繋ぐ。









見なれない手帳を拾い上げて、クラウドは中を見るか迷った


ルーファウスの家に落ちている手帳なら、ルーファウスのものだろう



開くと、細かくびっしりと書き込まれている



「ルーファウスの字じゃない…」



手帳を軽くパラパラとめくる



「男の字だ…」



手帳のカバーの裏に、写真を見つけて引き抜く



「…誰の手帳だこれ…」



幼いルーファウスの隣に、知らない男が写っている写真


ルーファウスは楽しそうに笑っていて

隣の男は優しそうに微笑んでいる


「うわ…かわいいじゃん…」




外に人の気配がして、クラウドは慌てて写真をしまった




「クラウドか」



現れたのはツォン

クラウドの手の中の手帳を見て、顔色を変えた



「ここにあったのか…」

「アンタのか?」

「そうだ、返してもらおう」



クラウドは渡すと同時に、手帳を開いた



「この中の写真…」



ツォンは素早く手帳を閉じる



「見たのか」

「あれは誰だ…」

「…社長だ」

「隣の男は」



ツォンは一瞬不思議そうな顔をして、手帳を開いた



「ああ、これか」

「…それ以外にも写真あるのか…」

「…この社長の隣にいるのは、ヴェルド主任だ。前のタークスの主任だ」

「ルーファウスと関係あったのか?」

「社長に聞け。私には言えない」

「写真全部見せろよ」

「駄目だ」

「見せれない写真持ち歩いてることルーファウスに言うぞ」



ツォンは渋い顔で、写真を取りだした









ツォンが帰って、クラウドはルーファウスのデスクに腰をおろす

ツォンとルーファウスの付き合いの長さにスッキリしない

どのくらい昔から傍にいたんだろうか















「なあ、寝るならベッドをつかったらどうだ?」



ルーファウスの声で目をあける



「俺寝てた?」

「ああ。疲れてるか?」

「いいや」



立っているルーファウスを見上げ、クラウドは手をのばす

ルーファウスが指先でクラウドの指先に触れた



「今、子供のころのアンタが夢に出てきた。可愛かった」

「寝惚けてるのか?」



ふふ、とクラウドが笑ってルーファウスを抱き締める



「なあ、タークスの主任って、いつからツォン?
ツォンの前の主任ともアンタあんなに仲良かったの?」

「どうしたいきなり」

「なんとなく。子供のころのアンタ、夢でツォンじゃないタークスの主任と笑ってたから」

「…誰かに何か聞いたか」

「秘密」



くすりと笑ってルーファウスが自分のデスクに座った


はじめてみるその光景に、クラウドは目が覚めた



「ヴェルドといって、有能な男だった。そして…兄か父のような人でな。
幼い頃、私は彼に…懐いていたのかな」

「なんか意外だな」

「なにが」

「アンタが懐くって」

「ふふ」

「今は?」

「…元気、だ」

「会ったりしてるのか?」



ルーファウスは一瞬意識が飛んだように呆っとした

すぐに目の色に生気が戻り、笑った



「仕事と君で、忙しいんだ」



少しの変化に気付かない振りをして

クラウドは笑った



「子供の頃のアンタ、見てみたい」

「私も子供の頃の君が見てみたいよ」

「なあ、写真とか無いの?」

「無い。キミは?」

「無い」



ティファは持ってるんじゃないのか?

