| 病 |
ルーファウスが顔をしかめて手を振ると 目の前の煙が少し晴れた 「ああ、すんません、と」 レノがタバコを灰皿に押しつけ、立ち上がる 「あれ?煙苦手でしたっけ?」 「いや」 ソファに座るルーファウスに ツォンが紅茶を差しだした 「調子悪いんですね。熱をはかりましょう」 「いや、平気だ。睡眠が足りていないだけ」 「寝てください」 「私が寝て、キミは私の代わりをできるのか?」 「…いえ」 立ち上がりキーを取るルーファウスをツォンが慌てて追うと ルーファウスが振り向いた 「留守番頼むぞ」 「ルーファウス様は?」 ルーファウスの家に来たクラウドに ツォンが声をかける クラウドは顔をしかめながら室内を見まわした 「…あいついないのか?電話しても出なかったぞ」 「一緒じゃなかったのか」 「今日はまだ会ってない。いつからいないんだ」 「昼に用事で出て、夕方前には帰って来るはずだったんだが…まだ帰ってこない」 「用事って?」 「人に会うと」 「誰に?」 「わからん」 「なんで知らないんだよ」 「一度聞いたが流された。教えられない限りは無理に聞けないからな」 「なんだよそれ。心当たりは」 「心当たりはすべて当たった」 「くそ。探してくる。見つかったら連絡くれ」 「頼むぞ」 クラウドが心当たりも無く走っていると 携帯に着信が入った ルーファウスからの着信は それを知らせる色と音楽が違う クラウドはディスプレイを見ずにすぐに通話ボタンを押した 「おい!今どこだ!」 「クラウド」 「何してんだよ」 「…ああ、崖からおりて探し物を。車のキーなんだが」 「は?」 「崖にキーと携帯を落として、崖を下って…今携帯は見つかったがキーが無い」 「意味わかんないんだけど、なんで崖?」 「人に会っていてな…」 「それ、仕事?」 「仕事だ」 「相手誰、男?俺の知ってる奴?」 「変な想像するなよ?心配するようなことじゃない。 とにかく身動きが取れないんだが、迎えに来てくれるか?」 「すぐ行く。場所は?」 「遭難しなくてよかったな」 既に辺りは暗い クラウドは崖を降りて、簡単にルーファウスを見つけた 「キーみっかった?」 「いや」 「じゃあ明日にでもタ−クスに車取りに来させてキー作らせろ。 今日はもう探すの無理だ。危ない」 「そうだな」 「怪我とかしてないか?」 「してないよ」 「じゃあ戻るぞ」 安全な足場を確保しながらクラウドがルーファウスを誘導する 崖を登りきった所で ルーファウスが地面に腰をおろした 「疲れた?」 クラウドがルーファウスの隣に座る ルーファウスは苦笑して首を縦に振った 「なんで落としたんだよこんな所で。つーかなんでこんな所で会うかな」 「お互いこの近くで他の用事があってな。近くで人気の無い場所ということでここに。 落としたのは相手を見送ってからだったから、どうもできなくてな」 「足でも滑らせたのか?」 「いや」 「じゃあ何で」 「めまい」 「めまい?調子でも悪いのか?」 「たいしたことない。たまたまだ」 クラウドがルーファウスの首に手を伸ばす 熱が高い気がして立ち上がった 「早く戻って休んだ方がいいみたいだな」 そう言うクラウドに掴まりながら ルーファウスが立ち上がった 「心配しましたよルーファウス様」 戻ったルーファウスを ツォンが心配そうに見つめる ルーファウスは苦笑いで返した 「横になってください」 「ああ…そう、車…」 顔色の悪いルーファウスの肩を掴んで クラウドが寝室に押しこんだ 「車のことは話しておくから休め。顔青いぞ」 「ああ、頼む」 「大丈夫か?」 翌朝、クラウドが起きてこないルーファウスを覗きこむと ルーファウスは薄く微笑んだ 「平気」 「アンタ昨日から調子悪かっただろう」 「ふふ」 「ちょっと顔見せろよ」 ルーファウスの顔を正面から見たクラウドが慌ててその白い額を撫でた 「アンタ顔色すごいぞ。ちょっと熱はかれ」 「ん?」 「真っ白だ」 「そう?」 「病院」 「移動は、辛いかな。寝ていれば治ると思う。たまにあるんだ」 そう言って目を閉じるルーファウスを眺めてからクラウドが部屋から出る ルーファウスを1人にはできない だからといって仕事を休むわけにもいかない ツォンに早く来いと連絡をして 到着を待った 「ルーファウス様、移動が辛いなら医者を呼びますよ」 ルーファウスの首に触れながら ツォンは心配そうに顔を覗きこんでいる ルーファウスはツォンを見上げて首を横に振った 「ただ調子が悪いだけだ。