愛しさに至るまで





夏だというのに寒い日が続く


クラウドはスッキリしない曇り空を見上げた


「憂鬱になるね」


後ろからティファが声を掛ける

クラウドは頷いて振り返った


「神羅から、仕事入ってるけどどうする?」

「どんな?」

「仕事でイリーナがケガしたんだって。それで、急遽届け物をして欲しいって」

「誰からだ?」

「ツォンが、まず自分の所に来て欲しいんだって」

「どこにいるんだ?」




そこは戦場だった

ケガが深いらしいイリーナを病院へ、という依頼だった




イリーナを病院へ届けた後、クラウドはルーファウスに電話をした


「アンタ部下が怪我して入院って時にドコに居んだよ」

「…なんだって?」

「イリーナが負傷してツォンが俺に仕事を依頼してきたんだ。
イリーナを病院に届けろって。アンタ何やってんだ」

「…病院はどこだ?」

「アンタらが使ってる所だから手続きは済んだ」

「戦地はどこだ?」

「…自分が命令したんじゃないのか?」

「今日は・・・二人は休暇の筈なんだ」

「どういうことだ?」

「イリーナの容態は?戦地はどこでツォンは1人か?」

「イリーナは大丈夫だろうけど、戦わせられるほど元気じゃない。
意識はしっかりしてるよ。ツォンは・・・」


ツォンの居場所を伝えると ルーファウスはため息をついた

電話越しにルーファウスの苦い顔が頭に浮かぶ


「どうなってんだ?」


クラウドの問いに ルーファウスは「手間をかけたな」とだけ言った


「ツォン一人の手に負える状況じゃなかったぞ」

「私もそこへ向かう」

「アンタじゃ足手纏いになるんじゃないのか?」

「…クラウド、改めて仕事の依頼をしてもいいだろうか」

「じゃあどういうわけか説明しろよ。今アンタん家の前についたから」


ルーファウスが窓からクラウドを確認すると
すぐに出てきた


「乗れ」





ツォンの所に向かう

その道中ルーファウスはクラウドのバイクの後ろで
話し始めた


「今戦場になっているそこは、以前私が身を潜めていた場所だ。
そしてそこに私は、大切なデータを隠した。
私しか引き出せないのであまり不安は無かったのだが
明日私はそこへデータを取りに行こうと思っていた。
それをツォンに、昨日言っていたんだ。
ツォンは危険が無いか、先に行ったんだろう。
そこに何者たちかが巣食っていたのかどうなのかはわからんが…
戦地になっているなんて」

「データを誰かが嗅ぎつけてたのか?」

「わからないが、恐らく」



ツォンのいるそこへ到着すると

ルードとレノも参戦していた

相手の数は膨大だった


「社長!危険だぞ、ってクラウド!」


レノが表情を明るくすると ツォンが申し訳なさそうにルーファウスに礼をした


「すみません…」

「状況は?」

そうルーファウスが言うと ツォンがクラウドを見てからルーファウスを見た

「クラウドには話した。大丈夫だ」

「奴らは元ソルジャーや、傭兵や、とにかく戦力になる者で構成されています。
数は次々に湧き出てくるのでわかりません。
データの在り処までは嗅ぎつけていないようです」

