボタンを押した
「なんだよ」
「そのまま帰っていいぞ」
「は?」
「レノもじきに帰ってくるだろう」
「ちょっとアンタ黙ってろ」
切られた通話ボタン
携帯と、窓越しのクラウドを交互に睨んでルーファウスが溜息をついた
「ティファはアンタより強いから大丈夫だ」
クラウドがそう言いながら店に入ってくる
「だが女性だぞ」
「関係あるのか」
「んん?」
席に戻ったクラウドにルーファウスが視線を向ける
「キミが帰りたいのだろうと思って気を利かせたつもりだったのだが」
「いらん」
「カレーは?」
「は?」
「どこで食べるんだ?」
「そのホテル。俺もそこの食べてみたいし」
ルーファウスは苦笑して、掴みっぱなしだった携帯から手を離した
しばらく沈黙が流れる
店のドアが開き レノが入ってきた
「社長いたいた。クラウド、サンキュ」
「レノ、もうひとつ仕事を頼む」
ルーファウスが書類を渡すとレノがそれを見てクラウドを見た
「社長、ツォンさんかルード呼びますか?それともコイツ?」
ルーファウスが腕を組んでクラウドを見た
「時間はあるな?」
「普通時間はあるか、って聞かないか?」
「…あるのか、ないのか」
「別に、何も用事は無いけど…」
クラウドがそう答えると、ルーファウスがレノに合図を出した
「やっぱ一番いい部屋とってるのか?」
ホテルのレストランでカレーを食べながら クラウドが外を眺める
ルーファウスは紅茶を飲みながら新聞を見ている
「まあ、そうだな」
「金に余裕あんだな」
「セキュリティの問題だよ」
「普通の部屋とって護衛置く方が安くないか?」
「護衛だって一晩私と一緒は嫌だろう」
「ツォンなら喜びそうじゃん」
「何故」
ルーファウスが自分を見ているのがわかり クラウドは視線を外に向けたまま水を飲んだ
「…別に…」
「ツォンは私と一緒ならきっと寝れないだろうな」
「よくそういうこと言えるよな」
「ん?」
「なに、のろけか?やっぱそういう…」
クラウドが睨むようにルーファウスを見た瞬間 不可思議そうなルーファウスの表情が飛びこんできた
「彼は神経質だから一晩中部屋の外に立っていると思うよ」
のろけって何だ、とルーファウスが首を捻ると クラウドが額を押さえてまた窓を見た
「一晩中ヤりまくるのかと思った」
窓に映るうんざりしたようなルーファウスの表情を クラウドは目を細めて眺めた
「呆れた。よくそういう発想出るよな。理解できない」
「俺といたら、ヤるじゃん」
「だから誰とでもすると思ったのか?」
「…ちょっと」
「そういう目で見られてたのか。心外だ」
「…だってアンタ、俺にはヤらせるだろ」
「結局何が言いたいんだ」
「他の奴ともするの?」
ルーファウスは新聞を丸めてクラウドの頭を叩く
「いっ…そこまですんなら答えろよ!」
クラウドが頭をさすりながらルーファウスを睨むと
ルーファウスは小声で「気になるのか?」と呟いた
クラウドは「別に」と、残っていたカレーをたいらげた
「ご苦労だった」
エレベーターの前でルーファウスがクラウドに言うと
クラウドは少し考えてポケットに手をいれた
そうか、ホテルに送り届けるだけでいいから、部屋に入る必要は無いんだ
いつも護衛を頼まれると 部屋まで付き添い、他の護衛が来るまで待っていた
今回はそれがない
クラウドが考えていると ルーファウスがクラウドに新聞を手渡した
「キミもたまにこういうの読めよ」
「普通の新聞は読んでるぞ」
「そんなんじゃ詳しく載ってないだろう」
「…アンタこれからどうすんだ」
「寝てないから、少し寝るつもりだ」
「…俺も帰って寝るわ」
「居眠り運転するなよ」
「…」
クラウドがルーファウスを睨むようにじっと見る
ルーファウスは眉間に皺を寄せてクラウドを見る
「言いたいことがあるならはっきり言ってくれて構わないのだが」
「別に」
下りのエレベーターに乗り込むクラウドの背中を見送って
ルーファウスは部屋へ向かうエレベーターに乗りこんだ
セブンスヘブンには戻らずにそこらの教会に入り クラウドは新聞を広げる
「眠くなるっつーの」
「キミは本当に難しい新聞や本が似合わないね」
いつの間にかルーファウスが目の前に座っていて 笑ってクラウドを見ていた
クラウドは眠い目をこすってルーファウスを睨む
「アンタは頭が良くて、俺は頭が悪いとか言いたいのか」
「まさか。私の相手なら頭が悪くては困る」
「相手って?俺はあんたのなに?」
クラウドの手を取って 陽の光の中、ルーファウスが微笑んだ
「十字架の前では言えないよ」
がたん、と大きな音で、目が醒めた
クラウドは真っ暗な教会の中で1人頭を抱える
「変な夢…」
手の中の新聞を握りしめて立ち上がる
着信・クラウド
ルーファウスは半分夢の中で、通話ボタンを押した
「新聞返しにいく」
「ふふ、なんだそれ。好きにしろ」
クラウドの到着は予想以上に早く、ルーファウスは欠伸を噛み殺してドアをあけた
「早かったね」
「…ああ…」
ルーファウスはガウンを着崩したまま眠そうにソファに座り 苦笑してクラウドを見上げた
「仕事が入ってね、さっき寝たばかり」
「あー…ああ、寝ろよ」
「ああ、キミも好きにシャワーでも浴びて寝ていいよ。帰るのも自由」
「…無防備だな」
「そういうのは、相手による」
ソファからベッドに転がり、布団を手繰り寄せる
「…俺には無防備なんだな」
「そうだな。ああ、何か食べたかったら好きに頼め」
「…どんだけ眠いんだよ」
「もう3日近く寝てないんだ、限界。ほっといてくれ」
寝入ったルーファウスを覗きこみ クラウドがベッドに横になる
「寝たのか?」