そう思うだけで、ルーファウスは口にせずに笑った



「子供の頃って、世界はもっと広いと思ってた」



ルーファウスを抱き上げながら、クラウドが歩き出す

ルーファウスは小さく声を上げるだけで、抵抗はしなかった



「思ったより狭いんだけど、知らないことは多い」



ルーファウスをベッドに放って、自分もベッドに転がる


ルーファウスは仰向けのままクラウドを見る

クラウドはうつ伏せで、肘をマットにつけて状態を起こしている



「人も多い」



黙るクラウドを、ルーファウスは見上げる



「アンタ、初めて会った時さ、父親死んだっていうのにいきなり演説したよな」

「はは」

「頭がおかしいんだと思った」

「この通りだ」

「アンタって未だに読めない」

「そうか?わかりやすいだろう」

「まさか、わかんない」

「至って普通だ」

「ないない」



ルーファウスはクラウドから視線を外して、天井を見上げた



「そういえば・・・」



ルーファウスの言葉が続かず、クラウドがルーファウスを覗き込む



「なに?そういえばなに?」



ルーファウスは突然笑い出してクラウドの肩を叩いた



「言う事忘れた、本当に」

「おいおい大丈夫かよ」



つられてクラウドも笑った



「あんた、笑うようになったよな」

「そうか?」

「ああ。いつも楽しそうに笑うようには笑ってなかったから」



不思議そうにクラウドを見上げるルーファウスを
クラウドが撫でた



「オレ、ずっとあんたはどっか心に欠陥があると思ってた」

「随分な言い方だな」

「そう見えるよアンタ。でもそうじゃないんだってわかって、好きになってた」



未だにそういう言葉には慣れない

ルーファウスは顔をしかめた



「素直に喜べないの?好きだって言葉に。オレはアンタから聞きたいんだけど」

「縛るような行動や言葉は遠慮する」

「じゃあ、例えばオレが違う誰かを抱いたりキスしたりしてもいいのかよ」



突然枕でクラウドの顔を殴って

ルーファウスはそのまま突っ伏した



「止めはしないし、追いもしない。好きにしろ」

「…イヤじゃないのかよ」

「私がどうこう言ってどうする」

「・・・オレら恋人だろ?」

「ば・・・」



顔を上げたルーファウスの表情は強張っている

クラウドは笑ってルーファウスを抱き締めた



「素直だなアンタ」

「なにが」

「反応。オレはアンタが他の誰かに抱かれたりしたら許さないぞ」

「好きにしろ」



抱きつくルーファウスの腕、それが答えだと思った

クラウドは満足そうに微笑んでルーファウスにキスをする



「死ぬまで、一緒にいてやる」



ルーファウスは鼻で笑ってクラウドの胸を軽く殴った



「仕事の契約以外の先の約束はしない」

「今のオレの気持ちだよ」

「もうそういうの聞きたくないんだが」

「ひねくれ者」

「褒め言葉だな」

「ルーファウス、愛」

「クラウド!」



ルーファウスの手がクラウドの口をふさぐ

表情が変わったルーファウスを見て、クラウドは口を閉じる



「何で言わせないんだよ」

「なんで言いたいんだ、嫌いだそういう言葉も、キミのそういう所も」

「なんで」

「私がそういう人間だからだ」



そういうとルーファウスは毛布を自分に巻きつけた



「ルーファウス、話しろよ」

「寝る」

「ルーファウス!」



勢い良く顔を上げ、ルーファウスがクラウドを睨む



「苦痛なんだ、本当に」





















「ルーファウスって、一体なにがあったんだ?」



目の前のツォンに問いかけると、ツォンはクラウドを睨んだ



「意味が、よくわからないんだが…どういう意味だ?」

「・・・なんでもない」



クラウドの携帯のコールが鳴る



「ルーファウス?」

『今どこだ?』

「アンタんち」

『そうか、これから予定は?』

「ないけど、どうした?」

『買い物に来たんだが、迎えに来てくれ』

「はあ?アンタ車で行ったんじゃないのか?」

『送ってもらったんだ。レノとルードに』

「わかった、行くよ、まってろ。…どこ?」









































喫茶店で紅茶を飲むルーファウスにそっと近付いて

突然抱き締めると

ルーファウスは胸から銃を取り出した



「…クラウド・・・驚かさないでくれ」

「…とりあえず銃しまえって」





ルーファウスの荷物を持って、クラウドがルーファウスの手をつなぐ

ルーファウスはすぐにその手を離してクラウドの額を叩いた



「今日は人が多いから、繋がなきゃはぐれるぞ」

「繋げるか馬鹿」



ぴたりと足を止め、ルーファウスが複雑そうな顔でクラウドを見る



クラウドはルーファウスの心中を読み取ろうと必死に考えをめぐらせ

諦めた



「どうしたんだよ」

「…きみは誰とでもそうするのか?」

「は?」

「いや、はぐれないようについていくから、ゆっくり歩いてくれ」

「ああ、わかった」



休日で、いくつもイベントがあるらしく

街はこんなに人がいたのかというほど人で溢れていた



何度かはぐれそうになる度、クラウドはルーファウスの手を引っ張った



「どうせ誰も見てないから、やっぱり手繋ごうぜ。危ない」

「手を繋いだら危ない人だ」

「車椅子に乗っててくれたほうが楽だったな」

「確かに」

「抱き上げていいか」

「わかった、では私も一緒に荷物を持とう」

「そのほうが恥ずかしいと思うぞ」



ルーファウスは眉間にしわを寄せて、クラウドの手首を掴んだ



「あんたなー」



クラウドが笑いながらルーファウスの手を掴むと、歩き出した



速い歩調にルーファウスは慌てて足並みをそろえようと

クラウドの手をしっかり掴んだ






「クラウド!」



突然のティファの声に手を離してしまったのはクラウドの方だった



「どうしたの?買い物?」

「ああ、まあ…ティファは?」

「買い出しだよ。もう、人が多くて大変。あ、もしかしてルーファウスと一緒?」



はっとして辺りを見回すと、ルーファウスを見失った



小さくティファの声が聞こえると

ティファがしゃがみ込んでいた



「おい、大丈夫か?」

「うん、転んじゃった。早く帰らなきゃ、クラウドも気をつけてね。
たまには…顔出し…」



突然クラウドの携帯が鳴り、クラウドが驚いてディスプレを見た



「おいルーファウス、どこだよ」

『買い忘れたものがあった。少し時間かかるからどっかで待ってろ』



それだけ言うと、電話が切られた











ルーファウスはすぐ隣のビルの窓から

クラウドがティファの手を引いて家に戻るのを眺めた







2時間くらい後、クラウドの携帯にルーファウスからメールが届く


―――どこにいる―――



そのメールを見ると、着信が1件、1時間くらい前に入っていた


「もしもし、ルーファウス今どこだ?」


『電話をしても繋がらなかったから帰る所だ』


「悪い、着信に今気付いたんだ。メールより前に電話くれてたんだな」


『そうか、キミはいまどこだ?』


「セブンスヘブン」


『そうか、どうする?わたしは一人でも帰れるから・・・』


「どこだよ、待ってろ、行くから」
















「見つけたー」



突然後ろから抱き締められ

ルーファウスが身を硬くする



「やめろ」

「帰るか」



クラウドがルーファウスの手を掴む

ルーファウスは一瞬手を引こうとしてやめた



「どうした?」



クラウドがルーファウスを見ると、ルーファウスが力なく笑った



「いや、人ごみで疲れたんだ」





ルーファウスはクラウドの手を握り返すことが、できなかった
















クラウドはルーファウスの手をうっかり振りほどいた事には気付いています
でも「あ、悪いことしたな」って思うのは少し後のこと

2009・5