すぐに治る」 「無茶をなさらないで医者に…」 「明日、治っていなければ医者にかかろう」 「今すぐに」 「…そうだな、今日もひとつ片付けたい仕事があるんだ。 少し寝てからそれをやるから、それからな」 「調子が悪いのは一体いつからですか?」 「…3日前だ」 ツォンは額を押さえる 「こんなになるまで何故放っておいたのですか」 「忙しかったから、ここ数日は。明日には一息つけるさ」 「なあ、その仕事ってアンタじゃなきゃできないのか?」 クラウドの質問に 勿論、とルーファウスが笑顔で答えた 「相手先には伝えておきますから、お願いですから病院に…」 「そうだな。とりあえず、少し寝たいのだが」 「お前ルーファウス様の傍にいて気付かなかったのか」 「アンタこそ一緒に仕事してて気付かなかったのかよ」 隣の部屋に移動したクラウドとツォンはお互い睨みあってから溜息をついた 「なあ、ツォン、あいつ身体弱いのか?」 「特別弱いわけではないんだがな…自分とは比べるなよ。 我々と比べたら確実に弱い」 「そういえばあいつは普通の人間だっけ…」 「…我々も普通の人間だ。 しかし調子が悪い事に気付かないからな…ルーファウス様は…」 「ああ…あいつ顔に出さないよな…出ないだけか?」 「それは昔からだな。ところでクラウド、仕事は?」 「まだいい。ルーファウスを見てくる」 音を立てないようにドアを開け クラウドがルーファウスを覗きこむ 薄く目を開いてルーファウスがクラウドを見上げる 口を開いて何かを呟くルーファスの口元に クラウドが耳を寄せる 「なに?」 「気持ち悪い…」 いよいよ弱音を吐き、苦笑するルーファウスをクラウドが撫でると 身体が熱い ツォンが医者を呼ぶ 「お前は仕事に行け。ルーファウス様は私が見てる」 「診察終わるまで待つ」 「まだかかる。それにそんなに大変な状態ではないと医者が言っていたから大丈夫だろう」 「…少しでも何かあったら電話しろよ」 「わかった」 クラウドはルーファウスをツォンに任せ 仕事に行った 結局たいした病気ではなく、数日高熱が続くたちの悪い風邪だった まる2日、ツォンとクラウドが交替で寝こむルーファウスの世話をした 3日目に ルーファウスは隣のベッドで寝ているクラウドを起こさないように ベッドから抜け出し シャワーを浴びた それから自分のベッドのシーツや枕をかえていると クラウドが飛び起きた 「大丈夫か?」 「ああ、熱は下がったようだ。楽になった」 「だからっていきなり動くな。俺がやるから座ってろ。ってかシャワー浴びたろ?」 「気持ち悪くてな」 「せめて飯食えるようになってからにしろよ」 「待てないよ。しかし世話をかけたな」 「いいって別に。ほら早く寝ろ。なんか少しでも食えるよな?」 「水飲んだ。食事はいらない」 「いいから少しでも食えって」 「起きてから貰うよ」 「アンタ治す気ないのか?」 「栄養なら点滴でとってるから」 「そういう問題じゃないし」 「ふふ。私はもう大丈夫だからキミもゆっくり休んでくれ。看病は疲れるだろう」 「平気。体力あるし。俺が倒れたらアンタに見てもらうし」 笑うルーファウスをベッドに寝かせて クラウドはそのベッドの横に座る 「ほんとに熱下がってるな。もっと続くと思ってた」 「結構体力あるんだ」 「うそつけ」 「キミと比べるなよ?私は凡人だ」 「凡人ではないだろ。特殊っていうか…」 特別、と口から出そうになった言葉を飲みこんで クラウドがルーファウスを撫でる 「アンタは凡人ってくくりには入らない。アンタみたいな人間他に居ないし、居てたまるか」 「どんなくくりに入れられるんだ?」 「災害」 「悪くない褒め言葉だな」 笑うルーファウスの手を撫でながら クラウドが苦笑する 「アンタは強烈すぎるんだよ」 「強烈?どういう意味だ?」 「…もういいから寝ろよ」 「そうだな。キミも寝ろ」 「あんたが寝たらな」 ルーファウスが笑ってクラウドの手を握ってから 離して目を閉じる クラウドはすぐに握り返して そのままルーファウスの横に潜り込んだ 「やっぱ俺も寝る」 「ふふ」 抱き寄せて ルーファウスの唇を舐めて口付ける 握った手に力が入る ルーファウスの素肌を撫でながら クラウドが上体を起こして覆い被さる ルーファウスは浅く息をしながらクラウドの腕を掴んだ 「これ以上続けたら我慢できなくなる。身体、辛いよな?」 