「おーい、バーカ」
返事が無いルーファウスの髪を撫でると さらさらと流れる
クラウドも目を閉じてはみるが、眠れずに起き上がった
自分の携帯をひとしきりいじってからルーファウスを見る
カメラを起動させて、シャッターを押せずに携帯を閉じた
部屋の中を少し歩き回り ソファに座る
目の前にあった雑誌を手に取り 難解な内容にすぐに飽きた
近くにあった雑誌を暫く眺めていると いつの間にか時間が過ぎていた
飲み物を飲もうと立ちあがり、視界に入ってきた白い携帯を手に取る
見てはいけない、そう思って携帯を置いた
この携帯の中にはきっと大量の秘密や機密が入っている
無防備に眠るルーファウスを眺めて溜息をつく
自分を信頼して眠るこの男を裏切ったら きっと二度と信頼は得られない
その時ルーファウスの白い携帯が鳴った
クラウドが驚き、一瞬動きが止まる
それからルーファウスを見ると ルーファウスはくすくすと笑ってクラウドを見ていた
「なに驚いているんだ?」
「…いや…」
「メールの音だ。ちょっと見てくれ」
「は?いいのか見て」
「構わないよ。どこからのメールだ?」
「レノ」
「内容は?」
「任務完了。明日本当に休んでいいんですか?、だと」
「ご苦労、明日はゆっくり休め、と返信してやってくれ」
「・・・送った。つーか人にやらせるな」
「いいじゃないか」
ルーファウスが起き上がり ミネラルウォーターを飲む
クラウドはルーファウスがミネラルウォーターから口を離した瞬間
それを取り上げて飲み干した
「もっと飲み物無いのか?」
「アルコールでいいなら」
ルーファウスがワインを出すと クラウドが瓶ごと一気に飲み干した
ルーファウスは目を丸くしてクラウドを見る
「クラウド、寝てもいいんだぞ?」
ルーファウスはぼーっとするクラウドから目を離してテーブルに向かい パソコンを開く
クラウドがベッドに転がり 目を閉じた
「そういえば小さい頃、子守唄歌ってもらった事あるんだけど、アンタもそういうのあんの?」
「さあ…記憶には無いかな。どんな歌だったんだ?」
「えーっと、本当に小さかったからはっきり覚えてないんだけど…」
記憶を頼りにクラウドが子守唄を口ずさむと ルーファウスはその歌に集中した
「あー、メロディは覚えてるんだけど、歌詞が出てこない」
鼻歌を口ずさみながら眠りに落ちたクラウドを覗きこみ ルーファウスが笑う
そっとクラウドに毛布をかけて また作業をはじめた
「ここには、私の大事なひとが眠ってるんだ」
ルーファウスが背中を向けて立っている
そう言った場所は、見たことがあるような無いような
理解しようとする前に 周りがぼやけて見えなくなった
「アンタの、大事な人って誰だ」
振り向いたルーファウスの表情は見えなかった
手を伸ばすと 生暖かい感触
クラウドは目を開いて、自分を覗きこむルーファウスと目が合って
夢を見ていたことに気付いた
「…アンタ俺の夢に出すぎ…」
「それは悪夢か?」
「ああ、悪夢だ」
「ふふ…まだ夜中だ。また寝ても構わないぞ」
「じゃあ何で起こすんだよ」
「起こしてない。様子を見ようとしたらキミにつかまった」
クラウドは伸ばした自分の手がルーファウスのうなじを掴んでいる事に気付いてすぐに手を離した
「酒あるか?」
「ワインしか」
「いいよそれで」
ルーファウスがワインを渡すと、クラウドはすぐに一本飲み干した
ルーファウスは二本目を出さずにクラウドを眺める
「…夢ばかり見る」
「私の夢か?」
「悪夢だ」
「どんな夢だ?」
「忘れた…」
「そうか」
「仕事終わったのか」
「もう少し。寝てろ」
クラウドがまた寝入ると ルーファウスはクラウドの前髪を撫でてまた座った
数時間が経過し ルーファウスが立ちあがり 伸びをする
クラウドがぼーっとする頭でルーファウスの手首を掴んだ
「どっか、行くのか?」
ルーファウスはクラウドに微笑みかけ、首を振った
「いかないよ」
寝ぼけてる?まだ酔ってる?一体誰と勘違いしているのだろうか。
考えながらルーファウスがクラウドを眺める
「行かない?」
「行かない」
ルーファウスがクラウドの横に座ると クラウドがルーファウスの手を握る
ルーファウスはクラウドを撫でながら笑った
「ここにいるよクラウド」
「うん」
固く握られた手を眺め ルーファウスが小さく溜息をつく
これでは仕事が進まない
目を閉じたクラウドの隣にそっと横になり 目を閉じた
「アンタ、どっか行きそうだ」
ルーファウスが目を開けてクラウドを見ると クラウドは目を閉じている
「…驚くじゃないか…」
ルーファウスはがっちりつかまれた手を見て 苦笑した
「なあ、駄目?」
クラウドがもう片方の手をルーファウスの腰に這わせて首筋にキスをする
「クラウド、誰かと間違えてないか?」
「嫌か?」
クラウドの唇が下へと落ちていく
ルーファウスは小さく深呼吸をしてクラウドを撫でた
クラウドが優しい手つきで ルーファウスを抱きしめ 額にキスをする
ルーファウスは苦笑してクラウドを撫でてから抱きしめた
寝ぼけてるのか酔っているのか
誰と間違ってるんだろう
クラウドは一体誰を、こんなに優しく抱くんだろう
激しく動く腰と 優しく愛撫する手と 優しく肌にキスをする唇
一度も合わない目
あまり声を出さないように クラウドが夢から醒めないようにルーファウスはできるだけ声を殺した
吐息だけが洩れる
「きつい?大丈夫か?」
「…ん…大丈夫」
今目の前にいて 自分を抱いているクラウドは
自分が知らないクラウド
セックスは何度もしているのに
こんなクラウドは初めてだ