「やはり狙いはソレか」



クラウドが戦陣に立った途端 戦場の空気が一変した

たった3人で抵抗を続け ギリギリだった状況は突然優位になった


「ルーファウス!探しモノどこだ!」

「そこにいるやつらの真下だ」

ルーファウスが指を差した場所をクラウドが一掃する

ルーファウスはそこへ行き 地面に手をかざした

扉が出てきて、開いた


「魔法?」

「私の指紋に反応したんだ」







「クラウドが来た途端、アッサリだったぞ、と」


大事をとって入院させられたイリーナの病室でレノが笑った


「でも、よかったです、社長にお怪我が無くて」

「タークスといえどイリーナは女だ。気をつけろ」

ルードの言葉にイリーナが笑う

「女といえどタークスです!差はありません!」

「すまないイリーナ。私のせいで」

「ツォンさんは悪くありません。私が無理に付いて行ったんですから!」

「勝手なことをしたキミ達二人は謹慎処分だ。
イリーナは一週間、ツォンはイリーナを怪我させたので一週間看病だ」

「社長、そんなに休めません!」

笑いながらイリーナが言うと ルーファウスは苦笑してイリーナを見た

「せめてキミはゆっくり休め。ツォンは用事が出来たら呼び出すから
それまではイリーナに付いていろ」




ルーファウスが他のタークスより先に病室を出ると
クラウドが立っていた


「報酬は・・・振り込む。大活躍だったな。さすが、敵わない」

「別に報酬を待ってるわけじゃない」

「わかってる。私を自宅に送り届けるまでが任務だろう?」

「そうだったのかよ」


ルーファウスがふっ、と笑う

クラウドが苦笑した


「タークスはアンタが好きだな」


ルーファウスが目を丸くしてクラウドを見る
そして笑った


考えたこと無かった そんな事


「そうなのかな、そうなのかもな」










ルーファウスがクラウドを家へ招き入れると
クラウドは「ビールかなんか無い?」と冷蔵庫を開ける


「好きに飲んでいいよ」

「ビールあるじゃん。酒ばっかりだな」

クラウドはビールを飲みながらルーファウスの行動を見ている


「アンタの指紋でしか開かない場所にあるから
データは無事だと思ったのか?
あそこが破壊されるとかそういう心配は無かったのか?」

「ああ。もしあの場所が突破されても、このデータは故意的に破壊しておいた。
これを復旧させられるのも私くらいだと思っていたからな」

「アンタそういえば機械に強いんだっけ」

「まあ、普通以上の知識はあるな。
私がキミに勝てるのはそこだけかな?」


ルーファウスは簡単な作業を終えると クラウドの向かいに腰を下ろした


「今日は助かったよクラウド」

「考えてみれば俺神羅の味方してよかったんだろうか。
そのデータが危険なものならアンタを守った事を後悔する」

「データ自体はね、神羅の記録とか、そういうのだ。
危険なものではないが、こういう記録を欲しがる輩は少なくない」

「へぇ」

「結果キミが私を恨むような仕事を、私はキミにはさせないよ」

「・・・なんで、だよ」

「そんな事をしたら キミは全力で私を消しにかかるだろう?」

「ああ…そうだな」


コーヒーを飲む手を止めて ルーファウスが外を見た
クラウドも外を見て、そしてぼやいた

「肌寒い夏だな。夏なのにこうだと、スッキリしない」

「夏が好きなのか?」

「そうじゃなく、夏は暑いもんだろ?」


ルーファウスが苦笑して頷いた


「それもそうだな」

「何で笑うんだよ」

「いや、暑いよりこのくらいの気温が好きなだけだ」

「ヘンなヤツ。夏は暑い太陽の下で海だろ海」

「有意義な時間の使い方だな」

「アンタもコスタで遊んでただろうが」

「よく知ってるなあ」

「サーフィンとかしたり女ナンパしてたんだろ?」

「ナンパはしていないよ。その発想なんか下品だな」

「じゃあナンパさせたのか?されたとか」

「女遊びはしていないって」


クラウドはルーファウスをじっと睨んで
ビールに目を落とした


「寄ってくる女はすごかっただろ」

「そうだな。神羅目当てにな。男も女も」

「男も?!」

「変な想像するなよ。仲良くしておけば、と甘い蜜を求める輩な」

「ああ、そういうことか」


でも、下心あって寄ってくる男も居たんじゃねぇの?
クラウドがぼそっと呟くと ルーファウスは困った顔で聞こえないフリをした

クラウドがルーファウスに向き直る


「アンタのさ、その傷ってナニ?」


ルーファウスが反射的に手首を隠すように掴む


「深いよな?自分でやったのか?」


「…以前、誘拐されてな、そこで変な男が居て
つけられたんだ。すぐに治療できず痕が残った」

「誘拐?いつ?副社長の時とか?」

「いいや、星痕を発症する少し前」

「そんな昔じゃないのか…やっぱ誘拐とかされるんだ」

「飽きるくらいある」

「その男って?」

「もう死んでる。彼のことを覚えている人はあまりいないかもな」

「仲が良かったとか?」

「まさか、知らなかった」

「変な男って、どういうヘンだよ」


ルーファウスは困ったように考え込み 首をかしげた


「悪趣味な軍人だった。獣の様な男だった」

「毛深かったの?」

「そうではなくて」


ルーファウスが笑う


「襲われたのか?」

「まあね」

「ヤられたのか?ヤらされたのか?」

「何を言うかなキミは」

「そういうんじゃなく?」

「何だか馬鹿らしい話をしていないか?」

「答えられないってコトはやっぱヤったんだな」

「私は丁重にお断りしたんだが」

「ヤられたと」

「人が痛みにもがく姿を喜ぶ趣味だったんだ。だから傷を」

「…俺さ、男とは経験ないんだけど」

「いきなり何を言うのかな」

「アンタは、そういうのよくあんのか?
上流階級ではよくあるって聞いた。ソルジャーの中でもよくある話だった」