そう言って顔を覗きこんできた真顔のクラウドに ルーファウスは優しく笑って口付けをした 「まだ本調子ではないから、うつっても知らないぞ?」 「汗かくから平気」 「馬鹿め」 優しい音楽が聞こえる クラウドの目の前に立っているのは 真っ白い服を着たルーファウス 呼んでも 叩いても反応が無い 奥から光が差しこんで ルーファウスは今まで見たことが無い優しい微笑みを光に向けた その光から姿を現したのはセフィロスだった セフィロスもまた 見たことが無い優しい微笑みをルーファウスに向けている ルーファウスがセフィロスに歩み寄ると セフィロスはルーファウスに手を伸ばした 「ルーファウス!」 持っていかれる まぶしい光で 2人が見えなくなった瞬間 音楽が止んだ 取り残された 俺は、独りか ルーファウスは、何処へ行った? 温かい何かが 優しくクラウドの頬を撫でた 「クラウド」 クラウドが目を開くと ルーファウスがベッドの横に座りながらクラウドの頬を撫でていた 「起きたか?夢見てただろう?」 「夢?」 クラウドは起きあがり、ルーファウスを抱きしめる ルーファウスは優しくクラウドの背中を撫でた 「悪夢見た」 「うなされていたよ」 「寝言言ってた?」 「聞き取れなかったけど、なにか言っていた」 「…セフィロスにアンタ持ってかれる夢」 「はあ?」 ルーファウスの間抜けな声にクラウドが笑うと ルーファウスもつられたように笑った 「なんで俺あんな夢見たんだろ」 「さあ?私の頭では想像もつかない」 「気にしすぎなのかな」 「何をだ?」 「セフィロス」 ルーファウスが気の抜けたような笑顔を見せる クラウドはその笑顔に不安を覚えた 「あんたはセフィロスの話とかすると、表情が薄くなる」 「薄く?」 「なんていうか、表現しきれないんだけど、消え入りそうな感じ」 ルーファウスが自分の指を爪で引っ掻きながら首をかしげる 「自分ではよくわからない。でもキミが心配すると、彼を意識してしまうじゃないか。 だから心配はするなよ?」 「でも毎日、あいつのこと考えたりしない?会いたくなったり…」 「キミがいるのに?」 クラウドが恥ずかしそうに苦笑すると ルーファウスがクラウドの肩を叩いた 「そういえば、なんか音楽かけてたか?夢で音楽が聞こえた」 「ああ、うるさかった?」 「いいや、気持ちよかった。もう一回かけて」 「いいよ」 そう言うとルーファウスは立ち上がってピアノの前に座った 「あれ?アンタ弾いてたのか?」 「そう」 夢で聞いた音楽が流れる ピアノといえばティファを思い出していたけど 次からはきっと、ピアノを見たらルーファウスを思い出すんだろうな クラウドはそんな事を考えながら黙って聞いていた セフィロスも、こいつのピアノを聞いたんだろうか ルーファウスのあの笑顔は あいつに向けられたもの 俺にはそこまでの笑顔を向けないのか? 優しい音楽が 突然リズミカルで楽し気な音楽にかわった ルーファウスがクラウドを見て微笑む 「またキミ、いらない事を考えていただろう」 クラウドが目を大きくしてルーファウスを見る 「なんでわかるんだ」 「さあ、どうしてかな」 「あんた人の心読むの得意だろ」 「まさか、人の心は読めないよ」 「あんたって人間っぽくない」 「はは」 明るい音楽とルーファウスの笑顔は クラウドの不安と憂鬱を少し吹き飛ばす 演奏を終えたルーファウスがカーテンを開く 差しこむ太陽の光を背負って クラウドに笑顔を向けた 「言い忘れていた。おはよう、クラウド」 一瞬真顔になったクラウドが うつむいて笑う 「ああ、おはようルーファウス」 「何で笑うんだ?」 ルーファウスが疑問そうに眉を片方上げると クラウドがルーファウスの手首を掴んで自分の膝に座らせた 「俺、病気かも」 「なに、調子悪いのか?うつった?」 「そうじゃなく」 首をかしげて難しそうな顔をするルーファウスを抱きしめ クラウドが笑う 「わかるように言ってくれないか?」 「わかんなくていいよ。別に本当の病気じゃないし」 「怪我?どこか痛むのか?気分悪いのか?」 「だから違うって。気分はいいし」 「キミは時々難しい」 「アンタはたまに鈍いよな」 「鈍…失礼な…」 すっかり調子の良さそうなルーファウスが寝室を出る クラウドは笑いながらルーファウスを追った |
恋の病。 寝室にピアノがあるのかよとか そういう突っ込みは受け付けません 2009・9 |