ルーファウスが目を開くと 既に空は明るく
風呂上がりで上半身裸のままのクラウドの背中が見えた
ああ、クラウドだ
そう認識してからゆっくりと口を開く
「おはよう」
クラウドは振り向き 頭を掻いた
「ああ」
それ以上の反応が無いことを確認してからルーファウスが起き上がり
バスルームへ向かった
クラウドはテレビをつけてニュースを眺める
神羅のニュースが流れ、チャンネルを変えた
色々流れるニュースをぼーっと眺める
殺人事件の犯人が死体で見つかったというニュースに目を細める
この現場、ここの近くだ
次にセフィロスの特集が流れた
昔の功績から、世に知られている簡単な生い立ち
そして映像
時計を見ると ルーファウスがバスルームに入って40分経っていた
「生きてるか?」
シャワーを頭からかぶっているルーファウスが 顔を出したクラウドを見る
「…ん?…ああ、生きてるが…」
クラウドが少し笑う
「倒れてるかと思った」
「ああ、いや、大丈夫」
ルーファウスはまだ夢の中に居るような目をしていた
濡れた猫みたいだ。
いいだけ濡れたルーファウスを見てクラウドが頭の中で呟く
じっと自分を見ているクラウドに ルーファウスが不審そうな目を向けた
「なんだ?何か言いたいのか?」
「…見られてたら洗えないのかアンタ」
「気分は良くないな」
「見られることにはなれてるだろ」
「シャワーをかけられたくなかったら早く向こうへ行け」
「やたら毛並みがいいくせに野良猫みたいな奴だよなアンタ」
「野良猫…」
「まだ洗い終わってないのか?」
「終わったよ全部」
ルーファウスがそう言い終わると
クラウドはシャワーを止めてバスタオルでルーファウスを巻き、外に引きずり出した
「なに、やめろ!」
「見ろよテレビ。セフィロスの特集なんかやってるぞ」
「そんなの見てどうするんだ」
濡れた手のままリモコンを掴み、ルーファウスがテレビを消すと
クラウドがリモコンを取り上げてテレビをつけた
「見せろよ。なんか入るかも……」
ルーファウスを拭く手を止めて クラウドが画面に見入る
昔のセフィロスが画面の中で剣を振っていた
「…これ、俺が憧れたセフィロスだ」
「…そうだな」
クラウドがまた、ルーファウスに手を伸ばすと
ルーファウスはバスタオルを奪い取ってクラウドと少し距離をあけた
「アンタはどんぐらいセフィロスと会話したりしたんだ?この頃のセフィロスとは、話したりしたか?」
「…この頃のセフィロスに興味が?」
「…」
「そうか、憧れたんだものな」
ルーファウスはガウンに包まってバスタオルを頭にかけながらベッドに座った
「とても人間らしい男だった。同じように人間らしい男とよくつるんでいたよ」
「セフィロスにも友達っていたのか?」
「ああ、同じソルジャークラス1STの友人が2人いたよ」
「…俺…」
ザックスと、ニブルヘイムの魔晄炉でセフィロスを刺した時の場面が甦る
「…ああ、キミも元ソルジャーだっけ」
「嫌味だな」
「…まあ、英雄には変わり無いか」
「英雄なんかじゃない」
「世界を救った英雄じゃないか。星に選ばれた」
「俺は自分を英雄だなんて思ってない。まあ、神羅は星に見放されたな」
「私達は…」
ルーファウスは少し、遠くを見るようにどこかを見つめた
そしてベッドに寝転んで笑った
「おい、なんだよ」
クラウドがルーファウスを覗きこむと、笑ったまま濡れた髪をかきあげた
「…いいや」
そう言いながらルーファウスは目を閉じる
「正反対の私達が一緒に居るなんて、変だな」
「敵同士だったしな」
「…今は?」
目を開いたルーファウスから目を離せずに クラウドは困ったような表情を作る
「神羅は、今は…敵…ではないけど…仲間でも味方でもない。アンタは未だに要注意人物だ」
「星を思う気持ちは負けないよ」
起き上がろうとしたルーファウスの肩を押さえて クラウドがルーファウスの上に覆いかぶさる
「俺は星を思ってるってよりは、仲間や大事な人や、自分を守りたいんだ」
キミに思われるひとは幸せだね
喉まで出て、口には出さずにルーファウスはクラウドを睨み上げる
「星を思ってるわりには、アンタ星に嫌われてるだろ」
「ふふ」
クラウドは 睨んだままのルーファウスのガウンの紐をほどいた
「星だけじゃないか。アンタを嫌ってるのは」
「例えば?」
「俺」
「私が嫌いか」
「嫌いだね。大嫌いだ」
鎖骨に噛みつくクラウドの背中を ルーファウスは軽くひっかいた
「俺がアンタを、嫌ってるとしたら…アンタは?」
「聞きたいのか?」
目が合った
クラウドはルーファウスを睨み、見下すと ルーファウスの髪を軽く引っ張った
「興味な…」
「ないなら聞いてないだろう」
「…じゃあ答えろよ」
クラウドがルーファウスの髪を引っ張りながら 首筋に噛み付くと
ルーファウスはクラウドの肩に遠慮なく爪を立てた
「私が、嫌う相手にこんなことさせると思うか?」
「俺に興味あるのか?」
「あるよ」
下に下がっていくクラウドの手を止めずに ルーファウスは唇を噛んだ
「あんた女よりも、敏感だ」
「…普通嫌いなら、こういうことはしない」
「こういうの、一回味しめたら駄目だ」
「快楽だけか?」
「この行為に、快楽以外なにがあるんだよ」
「…キミは女性にも快楽だけ、と言うのか?」
「言うわけないだろ」
「実際は?女性相手も快楽だけか?恋愛感情がなければしない?」
「…しない。感情がなきゃしない」
「今はそういう相手は?」
「いたらアンタに突っ込んでない」
「…品が無い」
「ないよそんなもの」
話しながら手を止めずに愛撫を続けるクラウドの髪を撫でて