ルーファウスはあきらかに嫌そうな顔をしてクラウドを見た


「アンタ見てるとわかる気がする。アンタ、変ななんか、あるよな」

「なに?」

「フェロモンみたいな、雰囲気っていうか」

「抱いて欲しいのか?」


わざと真剣な顔でクラウドを見ると
クラウドが真剣に返してきた


「逆」


ルーファウスは目を丸くして 言葉をなくした


「抱かれるほうが多いんじゃないのアンタ」

「なにを、いうのかなキミは」

「そういう雰囲気…アンタはどうなんだ、男相手って」

「いや、あのな、クラウドなにを言っているのかわかってるのか?」

「今日アンタが俺の後ろに乗った時さ、変な感じだった」

「いつも幼馴染を乗せているからか?」

「そういうんじゃなく、なんか変な気分になった。アンタと話しててたまになってたんだ。
その気持ちがわからなかったんだけど、そういうコトだ」

「酔ってるだろ、もう寝ろ。客間使っていいから寝ろ」

「逃げんな」


確かに酔ってる、でも、正常に頭動いてるつもりだよ、と
クラウドが言うと ルーファウスはため息をついた


「逃げてない、酔っ払いめ」

「酒は回ってるけど、そこまで酔ってない」

「見せろ、傷」


ぐっと手首を引っ張られ ルーファウスは転ぶようにテーブルに片手をついた


「やめろ、見てどうす・・・」


クラウドがその傷を舐めた途端 ルーファウスがクラウドを殴った


「何をする!!」

「殴るなよ・・・」

「酔っ払いめ」

「今日これからはタークスとか誰か、来たりしないのか?」


ルーファウスはソファに座りなおしてクラウドを見た


「今日?来ないが、用事があるなら呼ぶか?」

「いや、ないけど」

「…疲れが見えるぞ、顔に」

「まあ、疲れてるかな」

「寝たらどうだ?」

「そんなに俺を寝かせたいのか?アンタ一緒に寝てくれんの?」


ルーファウスが苦笑する


「一人で眠れないなら横に居てやろうか」

「ああ」

「…本当に1人で眠れないのか?」


クラウドが頭を掻いてルーファウスを見る


「寝れるけど、誰かと一緒なら、もっと寝れる」

「幼馴染は一緒に寝るのか?」

「寝ないっての」


クラウドは残りのビールを一気に喉に流し込み
ルーファウスに手を出した


「寝室、行くぞ」

「ちゃんと寝るんだろうな?」

「寝るって」





客間は適温に保たれており 暑くも寒くも無い

クラウドは上を脱いで布団に入った

ルーファウスは少し驚いて 横の椅子に腰をかけた


「なんだよその顔」

「いや、なんでも」

「なんかヘンかよ」

「いや、少し驚いた。思ったより鍛えているんだと」

「戦ってると自然につくんだよ筋肉って」

「戦わなくなったら?」

「筋トレ。アンタは鍛えてるのか?」

「いいや」

「だよな、守られる立場だもんな」


クラウドがルーファウスの腕を引っ張ると
ルーファウスはバランスを崩してベッドに倒れこむ

クラウドはそのままルーファウスを布団に引き込んだ


「何をする!」

「いちいちうるさいなアンタ」


そのまま抱き締められる

ルーファウスは様子を伺うように黙った

クラウドがルーファウスの首筋から肩へと 服の中に手を入れる

ルーファウスは身体に力を入れて目を閉じる


「そこまでにしておけよクラウド。朝起きて後悔するぞ」

「どうだか」


クラウドがルーファウスの肩口から耳へと唇を滑らせる

ルーファウスは小さく身体を反応させて声を漏らした


「クラウド、本気なのか?」

「冗談でここまでしないだろ?」


ルーファウスに覆いかぶさるように
クラウドがルーファウスを見下ろしながら服を脱がしていく

ルーファウスは苦笑して クラウドの胸を撫でた


「抵抗しないのか?」

「しないよ、キミなら別に、いいかな」

「腰立たなくなってから後悔するなよ」

「男相手は初めてではないのか?」

「初めてだけど、やり方は同じだろ?」

「でも」

「いいから、黙れ、ルーファウス」


クラウドがルーファウスに口付けをすると
ルーファウスは何ともいえない顔で目を伏せた


「アンタ睫毛長いな」

「久し振りに何だか、恥ずかしいんだが」

「俺もだよ、俺も充分恥ずかしいし、興奮してる」


見上げたクラウドの顔は 本当に恥ずかしそうに
しかしルーファウスをしっかりと見ていた




















「なあルーファウス、アンタ、俺のものになれよ」


ルーファウスを抱き締めながら寝入るクラウドに
ルーファウスは複雑そうに笑った


「起きてからきっと、後悔するぞクラウド」










案の定 クラウドは目を覚まし腕の中のルーファウスを見て頭を抱えた

ルーファウスは苦笑して起き上がる


「忘れてやるから、悩むな」

「いや・・・」


そう言ってルーファウスを引き寄せると クラウドは目が合わないように
ルーファウスを抱き締めた


「覚えてるって。酔った勢いだったけど、俺別に・・・」


ルーファウスがずり上がり クラウドの両頬を優しく掴んだ

自然と目が合う


「後悔はしていないとでも?」

「してないって。ただ、想像以上に恥ずかしくて」


ふっ、と笑うルーファウスに一瞬見惚れて クラウドは顔を背けた


「で、アンタが後悔してんのか?」

「してないよ。酔ってもいなかったし」

「あ、そ」


そう言ってクラウドがルーファウスの腰を撫でながら肩を舐めると
ルーファウスは身体を反応させて笑った


「やめろ、朝だ」

「誰か来るか?」

「・・・いや・・・」

「じゃあ、いいんじゃね?」



そのまま行為を続行するクラウドの背中に
ルーファウスは笑いながら手を回す
















外は昨日までが嘘の様に晴れていた

















何かグダグウダだな〜
よく笑う社長だなぁ。

2012・6