ルーファウスが苦笑した
「快楽以外に、ないのか?」
「快楽以外にあるのが愛だとか言ったら萎えるぞ」
「身体だけか」
「当たり前だろ。…アンタもそうなんだろ?」
「いいや」
「…他には何があるんだよ」
「純粋に共有してる時間を…会話とか、楽しんでるよ。キミほど快楽に弱くないし」
「へえ、これでも?」
「っ!…クラウド!」
弱い所を愛撫され、ルーファウスの身体が跳ねた
クラウドは満足そうに笑みを浮かべ、ローションを手にとった
「本当に俺よりも快楽に弱くない?」
「ああ。自信を持って言えるが…キミは私より自分の方が快楽に弱くないと思っているか?」
「……相手によるんだよ、こういうのは」
「そんなにいいのか」
「…よく聞けるなそういうこと」
「ふふ」
ベッドで仰向けに転がるクラウドの横で
ルーファウスはうつ伏せになって転がっている
高い天井をぼんやりと眺めながらクラウドが欠伸をした
「ヤっててもアンタはどっか冷静だよな」
「そう見えるか」
「余裕無いくらい夢中になった事あるか?」
「なんでそういう事を聞くんだ」
「…俺なんかより巧い奴とばかりヤってんだろ?」
「さあね」
「…俺なんて余裕無いし、物足りないんじゃない?」
「自信無いのか?」
「アンタ相手だと…なんかアンタって未知の生物だし」
「キミとしてて不足に思った事は無いけど」
「ホントかよ」
「ふふ」
「…アンタってさ、甘える相手とかいんの?」
「はあ?」
「いや、なんていうか…」
「キミはいるのか?」
「…いや」
「キミの言う甘えるってなんだ?」
「例えば抱きついたり抱きしめられながら眠るとか」
「必要なのか?キミはそういうの」
「必要無いのかアンタ」
「無いな」
「可愛くねーな」
「甘えたいのか?」
「別に」
「甘えたいなら抱きしめてあげようと思ったんだが」
「ば…アンタが甘えたくても俺は抱きしめないぞ」
「別に求めてないよ」
「俺だって求めてないっての」
「じゃあその質問、何の意味があったんだ?」
「別に」
クラウドが身体を横向きにしてルーファウスの方を向く
ルーファウスがうつぶせのままクラウドを見ると クラウドはテレビを見た
安っぽいドラマのラブシーンを指さして口を開く
「テレビ消し忘れてた」
「ああ…そういえば…なんか面白いのやってないのか?」
「エロいドラマやってる」
ルーファウスが身体をテレビの方に向ける
クラウドに背を向けた状態で目を閉じた
「興味無い」
「…そういえばアンタってキスは好きなのか?」
「はあ?」
「キスは本命じゃなきゃ嫌だって人いるだろ。アンタは?」
「別にそこまでは。キミはそうなのか?」
「誰でも良いわけじゃないけど…アンタは男とヤる時キスすんの?」
「何だそれ」
「女としかしないとか?」
「キミは女性としかキスはしないのか?」
「…俺は女としかヤった事は無いしキスも男とはした事ないね」
「…」
ルーファウスが少し身体を捻ってクラウドと目を合わせる
クラウドは少し驚いてからルーファウスを睨んだ
「何だよ」
「…いや。女性としか経験が無かったのは意外だ」
「なんで。普通男が男とするかよ」
「どの口がそれを言うのか。初めての時誘ったのは私からじゃないぞ」
そう言ってルーファウスは体勢を戻し 安っぽいドラマの画面に目をやった
「酒のせいだっての」
「男相手に勃ったのも酒のせいか」
「腹立つ」
「私は女性だけ、というわけじゃないから…わからないのだが、
何故君達は女だけしか経験がないのに、しかも男にそういった興味が無いのに勃つんだ?」
「君達ってなんだよ」
「普段は女性だけという奴は多い」
「アンタには何故か勃つって男、結構いるんだろ」
「別に私が誘ったりしたわけじゃない」
「アンタが原因なんだって」
「私がそう仕向けてるとでも?」
「アンタにだけ勃つ奴は多いんじゃない?アンタってそういう奴じゃん」
「馬鹿にしてるのか」
「褒められたことじゃない…ってアンタ男と女どっち経験多いんだよ」
「想像に任せる」
「男か。やっぱりな」
「…」
ルーファウスが布団の中でクラウドの足を蹴ると
クラウドは噴き出して笑った
「男とのキスって女と違うのか?」
「…」
「アンタは男と女だったらどっちとするキスのが好きなんだ?」
「それはキミに関係がある事か?私に興味があるのか」
「世間話だろ」
「それは世間話じゃないよ」
「ただ、男とはキスはした事ないから聞いてみただけだっての」
「したいのか?」
言葉に詰まったクラウドの方に身体を向けて
ルーファウスが僅かに首をかしげて口を開く
「そうじゃないならこだわるな。したがってるように聞こえる」
「…俺がしたいって言ったらアンタはするのか?」
「構わないが」
「じゃあアンタは俺としたいか?俺がしたくてアンタもしたいなら・・・」
「…やっぱり嫌だ」
「は?何で?」
「なんかこういう話をして面と向かってこうしてるのは セックスよりも恥ずかしい」
「恥ずかしそうに見えないけど…」
「キミは恥ずかしくないのか?」
「俺とするのが恥ずかしいのか?それともこの会話のせい?」
ルーファウスがわざとらしく目線を外すと クラウドは笑ってルーファウスの足を撫でるように蹴った
ルーファウスは苦笑して上体を起こした
「起きるか。身体を流してくる」
「逃げるのかよ」
半分笑いながらクラウドが言うと ルーファウスは肩をすくめて立ち上った
「仕事は?」
服を着込んだルーファウスの言葉にクラウドは首を横に振る
そして「あんたは?」と聞きながらベッドから出た
ルーファウスがクラウドにコーヒーを渡しながら携帯を手にとった
「私は休みが無い」
「だから寝ないのか」
「寝ないのではない。寝れないんだ」
「不眠症かよ」
「時間が無いだけ」
「時間なら作れるんじゃないのか?」
「調整は出来るよ。ただ片付けてしまいたい事が多くて」
「寝る間も惜しんでまでかよ」
「まあね。それに夜でなければできない仕事もあるし」
「なんだそれ!」
過敏に反応したクラウドに顔をしかめて ルーファウスはパソコンを起動させた
「仕事でヤんんかよ」
「色々とね」
「馬鹿じゃないか?寝る間を惜しんでまでセックスかよ。最低だな」
「誰がセックスをすると言った。最低はどっちだか」
「アンタの言い方が悪いだろ」
「キミの頭の中が悪い」
「夜しかできないことってなんだよ」
「勝手に想像してろ」
「言えないんだな?やっぱそういう仕事かよ」
「そうでもそうじゃなくてもキミに教える必要は無い」
「病気うつすなよ俺に」
「…仕事で寝たりしない」
「じゃあプライベートで…」
「鬱陶しい…もうどうでもいいよ」
「…なあ、俺以外にそういう関係の奴いんの?」
わりと真面目そうな表情でクラウドがルーファウスを見ると
ルーファウスは目を丸くしてから笑った
「何だよ、俺には聞く権利あるだろ」
「キミは?」
「いないって言ったろ。アンタだけ」
「私もだよ」
ルーファウスは薄く笑いながらパソコンに目を落とす
「本当かよ」
「信じるも信じないもキミの自由だ」
「胡散臭…」
ふふ、と笑うルーファウスの横顔を眺めながらクラウドは昨晩を思い出す
「…なあ、夜さ、俺達ヤった?」
「は?」
「…ヤる夢見たんだけど、すごいリアルな感触でさ、俺、寝ぼけながらヤった?」
「夢の中で誰としてたんだ?」
「…ヤった?俺寝言言った?」
「してないし言ってないよ」
「…そうか」
「酔っていたからなあ」
「ああ…まあ」
「そろそろ私は出かけるよ」
「あー、そうだな。帰る」
「ああ」
「アンタちゃんと寝たのか?」
「寝たけど、正直まだ眠い」
「今日1日寝てれば?」
「そうもいかない。今日は早めに仕事を切り上げるさ」
「タ−クスみんな休みなのか?」
「まさか。レノとルードだけ」
クラウドは身支度を整え 扉の前に立った
ルーファウスと同時に出て 専用エレベーターに乗り込む
「なあ、なんで嘘ついた?」
「ん?」
クラウドの突然の問いかけにルーファウスは首をかしげる
「昨日、ヤってないって嘘ついたろ。記憶くらいある」
「なに」
「アンタは酔ってないだろ。なかった事にしたかったのかよ」
「キミが誰かと私を間違えていたのかと思ったから、夢だと思ってるならそのほうが良いと思ったんだ」
「俺が誰とアンタを間違えるんだよ」
「さあ」
「なんでそうなるんだ」
「だって昨晩のキミのセックスはとても優しかったから」
「…優しかった?」
「ああ。恥ずかしいだろ。キミにあんな抱かれ方したのは初めてだ。正直少し動揺した」
「…」
クラウドの何とも言えぬ硬い表情に ルーファウスが顔をしかめる
「一体誰を抱いたんだ、夢で」
答えを求めているわけでもないルーファウスの言い方
クラウドは小さく溜息をついてフェンリルのキーを握りしめる
エレベーターの扉が開いたと同時にクラウドはボタンを押して扉を閉めた
クラウドのボタンを押す手と反対の手が ルーファウスのうなじを掴み、引き寄せる
唇が重なった
ルーファウスは壁に背中をつけた体勢で黙る
クラウドがルーファウスの唇を舐めた瞬間 ルーファウスの携帯が鳴った
クラウドは唇を離してエレベーターの扉を開けた
「夢に出てきたのはアンタだよ」
そのままクラウドは足早にホテルを出る
「…なんなんだ」
クラウドの背中を見送りながら ルーファウスは前髪をかき上げた
「なにしてんだろう俺」
ホテルに滞在している客のマラソンコースになっている広い公園のベンチに座り 辺りを見まわす
「…追いかけてくるわけ無いか…」
別に「好き」なわけではない
でもキスはしたかった
どういう感情にしろ、特別な気持ちがあるのは確かだ
俺はおかしいんだろうか
「何をしているのかな、キミは」
クラウドが目を開くと目の前にはルーファウス
上から覗きこまれているクラウドは その整った顔に呆っと見とれた
まだ夢から醒めていない
「クラウド、何かあったのか?」
まだ呆っとしたままのクラウドの頬に ルーファウスが手の甲をつける
冷えたその手の温度でクラウドはやっと目を覚ました
「あれ…今何時だ?」
「もう夜だよ。えっと、7時」
「マジ?俺2時間も寝たのか…」
「もう一泊しに来たのか?」
「うん」
冗談で聞いたルーファウスは クラウドの返事に一瞬驚いて笑った
「とりあえず起きろ」
クラウドが寝ていたのはルーファウスが宿泊している部屋のフロアにある大きなソファで
このフロアはルーファウスが宿泊している部屋しか無い
警備員が不審に思う前に 尋ねてきたイリ−ナが
クラウドを放っておくようにフロントに言ってルーファウスに連絡をした
「タ−クスから連絡を受けて、早めに帰ったんだ」
クラウドがゆっくり起きあがるのを待って ルーファウスは歩き出す
「連絡?なんて」
「キミが私の部屋の前で寝ていると。寝顔監視カメラにうつってるぞ」
「こういうところってソファも寝心地良いんだな」
「疲れてるんだよきっと」
「アンタは?」
「なに?」
「疲れてんだろ」
「まあ、それなりに」
「今日の夜は仕事ないのか?」
「無いよ。今日は寝る」
「俺も思いっきり寝たい」
ルーファウスは几帳面に鞄やコートをしまってからバスルームに足を向けた
「おい。俺はどうしたらいいんだ?」
まだ寝ぼけているようなクラウドの質問にルーファウスは肩をすくめて苦笑した
「好きにしたらいい」
「どういう意味だよ」
「帰っても寝ててもなにか食べててもTVをみていても、好きにしてていい」
「っつーかアンタ1日何回風呂入るんだよ」
「最低1回」
そう言いながらルーファウスはバスルームに消えた
クラウドはベッドに転がってから服を脱ぎ、広いベッドのど真中で目を閉じる
「神経質」
22時
中途半端な時間に目を覚ましたクラウドが 自分の服が綺麗にかけられているのを見て呟いた
水を飲んでいたルーファウスが顔をしかめてクラウドを見る
「キミがだらしないんだ」
「アンタまだ寝てなかったんだ」
「今寝ようと思っていた所だよ。キミは起きるのか?」
「…まだ寝れそう…」
「そうか」
そう言いながらベッドの中に潜り込むルーファウスを眺めながら
クラウドが少し身体を移動させた
エレベーターの中でしてしまったキスを思い出して クラウドは額を押さえる
「どうした」
「…いや、別に」
「そうか」
「…」
明らかに目が覚めてしまったクラウドを横目で見る
クラウドは額を押さえたまま目を閉じている
「アンタにキスしたくなった俺って変態なのか?いや、セックスは別として」
ルーファウスは少しぽかんとしてから声を出す
「キミの手」
「は?」
「こう、この手に触りたくなるのは、変態か?」
「…いや…なんで?」
クラウドが横を向くと ルーファウスと目が合った
「思ったよりも硬いよな、皮膚」
「…俺は戦うから…」
「自分と変わらないくらいの背丈だから、そんなにたくましいと思ってなかった」
「アンタはなんか人間っぽくないよな」
「モンスターか?」
「いや、そういうんじゃなく」
「動物か?」
「…妖怪」
「なに?」
「いや。なんでもない。俺の手が好きなわけ?」
「キミは私の口が好きなのか?」
「違うだろ」
クラウドが手を伸ばし ルーファウスの頬を掴むように撫でる
ルーファウスはその手の上に手を添えて じっとクラウドを見た
クラウドが親指だけ、ルーファウスの唇に乗せると
ルーファウスはその指にキスをした
「アンタさ」
そう言いながらクラウドは素早くルーファウスの手首を掴み
ルーファウスに覆い被さるように上体を起こした
「なんだ」
「誘ってるのか?」
「違…」
「あんたがキスを許すのって誰」
「何を突然」
「俺はキスしていいのか?」
ルーファウスが一瞬目を大きくしてクラウドを直視する
クラウドが少し視線を外すと ルーファウスが苦笑した
「キミがしたいなら」
「アンタがしたくないならしないけど」
「したくないなら断るさ」
「眠いんだろ?キスしたらアンタ寝れないぞ」
「そうなのか?」
「そうだろ」
「じゃあやめておく」
「え?」
「ははは」
「あーもう」
寝転ぶクラウドを気にもせず ルーファウスは目を閉じた
動かなくなったルーファウスを覗きこむと
微かに寝息を立てていた
クラウドは黙って寝顔を眺めてからルーファウスの頬を触ると
突然開かれたルーファウスの目に射抜かれる
「眠れないのか?クラウド?」
「…いや…ああ」
まだ眠そうなルーファウスが笑ってまた目を閉じる
「温かい物でも飲むか?」
「いや、いい…なあ、腕枕」
腕を伸ばしたクラウドを見て ルーファウスは少し困った顔を見せる
「腕枕?されたいのか?」
「誰があんたに。寒いんだよ」
「重くないのか?」
「俺がそれぐらいで腕がしびれたりすると思う?」
「枕抱くか?」
「嫌なのかよ」
「当たり前だ」
「なんで」
「私は女子供じゃない。男だ」
「…じゃあいいよ」
クラウドがルーファウスの腰を抱き寄せる
「クラウド、まだ寝ぼけてるか?」
少し引きながらルーファウスはクラウドの表情を見ようとするが
クラウドはうつむくようにルーファウスの鎖骨に頭をつけている
甘えているんだろうか
少し考えてから ルーファウスは行き場の無い手をクラウドの頭を抱え込むように絡めた
クラウドの手がルーファウスの肌を這うと ルーファウスはクラウドの手を叩いて起きあがった
「寝るんじゃないのか」
「手が勝手に動くんだよ。やっぱ腕枕のがいいかも」
「あのな…」
「いいじゃん、腕枕すると落ち着くんだよ」
「誰をしてたんだ」
「猫とか」
「彼女とかではなく?」
「違うって」
「…嘘だろ」
「嘘だよ。してみたかっただけ」
「違う、うそって、キミが本当は彼女とかにしてたんだろうって」
「してない。腕枕なんかしたことないし。猫にはあるけど」
そう言ってルーファウスを抱き寄せて腕枕をした瞬間 目が合った
2人で噴き出して笑った
「なにこの至近距離」
「もういいだろ、クラウド、離れろ」
「いいから、寝ろよ」
「離せ、落ち着かな…」
「うるさい」
「寝にくい」
「うるさいって」
「あ、クラウド唇切れてるぞ」
「え?うそ」
「ここ。痛くないのか?」
クラウドの唇の切れている部分をルーファウスが指で触れる
「…別に、平気」
「そうか。ほら腕よけろ」
ルーファウスがクラウドの腕を避けようとすると
そのルーファウスの手を掴んで クラウドが目を閉じる
「人といるのは嫌いじゃないんだ、多分」
「は?」
「…なあ、あんたって好きなやついんの?」
「飲んでもいないのに酔っ払ったか」
「アンタ、人好きになれんの?」
思わず言葉に詰まるルーファウスを直視して クラウドがため息をつく
「俺、自分が誰かを愛せる自信がない。恋愛感情で」
「…そんな自信がほしいのか?」
「いや…なんていうか…俺このままずっと過ごすのかって考えるんだ。
本当に人を、そう思える事もなく死ぬかもしれない」
「縁があればそうなるさ。そんなもの考えても焦ってもどうにもならない」
「…あんたは経験あるんだ…」
「別に、これはどんな事にも共通して言えることだろう」
「じゃあ、愛される自信、アンタある?」
「私はこの星に愛されなくても、この星を愛し続ける」
「星とかじゃないっての。しかも星はアンタを恨みさえしてるかもしれない」
「見返りを求めているわけじゃないからね」
「アンタは人を好きになるのか?」
「人一人を相手にするほど私のスケールは小さくないんでね」
「アンタさー、俺が真面目に話してんのにそういうのやめてくれる?」
「…キミのその悩みは時間が解決してくれる。時間しか解決してくれない」
「なにそれ」
「だから言っただろう。縁があれば、って。その相手とは、もしかしたら既に出会ってるかも知れないしな」
「どういう意味だ?」
「出会っているけどまだそういう仲になっていないだけで、これからそうなるのかもしれないし、ってこと」
「そういうもんなのか?」
「さあね。その可能性もゼロじゃないというだけ。それも違うかもしれないんだし、深く考えるな」
「会ってるとしたら、誰だろう」
「だから、会ってるかも、と言っただけで会ってるとは言ってない」
「わかってる。でももし会ってたら…」
「…」
少し考え込むクラウドを無視して ルーファウスはクラウドの腕から離れようとする
クラウドはルーファウスを引っ張って戻した
「なあ、アンタの好きになる相手って男?女?」
「知らないよ」
「男?」
「知らないって。一体それとこれとなんの関係があるんだ」
「…俺は、誰かに愛されるだろうか」
「愛したいのか愛されたいのか」
「…どっちも。なんかそういう幸せってあるんだろ?知らないけど」
「私はその手の話題には疎いから、よくわからん」
不満気なクラウドの目と目が合って ルーファウスが苦笑する
「言っただろ、クラウド。焦っても考えてもどうにもならないって」
「なんか、虚しい」
「一人身が寂しいのか。何故そう感じるんだ?」
「知らん。アンタそう思ったことないのか?」
「無いよ」
「じゃあ俺の気持ちはわからないわけだ」
「わからない」
「人肌が恋しくなること無いのか?」
「人肌が恋しいのか?私を捕まえておいてそう感じるなら私は力になれないな」
「ああ。アンタ俺の物じゃないからな」
「離せ」
「嫌だね」
「馬鹿力」
「冷たい奴。人肌が恋しいっていってる人間に離れろはないだろ」
「どうしろと言うんだ」
ため息をつくルーファウスにクラウドが不機嫌そうにため息で返す
ルーファウスは眉間にしわを寄せてクラウドの胸を叩いた
「愛情を求めるなら他へ行け。私はそういう物は持ち合わせてはいない」
そう言って起き上がろうとするルーファウスを組み敷いて
クラウドがルーファウスの上に乗る
「アンタはなんで男なのに挿れられて満足できるんだ?変態だ」
ルーファウスの顔から表情が消える
クラウドは片手でルーファウスの両手を押さえつけた状態でルーファウスの鎖骨に噛み付いた
「無理矢理やられるのも興奮すんだろ?」
呆れた顔でため息をついてルーファウスはクラウドを睨む
「無理矢理やりたいのか?それで君は興奮するのか?」
「ああ、するね」
「望み通り抵抗してやるよ」
クラウドの脇腹を思い切り膝で蹴ると クラウドがルーファウスの首を殴った
ルーファウスが咳込んでクラウドを睨む
「馬鹿力」
「抵抗ってそんだけ?」
「かなうはずが無い。諦めた」
「早すぎ」
「待て、喉痛い」
「そんなに?」
クラウドがルーファウスの喉に触れる
腕を解放されたルーファウスがクラウドの手をそっと避ける
「キミ、自分の力わかってるか?唾飲むのも痛い」
クラウドに背中を向けて横になるルーファウスの顔を覗きこむ
「なに」
クラウドは 軽く自分を睨むルーファウスの頭を撫でると
ルーファウスが驚いた顔でクラウドの手を払った
クラウドは渋い顔をしてからルーファウスを思い切り抱きしめる
抵抗を試みたルーファウスが数分後全身の力を抜いた
「アンタ本気で抵抗してたのか?」
「ああ。おかげで疲れた」
「力無いんだな」
「キミがありすぎるだけだ。私は非力な方ではないんだからな」
「一般人の並だな。勢いはあるけど力は無い。筋トレしろよ」
「キミみたいな筋肉別にいらない」
「だな。筋肉質なアンタ見たくない」
「もういいから離せ。人肌が恋しいなら他でやれ」
「他にこんなことできる奴なんていない」
クラウドがうつむく様に顔をルーファウスの鎖骨につけると
ルーファウスがクラウドの頭を軽く撫でた
「キミならすぐそういう相手ができるよ」
「誰でもいいわけじゃねえよ」
「ああ…そうか、そうだな」
「抱くのも抱きしめるのも、キスするのも、誰でもいいわけないだろ」
「…そうだな」
「…アンタもだろ?」
「ああ、勿論」
「アンタは俺に、どこまで許すんだ?」
「キミは私に、どこまで求める?」
クラウドが上体を起こしてルーファウスの顔を覗きこむ
ルーファウスの顔の両側に手を置くクラウドを見上げて
ルーファウスはクラウドの肩甲骨に手を伸ばした
クラウドから唇を近づけると ルーファウスが少し顎を上げて受け入れる
二度、軽く唇を重ねてから、深く口付ける
「キスしたら、アンタ寝れないって言っただろ?」
「いいよ、目はもう覚めてる」
「私はな、クラウド…あまり女を抱きたいと思ったことは無いんだ」
「…女抱いたことないのか?」
「あるよ。でも、女を抱くよりも、今こうしてる方が気持ち良い。キミは私を変態だと思うか?」
「…素でアンタに勃って、アンタを抱く俺にそういうこと言うなよ」
「…それも、そうか」
「俺も…女より、今のがイイ」
噴き出すように笑ったルーファウスを軽く殴って クラウドが笑う
「なんで笑うんだよ」
「今の会話の流れがおかしくて」
よくもこんなに眠ってしまったものだ、と 壁にかかっていた時計を見上げて思う
ルーファウスは自分を抱きしめる腕を握って目を閉じた
「……」
また目を開いて首をひねると
クラウドが後ろから自分を抱きしめて寝ていた
ルーファウスは顔をしかめて目を閉じた
「なにやってるんだ私は…」
小声で呟いてから そっと腕を外そうとすると より強く抱きしめられる
ルーファウスは諦めてクラウドの手を軽く叩いた
「離してくれ」
クラウドがその程度で起きるはずも無く 数分が過ぎた
ルーファウスがまた目を閉じて寝入る瞬間
クラウドが耳元で小さくルーファウスの名前を呼んだ
ルーファウスが目をあけてまた首をひねると クラウドは相変わらず眠っていた
寝言か、とルーファウスは苦笑して身体を反転させる
クラウドと向かい合う体勢で クラウドの肩を叩いた
「クラウド、そろそろ起きろ」
一時間くらいが経過して クラウドが目をあけると
背中を向けていたはずのルーファウスが自分の胸に顔を付けて目を閉じている
クラウドは一瞬考えてからルーファウスの手をそっと自分の背中に回し
強めに抱きしめると ルーファウスの手にも少し力が入った
抱き合った状態でルーファウスが目をあけ、上を向くと クラウドと目が合った
「…おはよう…クラウド…」
「ああ…おはよう」
「二度寝をしてしまった」
「いんじゃない?たまに」
「たまには、いいか」
そう言ってルーファウスは目を閉じてクラウドの胸にすり寄る
「…そういう事するか普通」
「あー…そうか、そうだな」
起き上がろうとするルーファウスを抱きしめて クラウドが目を伏せた
「いや、そういう事されると、俺も男だから…」
「は?あ、ああ…そうか、そういうことか…いや、私も男だが…」
苦笑するルーファウスを組み敷いてクラウドがルーファウスを直視する
「なあ、アンタは、愛だの恋だの馬鹿馬鹿しいと思うか?」
「何を唐突に」
「思うのかって聞いてんだよ」
「いや、馬鹿馬鹿しいとは思わないが…」
「じゃあアンタはそういう相手を作らないつもりでいる訳じゃないんだな?」
「いや、私自身はそういうのは…」
「なんで」
「性に合わない」
「正直に言えよ」
「面倒」
「本音か?」
「ああ、本音だ」
「今俺面倒がられてるか?アンタに」
「は?」
「だから、俺は面倒か?」
「いいや」
「じゃあアンタは絶対誰かだけとヤったりキスしたりするな」
「…意味がわからないんだが…クラ…」
「俺意外と関係もつな」
「いや、それは…」
「わかったな?」
「クラウド、おま…」
ルーファウスの言葉を聞かずにクラウドはさっと立ちあがり
ルーファウスを引っ張ってバスルームに移動した
「一方的にそんなことを言われても、言うとおりにはしないぞ」
頭を洗いながらルーファウスがクラウドに言うと
クラウドは身体を洗う手を止めた
「アンタが他の奴とヤったりすんのは嫌なんだよ」
「そういう権利キミにあるのか」
「ある」
「…無い。」
「あるんだよ」
クラウドの好意に気付いたルーファウスが疲れた顔で頭を流す
「おいルーファウス、今日の護衛誰だよ」
「毎日護衛を付けてるわけじゃない」
「いないんだな?」
「ああ。必要が無いからな。護衛は今日は必要無いんだ」
「仕事無いんだな?」
「…仕事は無いよ」
「予定あんの?」
「ある」
「俺も行く」
「結構だ」
着替えて出かける用意を整えたルーファウスを見て クラウドが立ちあがる
「天気も良いし、バイクでいいだろ」
「一人で行けるんだが」
「二人じゃマズいのか」
ルーファウスはため息を付いてソファに座った
「私はな、クラウド…本当は、どうしても忘れられない人が居るんだ」
「…それって」
「今はもう居ない。でも、私にはそいつだけなんだ」
「…死んだのか?」
「ああ」
「…俺の知ってる人?」
「いいや」
「…恋人?」
「まあ、そうなんだろうな」
「…好きだったのか?」
「んー。好きだとか愛してるとか、そんな言葉では表現できない」
「今も?」
返事の代わりに見せたルーファウスの笑顔は
クラウドが今まで見たことの無い表情
クラウドは奥歯を噛んで胸の痛みに耐える
「アンタが俺を好きになるなんて、思っても期待してもいないけど…そう言われると、なんか」
「きっと私はそういう感情を持っていない」
「だあら、諦めろとか言いたいのか?」
「ただ、言いたかっただけだ」
車のキーを持って立ちあがるルーファウスの手を握り
クラウドがそのキーを戻す
「バイクで、いくぞ」
「…折角の休日を無駄使いするな」
「無駄かどうかは俺が決めることだろ」
エレベーターの中 ルーファウスが腕組をしてクラウドを横目で見ると
クラウドが難しい顔でルーファウスを見ていた
「なあ…その、アンタの忘れられない人ってまさか、男か?」
「ああ」
「俺も男だ。望みはゼロじゃないはずだ」
「…なんか…キミはそんなに前向きだったか?知らなかった」
「うるさい。俺もそんなの知らなかったよ」
苦笑するルーファウスに満足そうに笑いかけ クラウドがエレベーターを降りた
「行くぞ」
苦笑したま、ルーファウスは諦めたようにクラウドの後をついて行った
2010・5
おもっくそ片思いのクラウドです。
ルーファウスにしっかり片思いのクラウドを書きたくてできた小説です。
片思いです。
ちなみにルーファウスの好きな人はセフィロスなので、クラウドの知ってる人です。